草根高校新入生編⑦~妹との距離~

「下着を見られただけで嫌われるとか、澄人様の考えすぎじゃないですか?」


 聖奈のよそよそしい姿が脳裏から離れないので夏さんへ相談をしたところ、笑い飛ばされてしまった。

 運転中の夏さんが微笑みながらアドバイスをくれていた。


「そういうものですか?」

「家族なんですから、そういうこともありますよ」


 俺のことを諭すように優しく声をかけてくれている夏さんは家族という部分を強調し、明日には普通に戻っていると声をかけてくれる。

 それならと思い、運転席に座る夏さんはどうなのか知りたくなった。


「夏さんが俺の下着だけの姿を見たらどう思います?」

「……え?」


 短い言葉を放ってから、しばらく夏さんの反応が返ってこないので、横を見るとこちらを向いたまま固まっている。

 しかも、運転中だったので、前を見ると完全に車が対向車線にはみ出しており、前方から別の車が迫っていた。


「夏さん前を見て!!」

「嘘!?」


 すれ違う対向車からブーっとクラクションを鳴らされたが、何事もなく回避することができた。

 なんとか車線を戻した夏さんは、呼吸を荒くしながら運転をしているが焦点が合っていない。


「夏さん、一旦路肩に止めましょう」

「すいません……」


 左に車を寄せて停車すると、夏さんが平謝りで俺へ頭を下げる。

 ハンドルを持っている手に頭を付けたまま動かない夏さんへどのような声をかけたらよいのかわからず、肩に手を置いて落ち着かせようとした。


「あっ!?」


 俺が手を置いた途端にビクッと全身を震わせ、驚くような声を出す。

 何かをしてしまったかと思い、手を引っ込めると夏さんが恥ずかしそうにこちらを向いた。


「澄人様、申し訳ありません、裸を想像してしまいました……」

「俺の?」

「はぃ……そうです……」


 顔を真っ赤に染めながら申し訳なさそうに言っており、俺に原因があるので責めることはできない。

 アイテムボックスから水を取り出して、夏さんへ渡しながらなるべく笑顔を向ける。


「俺こそ変なことを聞いてすいません。これを飲んで落ち着いてください」

「いえいえいえ! 澄人様はなにも! 私が勝手に想像しただけなので!!」


 両手を俺に向けて少しでも遠くへ行こうとする夏さんは、顔を背けて背中をドアにつけていた。

 全力で俺から離れようとしているので、夏さんの手を取り、ペットボトルを握らせる。


「飲んで、落ち着きましょう」

「……はい」


 夏さんは俺の様子をうかがいながら一口二口と少しずつ水を飲んでいた。

 10分程で夏さんの顔から赤みが無くなり、ふーっと息を吐いて落ち着こうとしている。


「お待たせしました。もう大丈夫です」

「安全運転でよろしくお願いします」


 夏さんは任せて下さいと言いながらエンジンをかけて、運転を再開した。

 目的地までは目の前だったため、数分走っただけで駐車場に停車して、捜索を始めようとしていた。


「澄人様、境界はありそうですか?」


 機材を車から取り出す前に調整をしている夏さんが、横にいる俺を見ずに聞いてきている。

 目を閉じて神経を研ぎ澄ませると、わずかだが違和感があるので何もないわけではなさそうだ。


「近いのはあっちの方角に……山しかありませんね」


 目を開けて違和感がある方向を見ると、人の手が入っていなさそうな山しかなく、草木を踏み倒して歩かなければ辿り着けそうにない。

 境界は人の手があまり入っていない場所で発生しやすいらしいので、この様な野山は絶好のスポットなのだろう。


「わかりました。行きましょうか」


 ハンタースーツを着た夏さんが重そうな機材を背負い、俺の示した方向へ向かおうとしている。

 俺は夏さんを先導するように勘に従い、ほとんど人が入ったことのなさそうな山を登り始めた。


「夏さん、特級観測員にはなれそうなんですか?」


 山を無言で登るのは精神的にきついので、後ろを付いて来る夏さんへ話しかける。


「資格申請が可能な境界の観測回数はもう少しで達成できそうです」

「よかったです……ここに、できると思います」


 境界が生まれそうな場所に着いたので周りに目を向けると、けもの道さえなく、後ろには俺が歩いた跡がはっきりと分かる。

 夏さんもどこに境界が生まれるのか探すように周囲を見ており、目が合うと気まずそうに何も言うことなくうつむいてしまう。


(やっぱりまだ引きずっているのかな?)


 この雰囲気を改善するためにはどうすれば良いのか考えていたら、境界が生まれる前の点が出現した。

 まだ夏さんは気が付いてなく、俺の方を見ないように背を向けられていたので、声をかける。


「夏さん、ここに出ましたよ」

「ひゃい!」


 舌を噛んでしまったのか、夏さんは痛そうに顔をゆがめながら青い線が走り始めた場所に近づく。


「後ろ支えますね」

「ありがとう……ございます……」


 背中の機器を地面へ降ろすのを手伝い、境界が完成するのを待った。

 その間、俺と夏さんは話をすることはなく、ただ境界線を見つめている。


「あ、あの! 澄人様、今日の探索が終わったらお話があります!」


 夏さんが意を決したようにそう言うと、計器を操作しながら境界が完成するのを待つ。

 俺は夏さんからどんな話がされるのか想像していたら、目の前に緑色の画面が表示された。


【ミッション達成】

 貢献ポイントを授与します

【ライフミッション:境界を2ヶ所見つけなさい】

 成功報酬:貢献ポイント600


 表示されたものを見つめて、今は境界を探すことに専念しようと頭の中を切り替える。

 それ以降、夏さんと一緒に日が暮れるまで境界を探すことができた。


 1度だけフィールドミッションを行うためにDランクの境界に入り、モンスターを掃討するミッションを行ったが、夏さんとの連携は取れ、何の問題もなく終わらせた。


「お疲れ様です、澄人様」

「夏さんも、お疲れ様でした」


 車に戻って片付けを終わらせて運転席に座る夏さんが、俺のことを見つめてきている。

 俺は夏さんが話があると言っていたことを思い出し、思わず息を呑んでしまった。


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