草根高校総合学科新入生クラス替え演習~水鏡真の回避~

(憂鬱だわ……私にどうしろっていうのよ……)


 クラス替え演習が行われる当日、私は学校に併設されている寮を出ながら、どうすればAクラスになることができるのか頭を悩ます。


 自分には戦う能力が著しく無く、辛うじて扱える槍では他の生徒に勝てるイメージが湧かない。


(鑑定と看破ができても、それに対応できる身体能力が無いと意味がないし……)


 オリエンテーションで草凪さんの拳が目の前に迫っても、反応すらできなかった自分を思い返す。


(たぶん、草凪くんが守ってくれなかったら、私の体は叩き切られていたよね)


 そう考えると寒気がして、学校へ向かう足が重くなってくる。

 しかし、学校まで徒歩5分しかかからない道のりを歩くには十分で、もう校門が見えてきた。


(どうしよう……何も決めてないし、心の準備ができていない……)


 引き返そうかと思ったところで、演習に参加しなければ自動的にCクラスになってしまう。

 私は水鏡の者として毅然とした態度で挑まなくてはいけない。


(不参加は特待を外されるかもしれない……それだけは駄目だ、実家に戻される!)


 再婚をしてできた母は以前の入学式での目論見が外れ、草凪くんの力を見せつけられてからというもの、家に引きこもって当り散らしている。


 特に私への暴力がひどく、寮へ入ることになっていなかったら殺されるのではないかと思うほどだ。


 理由として母に同意をしていた人たちが手のひらを反して草凪くんの支援に回ったことが大きく、身内の中でも発言権を失ってしまったことだろう。


(家に戻されることだけは阻止しないと……あの家には戻らない)


 そう決心したものの、私が戦えるようになったわけではなく、更衣室に着いても悩みが解決することはなかった。


「できることをやろう。うじうじ考えてもだめだ」


 自分に言い聞かせるように呟くとようやく少しだけ周りを見る余裕ができた。

 この更衣室には人が居たはずなのに、今は誰もいなくなっている。


(あれ? どうしたんだろう?)


 更衣室の時計を見て時間を確認していたので、まだ集合時間には早いはずだった。

 槍を袋から取り出して戦う準備をしていると、自分のスマホがポケットから零れ落ちる。


「えっ!? なんでこんな時間なの!?」


 スマホに表示された時間は【8:55】で、演習が始まる5分前になっていた。

 更衣室の時計は8:30で止まっており、私は槍を持って地下の演習場へ向かおうとした。


「きゃっ!?」


 廊下へ出ようとしたら、ここに入ってくる人とぶつかりそうになる。

 なんとか避けて道を譲ると、両サイドで結んでいる髪をなびかせながら、女子生徒が荷物を室内へ放り投げていた。


「草凪さん?」


 その女子生徒は草凪さんで、登校の時から私と同じようなハンタースーツを身に着けている。

 ただ、立ち止まることはなく、黒い鞘に入った剣を持って私に背を向けた。


「ごめん! 急いでいるから! あなたも新入生なら時間危ないよ!」


 そう言い残して走り去っていくため、私も後を追うように足を動かす。

 学校案内の時に驚愕した地下の競技場を目指していると、草凪さんの後ろ姿が見えた。


(なんでこんなに混んでいるの?)


 競技場へ向かう階段で新入生が列になっており、一番後ろには草凪さんと草矢先生がいる。

 私が草凪さんの後ろに並ぶと、腕時計をじっと見つめている草矢先生が怪訝そうな顔を私へ向けてきた。


「水鏡さん、もっと余裕を持って来なさい」

「はい……」


 注意されながらも並んでいたら、私のことに気付いた草凪さんがこちらを見てくる。

 しかし、話しかけられることはなく、一目見られて顔をそむけられてしまった。


(今の草凪さんが私に良い印象を持っている訳がないもんね……)


 草凪さんに話しかけられるんじゃないかと思って、期待した自分に落胆し、列が進むのを待つ。

 そんな中、後ろからこちらへ向かってくる複数の生徒が見えると、私の後ろにいた草矢先生の顔がゆがむ。


「すいません、遅れて――」

「Cクラスだ」

「え?」


 その生徒たちが理由を言う間も与えず、草矢先生はCクラスと言い切って列へ並ばせようとしない。

 困惑しつつも、納得ができずに数名の男女が草矢先生へ詰め寄ろうとした。


「遊びじゃないんだ! 時間も守れないやつがハンターに向いているわけないだろう!!」


 一喝された生徒はその迫力にたじろぎ、草矢先生に近づけない。


「当たり前ね、境界へ突入する時間に遅れるハンターなんていないもの」


 チラリと後ろを見た草凪さんが吐き捨てるように言い、興味を失ったように前が進むのを待っている。


「遅刻者はこちらへどうぞ、どうやっても参加できないので見学へいきますよ」


 中年の女性の先生が誘導をしており、遅刻をした生徒は涙目になりながらも歩き始めていた。

 それ以降、競技場に入るまで遅刻してくる生徒はおらず、最後に演習の手続きを行うことになった。


「Aクラスの水鏡真さんですね?」

「はい、そうです」


 競技場の脇に置いてあるテーブルで事務員さんのような女性に名前と現在のクラスを確認され、ボーリング玉のような球体の水晶を差し出される。


(これが草根高校の資金力にものをいわせて揃えた、1つ10億する【身代わりの水晶】……これが私用になるんだ……)


 水晶に手を乗せると魔力を吸い込まれて、登録が完了した。

 これで、私が攻撃を受けると、この水晶が身代わりになってダメージを蓄積する。


 ただ、毒や麻痺といった状態異常等は身代わりになってくれないと説明をされた。


(水晶の色が黒に近づくほど致命傷になる……死なないための備え……)


 話を聞いて、今からここで水晶がなければ死んでしまう戦闘が行われると意識したら、手に汗を握ってしまう

 槍を持って競技場へ上がると、ハンタースーツや装備を着けている生徒が多数おり、私を待っていたかのように草矢先生が声を出す。


「これより、クラス替え演習を行う。勝ち残った者が上位のクラスとなる!!」


 球技場ほどのスペースに集まった80名程に新入生がそれを聞き、全員が他の人と距離を取り始める。

 特に中央に立っている草凪兄妹からは誰もが距離を取り、近づく者はいない。


(こんな開けた場所で戦いやすいところなんてない……攻撃を受けないようにしないと!)


 私が近くにいた人をけん制するように周りを見渡すと、なぜか囲まれている。

 他の特待生の生徒も同じように囲まれており、私だけではないようだった。


(潰しにきてる……Aクラスの席を空けさせるため!?)


 それがわかり、戦闘が始まる前にこの包囲から抜けようとしたら、草矢先生が手を上げている。


「始め!!」


 武器を持った数十人に襲われそうになり、どうにもできず諦めてしまった。

 どんな攻撃でやられるのか看破をおこなったら、辺り一面に【雷】と表示されている。


(なにこれ!? 表示のない場所が……ここ!?)


 床に自らはいつくばる私を、囲んでいた生徒たちがあざ笑うかのように見下ろしてきていた。

 ただ、その直後、競技場中を黄色い雷が走り、立っていた生徒が感電したように地面へ倒れる。


 次は床をはうように雷が競技場を走り、倒れていた生徒がさらにダメージを受けた。

 致命傷になった生徒は、教員により強制転移させられて競技場から降ろされている。


(これを避け続けるの!?)


 一瞬の判断ミスで感電するという結果になる回避が始まり、私は目に魔力を込め続けた。

 その後も、何度か雷が放たれるが、紙一重で避けていたら、誰かが私に話しかけてくる。


「ねえ、水鏡、もしかして雷を予測できるの?」

「え?」


 不意に声をかけてきた人は草凪さんで、黒い剣を持って左半身を庇うように引きずっていた。

 そちらを見ていたら、目の前に雷の文字が表示される。


「横から来ます!!」


 草凪くんの方から、迂回するように私たちに向かって雷の軌跡が見えた。

 それを口にしたら、回避行動が一瞬遅れて、私の前に雷が迫ってきている。

 

「はっ!!」


 草凪さんは右手で握っていた剣でその雷を切り払い、私へ笑いかけた。


「お兄ちゃんを倒すのに協力してくれたら、私が水鏡を守ってあげる。どうする?」


 雷から守ってくれた草凪さんは、しびれて震えている左手を私へ差し出してくる。

 私がAクラスに残るためにはこの手を取る以外の選択肢はないように思えた。


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