草根高校新入生編⑪~Aクラス担任、平義~

 先生は俺が座ったのを確認すると、背後にある黒板を向き白いチョークで字を書き始めた。


【平義】


 そう書かれた2文字を見せられながら、先生が教卓へ手を乗せる。


「今年、1年Aクラスの担任をすることになった平義ひらぎだ。去年まで中学に勤めていて、その前はハンターとして活動していた」


 平義先生はそれからHRを始めると言い、教卓の足元に置いてあった箱から物を取り出して配り始めた。

 学校の年間行事予定や生徒手帳などを配られ、机の上が散乱してくる。


(整理する時間がない)


 生徒が5人しかいないので忙しなく配布物が配られており、書いてあることを読む時間もない。

 後でまとめて説明するのかと思いながら受け取っていると、ため息をついた先生が教卓に戻った。


「各自、今配られたものへ目を通しておくように」


 けだるそうにそう言う担任を見て、中学の時もこんな感じだったなと振り返る。

 紙をまとめていたら、荷物が手元にないので仕舞うことができない。


「先生」

「どうした、澄人?」

「荷物を取りに行く時間はありますか?」


 手を上げて質問をしたら、先生は黒板の上にある丸時計を見ながら口を開ける。


「あー……今はCクラスが取りに行っている時間だが、気にしないなら行ってもいいぞ」

「振り分けられた時間に行きます」

「それが良いだろうな」


 ちなみにと言いながら先生が俺たちの荷物を取りに行く時間を確認したところ、後30分以上待たなくてはいけないようだ。

 本来なら学校生活や行事について話があるんだろうなと、プリントへ目を通しながら思っていたら、先生がこれだけは言っておくかとつぶやいた。


「このクラスは、夏休みまで変わらない……が、夏休みの中旬にクラス替え演習があるから、そこでBやCに落ちないことだな」


 Aクラスが他のクラスと違う点はまだ説明されていないので、俺は曖昧にしか知らない。

 異界に行けることくらいしか興味がなかったため、それ以外のことは配属されてから知っていけばいいと考えていた。


 他の4人はAクラスにいる意味をわかっているようで、引き締まった表情で先生を見ている。


「それじゃあ、まだ時間もあるし、4ヵ月間一緒にいるクラスメイトへ自己紹介をしてもらおうか。1人5分程度話せば丁度良いな」


 そう言い残した先生が教卓の前から退いて、教室の隅へ移動した。

 入り口の近くには草地くんが座っており、先生がお前から行けとうながしている。


 一瞬俺を見た後、覚悟を決めたように教卓へ向かう草地くんだったが、聖奈を見て顔を伏せた。


(草地くんは草凪ギルドだったんだっけ? 今はどうなんだろう?)


 気まずそうな草地くんとは反対に、聖奈はまるで気にしていないように前を見ている。

 それに気が付かず、顔を上げた草地くんはなるべく聖奈の方を見ないで自己紹介を始めた。


「草地かけるです。今は、水草ギルドに所属しています……えっと……」


 それだけを言って黙ってしまった草地くんは、何を言うのか悩むようにまたうつむいてしまった。


「が、学校での目標とかはありますか?」


 水守さんがその様子を見て、手を上げながら質問をする。

 この場で急にそういうことができるあたり、水守さんは優しい人だと思う。


「Aクラスに残り続けて、良いハンターになりたいと思っています」


 草地くんはそれからその理由などを話して自己紹介を終わりにして、次は水守さんが教卓に立つ。

 人前に出るのに慣れており、はじめましてと言いながら頭を下げてから自己紹介を始めた。


「水守真友です。草地くんと同じ水草ギルドに所属しており、主に水の妖精を使って支援等を行っています」


 次から次にスラスラと自己紹介を述べている水守さんを聖奈が笑顔で応援していた。

 聞きやすい自己紹介だったが、俺も全部これを言うのと思いながら聞いてしまい、なかなかに内容が頭に入ってこない。


(この次はきついな……水鏡さん大丈夫かな?)


 次に自己紹介をする水鏡さんは目を丸くして水守さんを見ており、口を小さく動かして何を言うのか練習をしているようだった。

 水守さんが時計を見ながら5分ぴったりで自己紹介を終え、最後に頭を下げてから机に戻る。


「次は水鏡だが……大丈夫か?」

「は、はい……平気です」


 少し目を離した隙に水鏡さんが顔面を蒼白させており、先生も思わず声をかけてしまったようだ。


まこと、頑張って」


 ふらつきながら教卓へ向かう水鏡さんを応援するように聖奈が声をかけており、その言葉に力強く頷いている。

 2人がいつの間にこんな仲になっていたのか、オリエンテーションの時からは想像ができない。


 水守さんの良いところを見ていたのか、最初にお辞儀をしてから水鏡さんが自己紹介を始めた。


「水鏡真です……私は、ギルドに所属しておりません。使えるスキルも鑑定と看破の2つしかなく、神格にいたっては1のままで……聖奈さんが居なかったらAクラスにくることができませんでした」


 なかなか衝撃的な自己紹介を行っており、先生もそれを言うのかと感心するように水鏡さんを見ている。

 ただ、そんな彼女は今に絶望するのではなく、未来に光を見出して強い気持ちを持って前に立っていた。


「私は次のクラス替えでも必ずAクラスに残れるように鍛錬を行います!」


 水鏡さんが自己紹介を終えてもまだ時間が残っていたので、俺はどうしても聞いておきたいことがあったため、静かに手を上げる。


「えっと……草凪くん?」


 俺と目が合った水鏡さんは戸惑いながら名前を言ってくれたので、一言謝ってから質問をした。


「看破ってどんなスキルなんですか? 知らないので教えていただけると助かります」


 スキルショップにも看破が表示されておらず、どんな効果を持ったスキルなのか分からない。

 質問を聞いた水鏡さんは答え辛そうにしながらも、必死に俺の目を見ながら答えようとしてくれていた。


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