草根高校新入生編⑫~自己紹介~
「えっと……看破は、私が視ている時に使われたスキルがわかるものです」
その説明で大体の効果がわかったものの、確証を得るためにさらに質問を続けた。
「視ていないとわからないの?」
「そんな感じです……目を閉じていたらわかりません」
「答えてくれてありがとうございます」
おそらく、俺の雷が予測されていたのはこの看破というスキルがあるからだ。
そして、天翔を行った時に聖奈へ慌てながら止まるように言っていたのは、表示されてもどんなスキルか分からなかったのだろう。
(自分の分からないスキルはちゃんと表示されるのかな?)
ただ、これ以上質問を行うと俺しか話をしないことになるので、視線を動かして俺のことを見ていた水守さんと目を合わせる。
質問をしてほしいと言う意味を込めて見つめていたら、水守さんは意図を汲み取ってくれたのか、チラリと水鏡さんに目を向けた。
しかし、困ったように眉を落とした水守さんから口の動きで無理と答えられてしまう。
(なんで無理なんだ?)
今まで水守さんができないとか言うのを聞いたことがなく、軽くショックを受ける。
教卓には次に何を話せばいいのかわからなくておどおどしている水鏡さんがおり、それを見た聖奈が大きく手を上げた。
「真ちゃんはどうして神格が1のままなの? ギルドにも入っていないし、水鏡家は境界に連れて行ってくれなかったの?」
「えっと……それは……」
答え難い質問だったため、水鏡さんが口を閉ざしてしまった。
時間も経ち、終わらせるために壁に寄りかかっていた平義先生が水鏡さんへ近づこうとした時、聖奈が何も気にしていない様子でさらに言葉をかける。
「今度一緒に境界へ行かない? 明日でもいいよ」
「……え?」
予想外の言葉をかけられた水鏡さんは聖奈を見て硬直し、平義先生も立ち止まって眉をひそめていた。
しかし、聖奈は動じずに水鏡さんを見つめている。
「競技場で守るって約束をしたから、少しでも強くなってほしいんだけど、どう?」
言い終わると同時に右ひじを机に付けながら手のひらを天井へ向け、水鏡さんの反応を待つ。
そんなことを約束していたのかと驚いて水鏡さんへ視線を移すと、この教室で一番驚いているように見えた。
「あれって……演習中だけじゃないの?」
「そんなこと言った? 私は真ちゃんにお兄ちゃんを倒すための協力をして欲しいから頼んだつもり」
辛うじて出てきた言葉もすぐに聖奈によって一蹴されてしまい、水鏡さんは口を開けたまま返答に困っている。
見かねた平義先生が近づいたときに、水鏡さんは聖奈の席の前に立つ。
「お願い聖奈さん。私を境界に連れて行ってくれる?」
「いいよ。良さそうな境界をお兄ちゃんに探してもらうね」
「……俺?」
2人が俺を見つめてきて、境界を探すという言葉に反応して、先生や他の2人も顔を向けた。
俺の順番だったので、そのまま自己紹介に移ればいいと思い、視線を浴びたまま教壇に立つ。
「真ちゃん、ここに座りなよ」
「う、うん……」
その間に水鏡さんが聖奈の近くにある席に座ってくれていたが、まだ先ほどのことを気にしているように見えた。
一呼吸おいて、4人の顔を眺めてから頭を下げて自己紹介を始める。
「草凪澄人です。妹が同じクラスにいるので、下の名前で呼んでくれると助かります」
水鏡さんから【くん】と【さん】で使い分けられて呼ばれて、正直どちらのことを言っているのか分からない時があったため、最初にこれを言うと決めていた。
ギルドやスキルのこと改めて説明してから、それ以外に自分のことを口にする。
「特に境界の発見が得意で、1日で10ヵ所以上見つけたこともあります」
驚いて欲しいのにぽかんとされてしまい、肩透かしを食らってしまう。
他に何か自分の特技を言った方が良いのか悩んでいたら、草地くんが初めて手を上げた。
言う事が無くて困っていたので、どうぞとうながして、草地くんの言葉を待つ。
「境界を見つけるって、観測センターよりも早くってこと?」
「1人の時は電話をかけて、確認してもらうかな……それで使わない境界は観測センターへ登録して、競売にかけてもらうんだ」
「そ、そんな制度があるんだ……」
草地くんが黙ったのを確認した先生が急に俺からもいいかと初めて口を開いた。
少し驚きながら返事をして、何を聞かれるのか待つ。
「4月までに清澄ギルドが発見した境界のうち、何割に澄人がかかわっているんだ?」
「去年の7月以降は全部俺だと思います」
「そうか……良くわかった……」
その後、境界を見つけるコツなどを話してから俺の自己紹介が終わる。
聖奈の自己紹介も俺と似たようなもので、ギルドの話や得意な武器について話をしていた。
全員の自己紹介が終わり、教卓の前に立って時計を見た先生はよしと言いながらこちらを向く。
「これでHRを終わりにする。各自荷物を回収したら帰宅するように、以上、解散」
水守さんは解散と口にした先生の視線にビクッと体を反応させ、とっさに椅子から立ち上がった。
「き、起立!」
そのまま水守さんが号令をかけて、満足そうに先生が退室していく。
俺も行くところがあるので、荷物を取りに行こうとしたら水守さんが立ちはだかってきた。
「澄人くん、親睦を兼ねてこれからみんなでどこかへ行こうと思うんだけど、どうかな?」
他の3人も俺たちのやりとりを聞いているように静かにしており、今後のためにはっきりと断っておく。
「誘ってくれてありがとう。でも、俺はまだ今日の日課が終わってないから、遠慮しておくよ」
「日課? 毎日やっていることなの?」
「1日もサボれないんだ、ごめんね。4人で楽しんできて」
そう言い残して教室を後にして、荷物を取りに更衣室へ向かった。
着替えをアイテムボックスへ入れるのを忘れていたので、それだけを回収する。
(よし! 行こう!)
校舎の裏手にある門へ向かい、管理をしている豊留さんがいるか確認をしようとしたら、後ろで足音が聞こえた。
「澄人、お前、何をしているんだ?」
信じられないものを見ているかのように驚いている平義先生は、門の近くにいる俺へ近づいてくる。
「Aクラスになったので、異界へ入る手続きに来ました」
「初日だぞ……それに、演習で疲れていないのか?」
「平気です。俺はこのためにAクラスになったと言っても過言ではありません」
「どうしても……今日か?」
「そうですね」
平義先生は俺を行かせたくないのか、引きとめるように話をしていた。
ミッションのことを伝えていいか悩み始めた時、門の方から声が聞こえてくる。
「もう手続きは終わっているから、いいわよ」
「どういうことですか!?」
警備室から出てきた豊留さんの言葉に、平義先生が嘘だろと呟きながら声を上げた。
「理事長からこうなると思うから、Aクラスが決まった時点で手続きをしておきました。さあ、草凪くんいってらっしゃい。大切なことなんでしょう?」
「ありがとうございます」
そんなことを気にせず、俺を豊留さんは門の方へ向かわせてくれた。
頭を抱えた平義先生は、数秒間俺を見た後、肩をつかんできた。
「装備を取ってくるから、10分待っていてくれ」
それだけを言って、平義先生は校舎へ走って戻って行く。
豊留さんは三つ編みの髪をひるがえして、1人追加申請かと呟きながら警備室へ戻る。
俺は門の前にいることで、ようやく高校生になったと実感してくる。
(これから学校生活が始まるのか)
先生を待ちながら、これからどんな高校生活になるのか楽しみになってきた。
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