草根高校入学編⑫~青い渦の謎~

「師匠、これはなんですか?」


 画面では【異界】としか説明されず、どういうものなのかまではわからない。

 青い渦から少し離れた師匠は、この全体を眺めながら口を開く。


「それは固定されている境界のようなもので、門やゲートとも呼ばれている」

「この向こう側は境界のようになっているんですか?」


 俺が質問をしている最中に再び青い渦が輝き出してソードタイガーが出現するが、師匠は何にも気にせず手刀で首をはねる。

 モンスターが現れることを特別に驚くことがないので、俺はこれが普通ということを見せつけられているような気がしてきた。


「ああ……しかし、境界と違うのは向こう側のモンスターも自由にこちらへ来るということだ」

「そんなものがこの学校に?」


 境界内で戦うハンターを育成するために、このようなものまで用意されているなんて俺の想像を超えていた。

 しかし、師匠はいやとつぶやきながら、青い渦の周りにある石柱へ手をそえる。


「これがあるから初代草凪家の当主様がハンターを育成するための教育機関を作ったんだ」


 初代草凪家の初代当主は未来のことを考えて、ハンターを養成する場所を作ったという。

 学校の敷地面積のほぼ10割が草凪家のものであることを考えると、相当力を注いでいたと思われる。


「ゲートが先で、学校の方が後なんですね」

「そうだ。これがあるから、ハンターを希望している者が全国から人が殺到している。他にもハンターを育成する学校はあるが、日本でこれがあるのはうちを入れて3校だけだ」


 草根高校の総合学科が人気の理由がわかり、モンスターから学校を守るためにあんな手前に立派な門を建てたのだという。


 この広い森はモンスターがゲートから出ても学校へ被害が出ないようにあり、門のところにいた豊留さんはここ専任の観測員で、異常があればすぐに連絡があるのだそうだ。


 その説明を聞いた後、どうして先輩があんなことになっていたのかが気になる。


「じゃあ、さっきのハンタースーツを着た人たちはこの中で訓練でもしていたんですか?」


 予想として考えていたことを口にしてみたが、そうだとしてもその中の1人が瀕死になるくらいの相手が出るのなら、引率者をつけるだろうと思ってしまう。


(ソードタイガーであんな対応をしていたけど、どうなんだ?)


 危険度E以上の動物系モンスターとして頻繁に出現するソードタイガーは群れで来ることがほとんどで、俺は単体に襲われた経験がない。


(ここのゲートから出てきたのを2回見たけど、1体しかこなかったのには理由があるのか?)


 俺がゲートについて考察をしていたら、師匠が俺の肩を叩いてきた。


「澄人、その説明も兼ねてこの中へ入ってみないか?」

「申請はしなくてもいいんですか?」


 師匠が境界に入る際には必ず行わなくてはならない突入申請をせずに足を進めようとしていた。

 その行動を慌てて止めようとしたら、何も気にしていないように笑みを浮かべる。


「このゲートへ入る場合、門にいる観測員に申請をすれば観測センターへの連絡はしなくていいんだ」


 行くぞと言いながら師匠がゲートへ入るので、俺も後に続いて足を進めた。

 青い渦に飲み込まれると、待ち構えていたかのように青い画面が表示される。


【異界に入ったため、ミッションを開始します】

【異界ミッション①:異界内で1時間探索を行いなさい】

 貢献ポイント:5000


 チュートリアルの時のように、ミッションの横に数字が付いており、連続して行うミッションだと思われる。


「澄人!! くるぞ!!」


 境界と同じように着地をしようとしたら、洞窟のような場所で師匠が素手でソードタイガーと戦いながら注意を促してきた。

 俺の足元にも待ち構えるかのように数体のソードタイガーがいたため、火の精霊で容赦なく薙ぎ払う。


「失せろ!!」


 周囲のソードタイガーが火だるまになり、師匠も俺から距離を取っていた。


「澄人! 合図をくれないと囲まれていたわしまで焼けるところだったぞ?」

「それはないでしょう? そんなところまで離れていて良く言いますね」


 火の精霊によって丸焦げになったソードタイガーが消え、10メートル程離れたところにいる師匠を見る。

 言葉とは裏腹にまったく焦っている様子はなく、俺に近づきながら周りに目を向けた。


「ここがゲートの中……異界と呼ばれる場所だ」

「……洞窟ですよね? これが続いているんですか?」


 ただ、目を凝らして見てみると、自然にできた洞窟ではなく、人工的に作られたもののような印象を受ける。

 境界内に人の手が加えられたモノがあることの不自然さを師匠に聞こうとしたら、さっきまでいた場所からいなくなっていた。


「こっちじゃ澄人! はよう来い!」

「いきなり行かないでください!」


 小走りで師匠を追いかけていたら、洞窟の外が見えてくる。

 師匠が洞窟を出る手前で止まっており、腰の後ろで手を組みながら外の様子を眺めていた。


「これが……異界という場所なんですか?」


 洞窟の外では空に浮かぶ銀色の雲から黄色い雨が赤い大地に降り注ぎ、モンスターの姿は見えない。

 今まで数百の境界に入ってきたが、天候が荒れていたことは1度もなく、モンスターがフィールドにいないという状況も見たことがなかった。


 師匠は手を伸ばして降っている黄色い雨に触れて、納得するようにうなずく。


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