草根高校新入生編④~入学式終了後~

 担任の紹介を聞き終わると入学式が終わり、来賓が退場すると、今後の予定を司会の人が説明を始める。


(これで終わりか、あっけなかったな)


 保護者席の人はここでPTA等の役割を決めるため残るようなので、書類等を持っている場合は生徒へ渡すようにアナウンスされた。


「それでは10分の休憩時間を取りたいと思います」


 休憩時間になると、保護者席から書類の入った茶封筒を持った大人が生徒の席へ向かっている人が多数いる。

 俺と聖奈は全ての書類をリュックに入れてあるため、のんびりと席に座って待つ。


「草凪くん、今大丈夫かな?」

「はい?」


 すると、B以降のクラスの方から数名の生徒がこちらへやってきて、話しかけられた。

 その後ろにはこちらの様子をうかがっている保護者の人たちがいるので、仲良くしてくるようにと言われたのだろう。


(あれ? この子は仲間が全員落ちたのに心から自分の合格を喜んでいた子だ)


 その中に性格が悪そうな人だと、覚えている生徒がいたので簡単に言葉を交わしてあしらうことにする。

 立ち上がって対応を始めようとしたら、Aクラスの保護者席でも同じようなことが起こっていた。


(お姉ちゃんと夏さんも人に囲まれている……普段表に出ないからこうなるって聞いていたけど本当なんだ……)


 2人も笑顔で対応をしていたので、俺も失礼が無い様にだけ気を付けて言葉を交わす。

 聖奈は慣れているのか、普段しないような表情で笑っているが、ほとんど話を聞いていないように思えた。


「それでは、そろそろ休憩時間が終わりになるので、ご着席ください」


 周りに来ていた人が席に戻るためにいなくなり、俺は自分の椅子へ腰深く座る。


「お兄ちゃん、あんなことをした有名税だと思って慣れなきゃね」

「……こんなことが続くのか……なんとかしないとな……」


 強くなるためのコツや、どうやって雷を扱えるようになったのかなど、質問されるのが止まらず、一つ一つ答えていたらいくらあっても時間が足りない。

 この行事が終わった後にも来そうな勢いだったので、対策をしなければ家まで追いかけてきそうだ。


(困ったら師匠に相談するか)


 対応することができなくなったら師匠に任せることにする。

 俺が雑に扱って変な噂をされるよりはその方がよっぽど良い。


 後ろを見ると、まだ保護者席には名残惜しそうにお姉ちゃんたちから離れない人がいる。

 Aクラス保護者席の最前列の席が空いており、まだあの着物の人が戻ってきていないようだった。


(あの後どうしたんだろう? 無理をしてきていたのかな?)


 挨拶の途中で体育館を出ていた着物の人が帰らないまま行事が進行する。


「まずはIクラスの新入生は立ち上がって、担任の先生の後に続いてください」


 荷物を持って移動しようとしたら、出口に近いクラスから移動をするようだ。

 この順番だとAクラスは最後なので、ぽーっと待っていたら、後ろから肩を叩かれる。


「澄人くん、聖奈さん、荷物を持ってきてほしい」


 そこには困った顔をしている校長がおり、身をかがめながら小さく低い声で俺と聖奈を呼んでいた。

 女性のため小柄だが、体幹がしっかりしており、師匠と同年代とは思えないほど若々しく見える。


(なんで校長がここに? なにが……?)


 その後ろではこちらと同様に、師匠がお姉ちゃんたちに話しかけていたので、何か予定外のことが起こっていると思われる。


「わかりました。聖奈、行こう」


 保護者席の方を見ながら呼び掛けると、聖奈も後ろで起こっていることに気付いて小さくうなずく。

 荷物を持って校長の後に続いて歩き出したときお姉ちゃんと目が合った。


「私は先に向かっているので、失礼します」


 焦るように校長は足早に他の保護者席の前を通って、体育館から出て行ってしまう。

 俺たちが出るのを待つように司会の先生が次のクラスの移動を止めていた。


「澄人、一緒に行くから大丈夫だ。彼女には先方へ連絡をしてもらっている」


 急いで後を追おうとしたら、俺の後ろから師匠の落ち着いた声が聞こえてきた。

 お姉ちゃんたちと合流して話を聞こうとする俺へ、眼光を鋭くした師匠が先に口を開く。


「説明は他の人へ聞かれないようにするために、ここを出てから行う。今は付いてきてくれ」

「わかりました」


 普段見ない真剣な表情で話をしてきた師匠を見て、口から出かけた言葉を飲み込む。

 そのまま保護者席の前を通って体育館を出ると、廊下を歩く師匠が深呼吸をする。


「殿下が澄人……いや、清澄ギルドに挨拶をしたいそうだ」

「なんでそんなことに?」


 一番前を歩いていたお姉ちゃんが驚くように師匠の少し前に出て、確認をするように聞いていた。

 来賓が退出するときに一番前を歩いていた30代ほどの男性の姿を思い出し、あのひとのことかなと振り返る。


「親王殿下がそう希望していらっしゃる」


 お姉ちゃんの質問を簡潔に答えた師匠は、待たせているから急ぐと言いながら歩を進めた。

 案内された応接室の前には護衛のような人が立っており、俺たちの姿を確認すると、扉の前からどくように道を譲る。


 師匠も緊張しているのか、呼吸を整えてから応接室の扉をノックする。


「失礼します。清澄ギルドの4名を--」


 応接室の中へ声をかけた師匠は、返事を聞いた後に扉を開けて、ゆっくりと一礼する。

 お姉ちゃんや夏さんも入室するので俺も部屋へ入ると、中に微笑みながらこちらを見る男性が立っていた。


「失礼します」


 思わず礼をして頭を上げると、優しくうなずいて俺のことを迎え入れてくれている。

 妙に嬉しい気分になりながら先に入っていた夏さんの横に立ち、聖奈が入ってくるのを待った。


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