草凪澄人の影響力⑧~∞スライム討伐~

 聖奈が剣を鞘にしまいながらスライムを見ているが、外見からは中に1匹いるようには見えない。

 寄生しているスライムを倒したら瞬時に回復して、∞スライムまで攻撃が通らないように永遠に回復を続けている。


「このスライムを倒さなきゃいいんじゃない?」

「そんなんでうまくいくのかな?」

「やってみようよ。私には見えないけど、このスライムの中にもう一匹何かがいるんでしょ?」


 スライムへ雷を走らせて始めて超高速で動き回る∞スライムを感知できる。

 動きが早すぎて網では確保できないため、直接腕を突っ込んで握ってみることにした。


 そのまま腕を突っ込むと強力な酸性のスライムに腕を溶かされるので、腕を雷で覆う。


「これでつかんでみる」

「お兄ちゃんならできるよ」


 網に手で触れるとその部分だけ雷の魔力を回収して穴を開ける。

 出られないように雷の魔力の隙間を無くし、スライムの体の中をまさぐった。


「駄目だ……手でつかめそうにない……」

「どうしようか……」


 感知はできているものの、速くてつかめず、いじくりまわしていたら寄生されているスライムが死んでしまう。

 諦めて手を引き抜こうとしたら、∞スライムの行動が一瞬止まってからスライムが復活した。


 気のせいかと思ったので、もう一度雷を流してスライムを倒したら、確かに復活させるときにほんの少しだけ∞スライムが止まっていた。


(これでつかめるか?)


 空いているもう左手もスライムの中に突っ込み、雷を流し続ける。

 すぐに∞スライムが停止して復活を行おうとするので、右手でつかんだ。


「よし! つかんだぞ!」

「すごいよお兄ちゃん!!」


 手のひらよりも小さな∞スライムを握りつぶすと、周囲のスライムの残骸が消え始める。

 俺が手を突っ込んでいたスライムも消え、最後に右手の∞スライムが消滅した。


【ミッション達成】

 ユニークモンスター【∞スライム】を討伐しました

《山の鍵》を授与します


(山の鍵ってなんだ?)


 右手の∞スライムが消えると同時に画面が表示され、アイテムボックスに山の鍵が入れられていた。

 どこで使うのか見当もつかない物を見ようとしたら、聖奈が慌てて俺の手を取る。


「お兄ちゃん、まだ終わっていないよ! みんなを助けに行かないと!!」

「ああ、そうだな!」


 山の鍵の詳細を見るのを後にして、雷で周囲の探索を行いながら森を出る。

 先生たちが無事に水守さんたちと合流して、モンスターと戦っているようだった。


(もうほとんど残っていない。先生が倒したのか?)


 最初に感知したときよりも数がだいぶ減っており、近くにきた時には戦闘が終わってしまっていた。

 それでも、負傷者がいたら治療を行いたいので、合流すると全員無事に見える。


「そっちは無事のようだな。澄人を行かせて正解だった」

「ありがとうございます」


 地面に座っている先生が余裕そうな顔を浮かべて俺に声をかけてきた。

 先生の後ろに水守さんたちがいるので、ひとまず安心した。


 しかし、水守さんが俺の後ろを歩いている聖奈へ目を向けると、気まずそうに顔をそらす。

 ほとんど全員が聖奈の方を見ようとしないので、1対その他という分かれ方になっていたことに原因があると考えた。


(普通はそんなことにはならないからな……聖奈が強引に一人になったんだろう)


 先生が立ち上がって帰るために歩き始めたので、話易そうな草地くんと歩調を合わせる。


「ねえ、何があったの?」

「聖奈さんのことだよね?」


 草地くんは俺が質問をしただけで聖奈のことだということを察してくれており、周りに聞こえないように俺との距離を縮めた。


「二つ目のモンスターの群れが見えた時、聖奈さんが【私より弱いやつの指示は聞かない】って言って、1人でスライムの群れに突っ込んだんだよ」

「それでこんな雰囲気に?」


 聖奈が勝手に行動しただけなら、あいつに対して怒りが湧くはずだが、そんな風には見えない。

 むしろ、水守さんは何かを後悔しており、水鏡さんにいたっては合流してからまともに顔を上げていなかった。


 それを踏まえて草地くんの言葉を待っていたら、水守さんと同じような顔をする。


「……正直、ゴブリンの群れで精一杯だったから……誰も聖奈さんと一緒に行くことができなくて……」

「後悔している?」

「そう……だね……後悔かな。なんでもっと強くないんだろうって……」


 悔しそうに拳を握る草地くんはそれ以上俺に顔を見られたくないのか、前の方へ早足で向かっていく。

 残された俺の周囲には上級生しかおらず、誰も話しかけてこない。


(この方がやりやすいしいいか)


 歩きながら魔力に集中して、周囲を雷で索敵を始めた。

 目立ったモンスターは存在していないため、時間潰しのためにアイテムボックスを表示させる。


(山の鍵ってなんなんだろう)


 ボックス内に入れられた鍵の詳細を見ると、思わず首を振ってしまった。


【山の鍵】

 王の山へ入ることができる鍵です


(王の山なんてどこにあるんだ?)


 表示された内容は鍵についての説明だけで、山の位置などの記述がない。

 アイテムボックスの中で眠りそうな予感がしてしまい、同じようにポイントショップにある【水の鍵】も同じようなものなのかと勘ぐり始めた。


(鍵類は今のところ買わない方がよさそうだな……水の鍵は5万ポイントもするし……)


 アイテムボックスを眺めながら歩いていたら、誰かが俺の横にスッと体をよせてくる。


「澄人くんが無事で良かったよ」

「先輩もお疲れ様です」


 表示させていたものを消していると、天草先輩の声が聞こえてきた。

 お互いに無事を確かめてから、先輩の表情がキリっと引き締まった。


「他の部員が聖奈さんに無理をさせたみたいだけど、大丈夫かな?」


 後ろを歩いていた上級生から話を聞いたのか、天草先輩も聖奈のことを気にかけてくれていた。

 一緒に戦った感じではそんなことを気にしている様子がないので、何度かうなずいてから返事をする。


「特に変わったことがないので、大丈夫だと思います」

「そう……よかった……」


 異界を出るまで天草先輩から部活動の活動内容について詳しく教えてもらい、門の外に着くと同時に先生が入部の手続きについて説明を始めた。

 最後に質問がある者と言われたので黙って立っていたら、いつの間にか誰かが俺の背後に来ており、先生がその人を見る。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


カクヨムコンに応募しております。

応援よろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る