草根高校入学編⑬~異界初突入~

「この雨に触れると痺れるから、逃げ場所のないソードタイガーがここへ逃げ込んでいたんだろう」

「なるほど?」


 俺も雨に触れるとビリビリという感覚が伝わり、痺れるという軽いものではなく、感電と呼ぶ方が正しいと思った。


「定期的にここの周辺のモンスターを倒していたんだが、今回はいきなり出会ってしまったらしい」


 異界に突入するたびにモンスターに待ちかまえられてはたまったものではないので、入ってこられないように何かできないか地面の赤い土を見る。


「土の精霊に頼んでこの出口に扉付きの柵でも作りましょうか? 入った瞬間にモンスターがいるのは罠ですよね?」

「そうしてくれるか? 向こうから持ってきた材料だと腐敗が早くて長く持たないんだ」


 痺れている手を数回振ってから両手に魔力を込めて、鉄格子をイメージしながら洞窟の入り口に精霊を解放する。

 赤い格子状の柵ができあがり、中央には丸いドアノブが付いた扉を付けておいた。


「ほぉ、なかなか良いじゃないか」


 師匠が感心するように出来上がった物を眺め、ドアノブに手をかける。

 数回格子の扉を開け閉めしてから、俺に近づいてきた。


「これで大半のモンスターがこちらへ来ることはないな」

「大半?」

「この幅よりも小さなモンスターはすり抜けてくるだろう?」


 師匠が肩幅よりも短い間隔で作られている柵を両手でにぎりながらそう言っていた。


(後50分……黄色い雨の中を探索できないかな……)


 異界についてわからないことが多く、痺れる雨のため外は歩けそうにない。


「異界と境界は何が違うんですか?」

「【変わらない】ということが一番の違いだ」


 何が変わらないのか具体的に言うことなく、その一言だけを口にしていたので、俺は確認の意味で聞き返した。


「毎回ここにゲートがあるんですよね? それだけですか?」

「いや、ここに広がる世界が変わらないんだ。ただ、今日みたいに雨が降っているのは珍しいがな」

「あれを振り払えば外を歩けるんですね?」


 師匠が銀色の雲を見ながら言っていたため、どの程度の雨なのか気になる。

 格子の間から手を伸ばして、数秒ほど雨に打たれても痺れるだけで皮膚が焼けたりしないことを確認した。


(これならいけそうだな)


 扉に手をかけて外に出ようとしたら、師匠が眉間にしわを寄せて俺のことを見てきた。


「どうするつもりだ?」

「雲を振り払います。ちょっと待っていてください」


 格子の扉を開けて、痺れる雨に耐えながら洞窟から離れる。

 アイテムボックスから草薙の剣を取り出そうとするが、全身が痺れてうまく動かせなくなってきた。


(なんだこれ……体が……)


 感覚がなくなり始め、先に直接雨に当たらないようにしないと数分後には動けなくなりそうだった。

 右手に魔力を込めて地面に向けて解放し、簡易的な雨避けを作る。


(次は痺れの原因の水だな)


 服を乾燥させるように火の精霊の召喚を行い、痺れを取ることができた。

 原因を降らせている鈍く銀色に輝いている雲を注視する。


(雲なのにほとんど動いていない……なんなんだ?)


 雲に対して鑑定を行っても【???】としか表示されないため正体がわからず、面倒なので1度切ってみることにした。

 草薙の剣を手に取り、空一面に広がっている銀色の雲の中心で切り裂くために剣を振った。


「神の一太刀!!」


 黄金に光り輝く閃光が剣から放たれ、空一面を覆っていた銀色の雲が真っ二つに割れる。

 すると、剣を振った直後に何かを知らせる画面が表示された。


【ミッション達成】

 ユニークモンスター【雷帝龍】を討伐しました

《親和性【雷】:S》を付与します


 今の一振りでなにかのモンスターを討伐してしまったようで、それを通知してくれている。

 上空では銀色の雲が飛散しており、現実世界とは違って赤い空が広がっていた。


(んん? 銀の雲はモンスターが作り出したものだったのか? それにこの空はなんなんだ……)


 黄色い雨が止んだ空を見上げていたら、師匠がおーっと声を出しながら近づいてくる。

 師匠ならさっき倒してしまったモンスターについて何か知っていると思うので、画面のログを見ながら名前の確認を行う。


「師匠、らいていりゅう? というモンスターを御存知ですか?」

「雷帝龍? ……いや……知らんが……それがどうしたんだ?」


 考えるように腕を組んだ師匠は何度か名前を呟くが、知らないようだった。

 この世界のことで師匠でも分からないことがあるのかと思いながら、今起こったことを説明する。


「そのモンスターを倒して、雷の親和性を手に入れました」

「は!? 倒しただけで親和性だと!? ランクは!?」


 ログを見ながら付与されたものを読み上げていたら、突然師匠の目が見開いて俺に詰め寄ってきた。


「Sですけど……親和性って草凪流剣術のあれですよね」


 聖奈や師匠、お姉ちゃんが体得している【草凪流剣術】は剣との親和性を上げるものだ。

 スキルとして《親和性【剣】》が存在しており、魔法を叩き切れる聖奈でもまだランクがDだと聞いている。


「わしでも剣の親和性はB……魔力で剣による攻撃の無力化が可能じゃ……正澄様でもAだったんだぞ」


 師匠が手刀でソードタイガーの頭を切り落とすことができたのはこれが理由で、全身を凶器に変えることができる。

 じいちゃんはそれより上のAクラスと言うので、参考のために何ができるようになるのか聞いておきたかった。


「Aはちなみに何ができるんですか?」

「それはだな――」


 師匠が説明をしようとした時、視界の片隅に小さく【親和性について】という画面が表示される。


【親和性について】

 ~C:親和対象の具現化

 B:親和対象の攻撃無力化

 A:親和対象の攻撃反射

 S:親和対象の吸収


 俺が画面に表示された文章を読んでいたら、師匠が誇らしげに話をしていたのが聞こえてくる。


「何もせずとも剣を弾くことができるんだ」

「そうなんだ」


 表示された文章の内容とじいちゃんのできることが同じなので、間違ってはいないようだった。

 親和性についての画面を消していたら、師匠が再度俺の目を覗いてくる。


「それで、澄人本当に雷の親和性がSなのか?」

「そうだと思うけど……ちょっと試してみます」


 雷を吸収できるようなので、地面に痺れる雨が溜まっている今、やってみたいことがある。

 地面に手のひらを当てて、心地よいピリピリとした感覚が体へ沁み込んできた。


「どうするんだ?」

「地面に含まれている水に付与されている雷の力を吸い上げようと思います」

「まさか……Sは効かなくなるだけではなく、自分の力にする吸収なのか?」


 師匠が見つめる中、俺は感知できる地面に広がっていた雷の力を吸収し、腕に押し止める。

 腕が雷で弾け飛びそうになるのを堪え、空に向かってすべてを放出した。


「いっけー!!!!」


 俺が両手を上げると、雷鳴が響き渡り、赤い空に黄色い雷が走る。

 真横にいた師匠は腰を抜かして地面にしりもちをつき、口をぽかんと開けながら俺のことを見ていた。


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