草根高校新入生編③~入学式新入生代表挨拶~

「澄人! それだけは止めろ!!」


 剣を核にして雷を集め、ドラゴンのような姿を形成している。

 その最中に師匠から雷の力を使わないように言われているが、止める気はない。


「師匠! ここにいる人全員が絶対に忘れられないことをしたいんです!!」


 挨拶が終わってから後ろを振り向いた瞬間、俺のことをあざ笑う視線を投げてきた人が大勢いた。

 おそらく、俺がじいちゃんから草凪の家を追放されたことを知っている人たちなのだろう。


(この力でその記憶を上書きしてやる!!)


 振り向くまでは数回観たじいちゃんの演武を模範して終わろうと思っていたが、この人たちの顔を見て瞬間その案は吹き飛んだ。

 剣を構えたまま何をすれば印象に残るか考えた結果、後ろにいた師匠の言葉が脳裏によぎった。


(雷は自由に操れる人自体が少ないから、これを使わない手はない!)


 ミスリルの剣を使えば雷が集めやすく、演武にはない放り投げるというパフォーマンスで注目され、アイテムボックスの存在もアピールできる。

 今の自分にできる全力を発揮するために、さらに両手へ魔力を込めた。


 雷のドラゴンが体育館に登場すると、会場にいる人たちが全員違う表情で見上げている。


(あの子だけ妙に悲鳴を上げている……一般人の女子生徒かな?)


 周りの様子がはっきりと見え、俺のことをあざ笑っていた人は目を疑いながら口を開けてドラゴンを見る。

 また、来賓の方々の前に守るように護衛の人が立ちふさがっているものの、雷のドラゴンに対抗するのが怖いのか足が震えていた。


(今から雷をまき散らしながらこの中を踊らせる)


 作り出したドラゴンを体育館内で縦横無尽に動かし、座っている人に当たらない程度に雷を走らせる。

 会場にいる人が雷のドラゴンに見慣れてきた頃、雷のドラゴンから意識を放し、残っているほとんどの魔力を右手へ注ぎ込む。


「火の精霊よ!! 雷龍を討伐せよ!!」


 火の精霊が俺の魔力を余すことなく使用して、イメージ通りの鳳凰の姿となった。

 俺の頭上へ火の粉を振り撒きながら召喚された鳳凰は、一直線に雷龍へ向かって飛び立つ。


(演出を考えるのも大変だ)


 鳳凰が雷龍に襲いかかることで炎と雷が衝突し、赤と黄色の魔力が絡み合う。

 その中から剣を俺の手元に戻すことで雷龍を消滅させ、鳳凰だけがこの場に残った。


(あの人、帰ろうとしているけどどうしたんだろう?)


 ほとんどの人が感心するように鳳凰を見ている中、Aクラスの保護者席に座っていた豪華な着物を着ている人が体育館から出ようとしている。

 気分が悪いのか、口元を手で押さえているので、気にせず挨拶の続きを行うことにした。


 鳳凰の役目が終わって消えると思っていたら、俺の方に向かってくる。


(え? なんで?)


 俺の手から離れた精霊の力は制御できないため、なぜやることが終わった鳳凰がこちらに飛んできているのかわからない。

 ただ、平然を装って剣を構えて迎え撃とうとしたら、耳元に熱を感じていたずらっ子の声が聞こえてきた。


「きみの想いはわかっているよ。僕を切り払ってもっと目立って」

「ありがとう、助かる」


 鳳凰が直前に迫る中交わされた刹那の会話で、火の精霊が俺の意思を汲み取ってくれているのがわかった。

 持っていた剣で俺を襲おうとしている鳳凰を剣で両断すると、全員の視線がこちらに向けられる。


「以上を挨拶とさせていただきます。入学生代表、草凪澄人」


 剣をアイテムボックスへ入れてから、はっきりと大きな声で言い放つ。

 すると、来賓席に座る人たちが立ち上がって拍手するのを皮切りに、この場に座る全員が同じように賞賛してくれていた。


 お姉ちゃんたちや聖奈も笑顔で拍手をしてくれており、俺のことをあざ笑っていた人は気まずそうにしている。


(よかった。やりきったぞ)


 俺が席に戻ると拍手が鳴り止み、横に座る聖奈がかっこ良かったと小さい声で言ってくれた。

 その後の来賓挨拶では、どこかで聞いたことがあるような仰々しい名前の人が演台で俺たちを祝福する言葉を述べる。


(次は総理大臣? なんでこんな高校へ直接来ているんだ?)


 総理大臣の挨拶はいつも聞くような内容だったが、その後、俺を絶賛しながらこちらを向く。


「みなさんが彼と共にこの学校で学んだことを誇りに思う時が来るでしょう」


 その言葉で終わった挨拶で、俺の評価が塗り変わったことを確信した。

 これ以上ない評価をもらうことができたため、満足していたら急に画面が俺の前に表示される。


【シークレットミッション達成】

 一定人数から賞賛を得ることができました

 スキル【天翔あまとⅠ】を獲得しました


(一定数って何人だろう? ここにいる人が千人弱で、さっきの俺を見て納得しなかった人が、総理の一言で嫌々認めたってことかな)


 俺が考えにふけっていたら、その他にいる来賓が紹介された後、クラス担任と呼ばれた人たちが新入生の座っている席の前に立つ。

 しかし、いつまで経ってもAブロックの前には誰もこず、そのまま式が進行しようとしていた。


(担任が……いない? 他のクラスの前には先生がいるのに……)


 檀上の演台には学年主任と紹介された草矢さんがマイクの前に立つ。

 担任不在で困っているのかと思いきや、草矢さんの思考はそんなことを微塵も感じさせない。


「みなさんこんにちは、学年主任の草矢です。Aクラスの担任は、明日のクラス分け演習の後に生徒を通じて発表させていただきます」


 そう言い切った草矢さんの言葉を聞いていたら、横の聖奈が頭を俺の方へ寄せてくる。


「お兄ちゃん、明日が楽しみだね」

「演習ってなにするの?」

「うーん……秘密」


 小声で話をしているのに、Bクラスの担任を紹介している草矢さんと目が合う。

 聖奈もその視線に気が付き、ばつが悪そうに前を向く。


(これからどんな学校生活が待っているんだろう……)


 演習でクラス分けをするということなので、少しでも良い成績を残せるように準備しておきたい。

 後でお姉ちゃんに聞いてみようと思いながら、他のクラスの担任の名前を静かに聞いた。


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