草根高校新入生編⑨~クラス替え~


 明日には総合学科で定期的に行われるクラス替えのための演習があり、上位10名に入ればAクラスになれる。

 演習の内容は様々だが、1つだけわかっているのは、入学してから最初に行われる演習は《バトルロイヤル》ということだ。


(90名が一斉に戦って、勝ち残った者が上のクラスへ配属される)


 特待生だから上のクラスにいけるというわけではなく、実力で上位のクラスを勝ち取らなければいけない。

 最初のクラス替えでは欠席をすると問答無用でCクラスに配属されるため、聖奈が休むとは考え難い。


 また、Aクラスでは俺が手に入れたい、《異界突入権》が与えられるため、確実に勝ち残りたいと思っている。


(あれ以来異界へ入れてもらえていないからな……)


 師匠に案内をされてから学校の異界には入らせてもらえず、異界ミッションを一向に進める事ができずにいた。

 いくらお願いをしても、師匠が理事長として俺へ特別に許可は出せないと言っている。


 前回は人助けと、師匠が見回りをするついでに入れたため、例外だそうだ。


 今のところきちんとした手続きで異界に入るためには、Aクラスになるしか方法が無い。

 そんなことを考えながら布団をしき、起きる時間にアラームをセットする。


(聖奈とも戦うんだよな……)


 序盤で戦うことになったらお互い無事では済まないだろう。

 寝る支度を整えて横になり、聖奈がモンスターと戦っている場面を思い浮かべる。


(草凪流剣術で魔法も叩き切られるから、俺は聖奈がさばけないほど多くの攻撃を行い続けるしかない)


 2人でAクラスになる方法は、【戦わない】ということをするしかなさそうだ。

 21時を過ぎても聖奈が帰ってこないので、心配になってスマホで連絡をしようとしたら、メッセージが送られてきた。


「なんというタイミングだ……」


 送り主は聖奈で、今日はお姉ちゃんとアジトに泊まってくるから戸締りを確認しておいてほしいと連絡が入った。


(俺だけ家か……2人もあっちだと、夏さんも戻ってこなさそうだな)

 

 布団から出て、窓や玄関の鍵がかかっているのか確認に回る。

 広い家のため、全部をチェックするのに時間がかかり、終わった時には少し目が冴えてしまった。


 部屋に戻っても眠気が来ないので、大学共通テスト用の参考書を取り出す。

 もう何回か勉強しているが、なかなかの難易度なので悩んでいたら眠くなると思われる。


「よし、やるか」


 勉強に熱中してしまい、俺が寝たのは日が変わる直前になってしまった。

 翌日、誰かが廊下を歩く音で目が覚め、時計の針はまだ5時前を指している。


(……こんなに朝早く……誰だ?)


 夏さんではないことは確定しているので、足音の正体はお姉ちゃんか聖奈しかいない。

 日課の勉強までもう少し寝られるけれど、二度寝をすると寝過ごしそうなので、顔を洗うために洗面台へ向かう。


(どっちだろう? お姉ちゃんかな?)


 日が昇り始めた空を見てから居間の横を通ると、ハンタースーツ姿の聖奈が外へ出る準備をしていた。


「聖奈、こんなに朝早くどうしたんだ?」

「えっ!? お兄ちゃん!?」


 声をかけられるとは思ってもいなかったのか、驚愕するように俺の方を向いた聖奈は目を丸くしている。

 その反応を見て、まだ裸を見せられたことを根に持たれていると思い、頭を下げた。


「昨日は鍵をかけ忘れてごめんな」

「えっ!? えっと……私の方こそ、確認せずに入ってごめんなさい……」


 謝ると聖奈はなぜか戸惑う表情を見せつつも、俺へ謝ってくれている。

 少し気まずくなったので視線を床に移すと、昨日までは持っていなかった黒い鞘が見えた。


「聖奈、その剣は?」

「昨日新調したの、ミスリルの剣は下取りに出したよ」


 聖奈は黒い鞘から黒い刀身の剣を抜き、使用感を確かめるために昨日の夜、俺が発見した境界へ入っていたらしい。

 前の剣よりも自分に合っており、気に入ったと微笑みながら言っている。


「もしかして、高校で使うため?」

「ううん。上の相手と戦うためかな……」


 ビショップ級の聖奈が言う【上】はBクラス以上の境界にいるモンスターを指す。

 それこそ、青い草原で出会った岩石の巨兵を討伐するための武器。


(聖奈はもうそういう【段階】に足を踏み入れたのか)


 実績を積まなければこのような武器を作ってもらえないため、この剣があるということは聖奈がそれらのモンスターと戦う資格があると判断されたということだ。

 聖奈が成長していることを知り、やはり今日一番の難敵は自分の妹だと改めて認識した。


 その聖奈がこんなに朝早くから剣を取り出してどこへ行くのか気になる。


「こんなに早く家を出るのか?」

「ウォーミングアップだよ。3年間Aクラスをキープしたいから、最初でこけないようにしたいの」


 まだ5時になろうという時間なのに、聖奈は何時間アップをするつもりなのだろうか。

 その目に焦りや曇りはなく、全力で目的に向かって突き進もうとしている聖奈の瞳だった。


(頑張れ……はおかしいよな……)


 競争相手である俺が応援するのもどうかと思いつつ、家族として一言くらい背中を押す言葉があってもよい。

 シンクを使った形跡がないので、まだご飯を食べていないと予想して聖奈へ声をかける。


「聖奈、俺にできることはあるか? 朝ごはんまだだろう? 作るぞ?」

「急にどうしたの?」

「ご飯まだだろう? それくらいしか俺にはできないからな」

「お兄ちゃん?」


 聖奈が俺のことを不思議そうに見てくるので、いたたまれなくなって昨日のことを引き合いに出すことにした。


「あれだよ。昨日のお詫びだと思ってくれればそれでいい」


 そう言うと聖奈の表情が変わり、持っていた鞘を俺に突きつける。


「なら、お兄ちゃん、お詫びって言うなら、今日はお互い手加減なしで戦う約束をしてくれない?」

「どういうことだ?」

「師匠に聞いたけど、お兄ちゃんもAクラスに入りたいんでしょ? お互い悔いの無いようにしよう?」


 聖奈はまっすぐに俺を見つめており、分析をするまでもなく、心からそう思っているようだった。

 俺も今日は聖奈と戦うときにはどうするのか迷っていたので、遠慮無く頷く。


「……わかった。俺も本気で聖奈を倒す」

「切られても文句言わないでね」

「ああ、もちろんだ」


 そう言い残して聖奈は荷物を持って家を出て行く。

 その姿を見送った後、俺はいつも通りに勉強を行い、朝ごはんを食べてから自分の部屋でステータスを眺める。


【名 前】 草凪澄人

【年 齢】 15

【神 格】 3/3《+1:200000P》

【体 力】 6800/6800《+100:5000P》↑

【魔 力】 10000/10000《+100:10000P》↑

【攻撃力】 C《1UP:20000P》↑

【耐久力】 C《1UP:20000P》↑

【素早さ】 D《1UP:10000P》↑

【知 力】 B《1UP:40000P》↑

【幸 運】 C《1UP:20000P》↑

【スキル】 精霊召喚(火・土)・鑑定・思考分析Ⅰ・剣術Ⅰ・治癒Ⅰ

      親和性:雷S・天翔Ⅰ □

【貢献P】 97000


(神格を上げるまで溜めるか、能力を上げるか……どうしようかな……)


 相手が聖奈と言うことを考えると、知力をAにしておいた方が良いのかもしれない。

 しかし、それには今あるポイントの半分近くを使用することになるので、決断できずにいた。


(能力を上げよう。ついでにスキルも獲得できないかな?)


 俺は画面の操作を始めて、ポイントの振り分け先を考える。

 この作業は家を出るぎりぎりまで行うことになった。


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