草根高校新入生編⑥~神器の影響~

「師匠、聖奈はどうですか?」


 お姉ちゃんに回復薬を手渡しながら聖奈の様子を師匠に聞くと、腕を組んでうーんと唸る。

 師匠は何かを確かめるように聖奈の背中に手を当て、目を閉じてじっとしている。


「この子は魔力の制御が苦手かもしれん……」

「どういうことですか?」


 聖奈の背中から手を離した師匠は表情を険しくさせた。


「神器から放たれた魔力がわからないようだ」

「聖奈に限ってそんなことが……」


 神器の呪縛から自力で抜け出したお姉ちゃんと夏さんを見て、聖奈がまだこの2人のように魔力をコントロールできていないと師匠は言っている。

 ただ、俺の目にはそんな風に映っておらず、聖奈は3人と違う方法で神器の呪縛を解こうとしているように見えていた。


「師匠、聖奈だけまだ赤い光が体へ完全に入っていないんですよ」

「なんだと!? まさか、生身で神器に対抗しているというのか!?」


 聖奈の体をほのかに包む赤い光が追い出されるように少しずつ外へ出てきている。

 ただ、俺以外には見えないようなので、師匠には何もしていないように見えているのだろう。


「出ていけ!!」


 その掛け声とともに勢い良く聖奈が立ち上がると、勾玉の魔力を体から放出させた。

 3人とは違って疲れている様子はなく、聖奈はばつが悪そうに頬を指でかじる。


「遅くなってごめんなさい。心配をおかけしました」

「いや……わしはそんなに……本当に打ち払ったのか……」

「次はもっとうまくやれると思います」


 自信満々に師匠を見ていた聖奈が消耗した様子がなく、ステータスを覗いてもお姉ちゃんとは違って体力しか減っていない。

 師匠が度肝を抜かれており、これが草凪家かと小さくつぶやいていた。


「それで、師匠、俺たちはこれからどうすればいいですか? 教室へ向かいます?」


 体育館から教室へ向かうことなくここへ連れてこられたので、これからどうすればいいのかわからない。

 お姉ちゃんや夏さんも息を整えてこの部屋から出ようとしていた。


「いや、お前たちはもう帰ると担当の教員に伝えてあるから、このまま学校を出なさい。明日はクラス替えがあるから、体調をしっかりと整えるんだぞ」


 師匠が帰るように応接室の扉を開けてくれたので、帰ろうとしたら何かに気が付いたように口を開ける。


「待った! 澄人と聖奈は学校へ提出する書類をここへ出してくれるか?」

「わかりました」


 師匠へ書類一式を渡してから、騒がしくなっている上の階を気にしつつ学校を後にした。


【ライフミッション:境界を1ヶ所見つけなさい】

 成功報酬:貢献ポイント300


 徒歩で数分しかかからない家に着き、着替えを終えて今日のライフミッションを眺める。

 まだ日が高く、十分に活動ができそうなので、どこへ行って探そうか考えていたら、夏さんが2階から降りてきた。


「明日のために香さんが聖奈さんを連れて武器の調整へ行くみたいですけど、澄人様はどうされますか?」


 聖奈が使っているミスリル合金の剣は特注で作られており、購入した武具屋さんでメンテナンスをしてもらっている。

 帰り道で明日はクラス替えという名で新入生全員が戦うとお姉ちゃんが言っていたため、聖奈は万全を期すつもりなのだろう。


 俺は今日の日課をこなしておきたいという気持ちが強いので、夏さんに時間があるのか聞くことにした。


「俺は境界を探そうと思うんですが、一緒に行きませんか?」

「行きます! どこへ向かいますか!?」


 食い気味に夏さんが反応をしてくれて、もう場所の話をされていた。

 そこまでは考えていなかったので、夏さんの意見を聞くことにする。


「えーっと……近くでオススメの場所はありますか?」

「うーん……そうですね……ちょっと観測センター掲示板を見てみますね」

「お願いします」


 夏さんは慣れた手つきでスマホを操作し、画面の上で指をスムーズに動かし始めた。

 見たいページになったのか、指の動きが遅くなり、持っていたメモ帳に何かを書き出している。


「車で1時間程の場所ですが、Cくらいの境界が比較的見つかりやすい所なら人がいないみたいですよ」


 メモ帳とスマホを見比べてから、夏さんがどうでしょうかと言いながら提案してくれていた。


「いいですね、そこにしましょう。調べていただいてありがとうございます」


 返事をすると夏さんが笑顔になり、立ち上がって俺へ声をかけてくる。


「準備をしましょう!」

「よろしくお願いします」

「はい!」


 夏さんは小走りで降りてきた階段を上り、自分の部屋へ向かっていった。

 俺も部屋に戻り、インナーを着ていたら、控えめなノックが聞こえてくる。


「お兄ちゃん、ちょっといいかな?」

「どうした? 今、着替えているから待っていてくれる?」

「え?」


 俺の返事が空しく廊下に響き、下着だけの姿で聖奈と見つめ合ってしまった。

 この家には女性が多いので着替えを行う時には鍵をかけていたつもりなのに、今に限って忘れている。


「ご、ごめん!」


 聖奈がバタンと扉を閉め、俺は着替えを急いで行うことにした。


「今から武具屋さんへ行こうと思っているんだけど、お兄ちゃんもどうかな?」


 まだ廊下にいる聖奈は、部屋の中にいる俺へ聞こえるように大きな声で話しかけてきた。

 ただ、もう夏さんと境界へ行くことを約束してしまったので、残念だが断らなくてはいけない。


「ごめん聖奈、俺はこれからライフミッションのために夏さんと境界を探しに行くんだ」

「そ、そっか!! なら仕方がないよね! 気を付けて行ってらっしゃい」


 なぜかしどろもどろな口調で諦めている聖奈が、そさくさとここから離れようとしていた。

 着替えが終わったので、聖奈を見送るために扉を開けると耳を赤くした後ろ姿がある。


「聖奈も気を付けて」

「ありがとう!!」


 横顔だけ向けて返事をした聖奈は、どたどたと足音を立てて玄関へ向かっていった。


(やっぱり兄妹でも、数ヶ月前から一緒に住み始めたから恥ずかしいな……)


 次にどんな顔で聖奈と話をすればいいのかわからず、居間で夏さんを待つ。

 今までお姉ちゃんや夏さんでも着替えを見られたことはなく、今回が初めてのことだった。


(俺から謝った方がいいのか? いや、でも見られたのはこっちだからな……)


 よくわからないことを考えていたら、機材を持ってハンタースーツを着た夏さんが現れる。

 不思議そうな顔をして俺のことを見てくる夏さんは首をかしげ、なにかありましたかと聞いてきた。


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