草根高校入学編⑪~負傷の原因~

 先輩の治療を行った白衣を着た人は安心して気が抜けたのか、ふぅっと息を吐く。


「あなたのおかげで間に合ったわ。ありがとう」

「間に合ってよかったです」


 地面に横たわる先輩は、気が付いたようにゆっくりと目を開けようとしているので、少し離れて様子をうかがう。

 手を付いて上半身を起こすと、周りにいるハンタースーツを着た人たちが胸を撫で下ろして笑顔になる。


「瑠璃ちゃん! ごめんね、本当にごめんね!」


 その中にいた1人の女性が泣いて謝りながら先輩に抱き付いていた。

 それと同時に緑色の画面が表示され、ミッションを達成したことが通知される。


【★ライフミッション】

 達成状況:1人

 計:2000ポイント


(ええ……先輩の分だけしかもらえないの? ここにいるみんな困っていたのに……)

 

 人を窮地から救ったのに、1人しか助けたこととしてカウントされていない。

 回復薬の購入で使ってしまったポイントを考えたらマイナスになる。

 

(人の命をポイントで救えたと思えば……でも、なんでこんなことに? この中に強いモンスターでもいるのか?)


 俺が開かれたままの境界を眺めていたら、スッと横に師匠が身を寄せてきた。


「澄人、お前のおかげで助かった」

「偶然来ていただけです。それより、これはなんですか?」


 小声で話しかけてくる師匠に開かれたまま安定している境界について質問をしたら、後ろから声が聞こえてくる。


「あの後、あいつはどうなったんですか?」

「それは……」


 先輩がここに残っていた人へ何かを尋ねており、その人は言葉を濁したまま何も言わない。

 そんな時、青い渦を巻いている境界が光り始めて、中から何かが出ようとしていた。


「追いかけてきたのか!? 全員退避だ!!」


 その一声でハンタースーツを着た人たちが警戒するように境界から離れ、出てくる相手を見極めるために注視する。

 しかし、先ほどまで倒れていた先輩が立ち上がれず、足で地面を蹴って少しでも離れようとしていたので、守るようにその前に立つ。


「え? ……どうしてきみが?」

「たまたまです。師匠、彼女をお願いします」

「ああ!」


 師匠が先輩を抱えて逃げようとしてくれたため、安心して境界から何が出てくるのか待てる。

 その時、警告という文字と共に赤い画面が俺の前に現れた。


【警告】

 異界からモンスターが出現します

【緊急ミッション:モンスターの討伐】

 異界から出てくるモンスターを討伐せよ

 成功報酬:貢献ポイント10000


(異界ってなんなんだ?)


 目の前にある境界だと思っていた青い渦巻は【異界】と明記されている。

 ミッションを確認した直後、異界から大きな虎のようなモンスターが出現した。


(【ソードタイガー】? なんでこっちの世界にモンスターが!?)


 出てきたモンスターの頭上に現れている名前を読み、なぜか境界の外にモンスターが現れていた。

 モンスターは上顎の犬歯が剣のように鋭い牙状となっている大きな虎で、喉を鳴らしながらこちらの様子をうかがっている。


「こっちにまで来やがった!? に、逃げろ!! こいつは先生じゃなきゃ倒せない!!」


 そんな時、この場所から離れていた人たちが悲鳴を上げてしまう。

 悲鳴を合図にソードタイガーが動き出し、一番近くにいる俺ではなく、逃げようとしている人を追いかけようとしたので、右手に魔力を込めた。


「ガゥ!?」


 土の精霊を召喚し、走り出したソードタイガーの胸を突き刺すように地面を隆起させた。

 全身を貫く前に跳躍して身を引いたソードタイガーの着地地点を予測する。


「終わりだ」


 再び魔力を手に込め、ソードタイガーが着地する前に先ほどよりも鋭い数本の杭を地面から出し、貼り付けるように動けなくした。

 胴体に数カ所杭を打ち込まれているソードタイガーは手足が地面に着かず、身動きができなくなる。


 アイテムボックスからミスリルの剣を取り出して、息の根を止めるように首をはねた。


(消えるのはこっちの世界でも同じなのか……なんだったんだろう?)


 何回も戦ったことのある相手なので苦戦することなく倒すと、ソードタイガーが消滅する。


【緊急ミッション達成】

 貢献ポイントを授与します

【★ライフミッション】

 達成状況:7人

 計:14000ポイント


 2種類の画面が現れ、ミッションを達成したことを知らせてくれている。

 ライフミッションでは、数人分カウントが増えており、先ほどのマイナスを十分に取り返した。


(頭痛いな……魔力切れか……)


 魔力が無くなりそうなので、俺の回復薬を両手で握りしめていた人に近づく。


「それ返してもらってもいいですか?」

「えっ!? あ、はい……どうぞ」


 受け取った回復薬を飲み干し、瓶と剣をアイテムボックスへ入れてから師匠へ話しかける。


「それで、これはどういうことですか?」

「ちょっと待っていてくれ。柊くん、この子を頼めるか?」


 白衣を着た人が師匠に呼ばれており、先輩の体調を心配するように肩を抱きかかえる。


「後は私とこの澄人で対応するから、みんなはもう戻ってくれ」


 全員を見渡すように言うと、全員が返事をして門の方角へ戻っていく。

 そんな中、先輩が白衣を着た人から離れてよろよろとこちらへやってくる。


「草凪くん、助けてくれてありがとう」

「気にしないでください。これを飲んでゆっくり休んだ方がいいですよ」


 よろけているのが心配になり、余っていた体力回復薬(小)を取り出して先輩へ差し出す。


「ありがとう。必ずお礼するからね」


 回復薬を受け取った先輩はそう言いながら白衣を着た柊さんに付き添われて道を戻っていく。

 師匠と2人きりになった俺は、渦を巻いている青い境界の傍に立つ。


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