草凪澄人の影響力③~充電~

 剣へ最低限の充電が完了し、再び剣を振ろうかと思ったら、最初の攻撃で他の3人がひるんでこちらに来ない。

 ただ何となく普通に近づくのは芸がないと思ったため、天翔を使用して空中を駆けた。


「うわあああああああああ!!」


 俺が空を走ると、動揺した相手が俺を近づけないように剣をぶん回している。

 そんなものに当たる訳がなく、至近距離に近づき、帯電している剣を振り上げた。


「お静かにしていただけますか?」

「あががががががががが!!」


 剣を持っていた在校生に雷が直撃して、壊れた機械のようにカクカクと動いた後、その場へ崩れるように倒れた。

 残りが杖と槍を持っている2人になった時、在校生側の壁から声援が聞こえてくる。


 しかし、それでもまだ立っている2人は、悶絶しながら倒れた仲間を見て、足がすくんでいた。


「応援されていますよ。かかってこないんですか?」

「え……その……」


 最初のように火の弾を飛ばすこともなく、残っている相手は戦意を喪失してしまっている。

 これ以上の戦いに意味はないと判断して、剣をアイテムボックスへ仕舞う。


「先輩方はもう戦えませんよね? 降参するならもう何もしませんよ?」


 俺が手を軽く広げて提案をしたら、2人ともその場に武器を置いて両手を上げた。

 小さい声で降参と言うので、周りにも聞こえるように大きな声で言ってもらうように頼む。


「司会の人へ聞こえていないので、もっと大きな声で降参しますと言っていただけますか?」

「「降参します!」」


 2人が叫ぶように降参すると、周りの生徒が信じられないような目をこちらへ向けてきた。

 制服にまとわせていた雷を解放して、倒れている3人へ治療を行いにいく。


 雷で痺れているだけなので、数回治療Ⅰを行うだけで済む程度のダメージしか与えてなく、身体的な欠損はしていない。

 その行為さえも珍しいのか、人が起き上がるたびに拍手が聞こえてきた。


「い、以上で対面試合を終了します! 在校生のみなさんは退場してください! 新入生は10分の休憩後、部活動紹介があるので、最初に並んだ位置へ戻っておいてください」


 司会の人が焦りながら今後の予定についてマイクで連絡をしているのを聞きながら、聖奈たちのところに戻る。

 聖奈以外のクラスメイトも他の人と同じような目をしており、口を開けながら俺のことを見ていた。


 それも気にせず聖奈へちゃんと手加減ができたことを自慢する。


「剣も折れなかったし、相手も黒こげにならなかったから、少しは上手になっているだろう?」

「お兄ちゃんならできるって信じていたよ!」

「身代わりの宝玉を使っているから状態異常が精神的に一番効くって聞いて、実践してみたけど本当みたいだね」


 上機嫌にもろ手を挙げて喜んでくれている聖奈の笑顔が一変して、俺の後ろを睨む。

 そこには先ほど戦った人たちが気まずそうにこちらへ来ており、代表らしい男子生徒が俺へ近づいてきた。


「草凪くん、治してくれてありがとう、完敗だよ」

「いいえ、できることをしただけです……先輩方は本当に在校生の代表なんですよね?」


 申し訳ないが、あまりにも戦闘慣れしていないため、そんなことが頭によぎってしまった。

 それを聞いた後ろの生徒が悔しそうに下唇を噛み、眉をひそめて俺を見てくる。


 俺へ話しかけてきた先輩は申し訳なさそうに首を縦に振った。


「そうだ。年度末に行われた実技試験の成績上位5名がここにいる」

「なるほど……よくわかりました。今日はありがとうございました」


 俺の聞きたいことは終わったので、頭を下げて離れようとした。


「私から1点質問してもいいですか?」


 頭を上げると聖奈が俺の横に立って、気まずそうに立っている奥の上級生を見つめる。


「始まる前にお兄ちゃんを見て笑っていたでしょう? どうしてなの?」

「そ、それは……」


 聖奈がすごみながら質問をすると、すくみ上って泣きそうな顔になる。

 さらに数歩近づいた時、手前の先輩がごめんと言いながら聖奈へ頭を下げた。


「先生が今年のAクラスには空間魔法が使えて、雷を自在に操る化け物級の生徒がいるって冗談交じりに言っていたんだ」

「それで?」

「それで……」


 先輩は俺をチラリと一瞬だけ目線を移して黙ってしまったため、聖奈が腰に手を当てて顔を覗き込むように近づける。

 すると観念したのか、先輩はふーっと息を吐いてから言葉を漏らし始めた。


「【有名】な草凪澄人くんの姿が見えたから……その……」

「先生の言葉を冗談と受け取って、余裕だと思ったんですか?」


 先輩が無言でゆっくりとうなずき、俺と目を合わそうとしない。

 ただ、今回のことで総合学科の在校生全員に俺の力を示すことができたので、これからはそんなことをされる心配はないだろう。


「聖奈、もういいよ、ありがとう。雷を自在に操るなんていきなり言われても信じることができる人の方が少ないよ」

「あれでもお兄ちゃんは実力の半分も出してないんだからね!」


 まだ何かを言い足りなさそうにしている聖奈をなだめたら、最後に相手をぎょっとさせてから踵を返した。

 目を白黒させる先輩たちへ本当ですと一言伝えてから聖奈を追いかけようとしたら、休憩時間が少なくなってきたために新入生が並び始めていた。


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