草凪澄人の影響力①~苦悩~
【異界ミッション②:異界内でユニークモンスターを鑑定しなさい】
貢献ポイント:5000
(まったく見つからない!)
平義先生と異界に入った時に表示された異界ミッションを達成できずに2週間程が経った。
昨日の放課後も異界を探索してしまったため、次は来週まで入ることができない。
(異界に入れるのが1週間に1度なんて少ないよな……もっと入れる方法ないのかな……)
教室で次の授業の準備を行いながら異界について考えていたら、聖奈がなぜかハンタースーツを着て教室へ入ってくる。
教科書を取り出そうとした手が止まり、聖奈がなにをしているのか探ろうとした。
しかも、後ろから来た水鏡さんや水守さんも境界で戦うような準備をしている。
「あれ? お兄ちゃん、着替えないの? 授業が始まるまでもう時間ないけど……」
「次って国語じゃないの?」
質問をしている最中に、同じような赤いラインが入ったハンタースーツを着た草地くんも遅れて来たため、俺が忘れていたようだ。
水守さんがため息をつきながら黒板に貼ってあったプリントを取って、俺の机に置く。
「今日の午後は対面式があって、先輩が迎えにくるから、戦う準備をして待っておくようにって、ここに書いてあるわよ」
紙を見せられてももう着替えに行く時間はないので、制服のままやり過ごす方法を考える。
制服で境界に入ったことも何度かあるので、何とかなるだろうと思えてきた。
「……俺はこれでも大丈夫」
「強がりでしょ? 見ないようにしてあげるけど、ここで着替える?」
「いや、本当に大丈夫だから」
4人が不安そうに俺を見つめていたら予鈴が鳴るので、席に着かせる。
それとほぼ同時に廊下へ人の気配を感じ、出入り口の扉にある窓からこちらをうかがっている人が見えた。
「もう行けばいいのかな?」
「たぶんまだと思うよ……」
俺の左側に座る水鏡さんへ話しかけると、苦笑いをしながら答えてくれていた。
(戦う準備ってことは、これから上級生と模擬戦でもするのか?)
水守さんの置いてくれた紙を持って目を通していたら、【新入生歓迎対面式】と書かれている。
対面式を行う場所を見て、戦う気持ちになっておいた方が良いと思い始めた。
(普通科の人は体育館なのに、総合学科は地下の競技場に集まるのか……ヤル気だよな)
地下の競技場はハンターの訓練実習でよく使用しており、そこに行くときには大抵戦わされる。
紙には1年Aクラス対生徒代表と書かれているので、相手に誰が出てくるのか楽しみになってきた。
(3年生が良いな。2年間でどれくらい強くなれるのか良い指針になる)
同級生のBやCにいる人たちの能力を一通り見たが、対して目立つ人が居なかった。
階の違う上級生はあまり多く見かけていないため、今回はさすがに集まっていると思うので鑑定を使って覗いてみたい。
廊下にいる人が早く入ってこないかなと期待を込めて待っていたら、控えめにゆっくりと扉が開かれる。
「Aクラスのみなさんこんにちは、生徒会書記の天草です。準備ができたので――」
教室に入ってきたのは、前に死にかけたところを助けた天草先輩で、俺が制服姿なのを見て言葉が止まった。
俺の右側に座る水守さんはハァーっとため息をついて、椅子から立ち上がる。
「すいません、彼はこのままで大丈夫なようなので、気にしないでください」
「えっ!? そ、そうなの?」
天草先輩の後ろにいる上級生が怪訝そうに俺のことを見ており、気にせずに俺も立ち上がった。
「行きましょう。俺はこれで戦えます」
「……はい。では、競技場へ向かいましょう」
天草先輩を先頭に競技場へ向かっている途中、全学年の総合学科の生徒が集まっていると説明を受ける。
競技場へ出る階段を下りていくと、手前で無線を持った生徒が天草先輩を止めた。
「今年学期、Aクラスになった新入生です。大きな拍手をお願いします」
中からそのアナウンスが流れ、拍手が鳴り始めてから天草先輩が再び歩き始める。
その後に続いて競技場に足を踏み入れたら、さらに拍手が大きくなった。
地下の空間に拍手の音が反響し、手を打ち鳴らす音が絶え間なく聞こえてくる。
気だるそうに手を動かしている人はおらず、全員がこちらを向いて拍手をしてくれていた。
ただ、俺の制服姿を見て戸惑うような表情をしている人が多い。
新入生と在校生が距離を空けて向かい合うように並んでおり、天草先輩が止まったのはまさにその間だった。
多数の生徒に見つめられながら立ち止まると、自然に拍手が止む。
「ここで、新入生代表の挨拶をいただきたいと思います。草凪聖奈さん、お願いします」
ようやく、ここでなぜか聖奈が今朝から妙に緊張していた理由がわかった。
昨日の夜、1時間以上何かを言い続けながらお風呂につかり、普段勉強をしないのに俺へ暗記のコツなどを聞いてきていた。
数歩在校生の方へ進む聖奈の後ろ姿を見守り、心の中で応援をする。
聖奈はよしと小さい声を出してからマイクを受け取った。
「在校生のみなさん、はじめまして。今回、私たちのためにこのような会を開いていただき誠にありがとうございます」
何度も練習をしたのか、普段はこんなことをするイメージがない聖奈がゆっくりと頭を下げている。
場所的に頭しか見ることができないが、対面している在校生の表情を見るに、おそらく真剣に行っているのだろう。
「まだ、入学して2週間で右も左もわかりませんが、先輩たちの背中を見て――」
誰かと目が合ったのか、見渡すように動かしていた聖奈の顔がピタッと止まり、言葉も出てこない。
在校生も聖奈を見ながら困惑しており、司会の生徒も覗き込むようにこちらの様子をうかがっていた。
(誰がいるんだ?)
聖奈の視線の先には、緑と青のラインが入ったハンタースーツを着た人が笑いながらこちらを見ている。
おそらく、これから俺たちが戦う相手だと思われるが、どうやら聖奈はそれを目にして固まってしまったようだ。
(ちょっと黙っているのが長すぎるから、助けるか?)
聖奈へどう挨拶を再開させるか悩んでいたら、訂正しますと一言放った聖奈を会場にいる全員が見た。
「在校生のみなさんは、私たちの背中を見て鍛錬に励んでください。これから1年Aクラスの実力をお見せします」
挨拶が終わったというのに誰も拍手をしない中、聖奈が丁寧に在校生へ向かって頭を下げる。
予想だにしなかった言葉を聞いて一瞬遅れて拍手を行うと、水鏡さんが俺と同時に手を鳴らし始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カクヨムコンに応募しております。
応援よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます