草根高校入学編⑥~理事長の判断~
「お兄ちゃんは2属性の精霊も使役していて、さっきのやつとは違うのよ!」
聖奈が勝ち誇るように水鏡さんを見下ろしており、後ろにいる草矢さんが苦笑いになっていた。
手を取ってもらえそうにないので引っ込めると、水鏡さんが聖奈を見たまま動かない。
「そんな……本当に妖精ではなく、精霊なんですか?」
「お兄ちゃん、頼める? この子へ見せてあげて欲しいの」
水鏡さんを始めとして、特待生としてこの場にいる全員が俺に注目し、本当に精霊の力を使えるのか期待や疑惑の目を向けていた。
2つの精霊を同時に呼ぶために両手に魔力を込め、わかりやすいように口上を述べる。
「大地の精霊と火の精霊に草凪澄人が命じる。姿を現せ」
右手に剣状の火、左手に盾の土を想像して魔力を解放した。
イメージ通りの装備が出来上がると、水鏡さんが俺の持っている物を注視する。
「数々のご無礼、申し訳ございませんでした」
見ただけで精霊の力ということがわかったのか、水鏡さんが正座に座り直し、床に手をついて頭を下げた。
水鏡さんの表情が見えないので思考分析が使えず、どんな気持ちで頭を下げているのか分からないが、態度を改めているようだった。
(それにしたって、こんなに仰々しくやらなくてもいいのに……)
他の人が動揺するように俺と水鏡さんを見ている中、入り口にいた師匠が咳払いをして部屋の前に立つ。
何を話すのか気になり、水鏡さんも頭を上げて師匠の方を向いていた。
「彼はそれに加え、草凪家初代当主が使っていたと言われる、【草薙の剣】を所有している。以上が草凪澄人のここにいる誰よりも良い条件で入学する理由だ。反論のある者はいるか?」
草薙の剣と聞いた瞬間、周りの人たちが師匠の言っていることを素直に受け入れられないような印象を受けたため、アイテムボックスの中へ手を入れる。
「水鏡さん、鑑定が使えますよね? 名前だけ開示するので、みんなへ聞こえるようにこの剣がなんなのか言ってもらってもいいですか?」
「……任意で鑑定内容の開示!? 本当にそんなことが!?」
たぶん、情報の開示内容は画面が現れるからだと思うけれど、驚いている水鏡さんへそんなことを言わずに草凪の剣を取り出した。
武骨に波打っている黒い刀身が鈍く光り、水鏡さんが視やすいように差し出す。
「分かるかな? 鑑定をしても名前以外はわからないでしょ?」
そう言われて水鏡さんは正座をしたまま、草凪の剣を凝視するように前のめりになる。
数十秒水鏡さんはまばたきもすることなく剣を見つめ、あごに汗が滴り落ちてきた。
その姿を見ている人たちも緊張して動けず、水鏡さんが重い口を開く。
「この剣が……草薙の剣という以外……私にはわかりません……」
精神的に追い詰められたのか、息も絶え絶えになっていた水鏡さんは口から何とか言葉を絞り出しているようだった。
相当参ったのか、座ったまま倒れそうになるので、肩を持って支えてあげた。
「すいません……少し魔力を……使いすぎました……」
スキルの使い過ぎで魔力がなくなってしまったようなので、アイテムボックスから魔力回復薬(小)を取り出す。
「回復薬なんだけど、これ飲めるかな?」
「……大丈夫……です」
回復薬を少し口に含んだ水鏡さんが眉間にしわを寄せて顔を強張らせたため、味わってしまっていたようだった。
飲みなれていないことを心配して声をかけようとしたら、師匠が俺の横に来ている。
「彼への疑惑は晴れたようだね」
師匠の言葉に誰も反論することなく聞いており、ようやくこの場を鎮めることができていた。
「あの教員以外に金嶺関連の者がいないのか学校を挙げて調査し、学校から排除する方向で動く。新学期までには必ず終わらせるつもりだ」
力強く師匠が言い切っているため、調査を終わらせるというのは本当のことだと思う。
最後に頭を下げた師匠は、申し訳なさそうに話を続ける。
「今はまだ教員の中にそのような人物がいるかもしれない。とても心苦しいが、公平を期すためこの次に予定していた面談等は後日行わせていただきたい」
それを聞いていた特待生の男子が、ゆっくりと手を上げていた。
師匠はその男子と目を合わせると、軽く笑みを浮かべる。
「なにかな?」
「今日は1日の予定で来たので、学校から何が起こったのか家へ連絡していただけると助かります」
「そのつもりだ。意見を言ってくれてありがとう」
他に何か不安なことがある人はいますかという師匠の問いに答える人がおらず、今日はこのまま解散ということになった。
最後に師匠と話をしていきたいと思ったので、椅子に座ってみんなが帰るのを待っていたら、瓶を持った水鏡さんが俺に近づいてくる。
「草凪くん、さっきはひどいことを言って本当にごめんなさい。これ、ありがとう助かりました」
「気にしてないからいいよ。追放されたのは事実だし、1年前はハンターでもなかったから」
俺は全然気にしないようにしているのだが、横に座っていた聖奈がそっぽを向いて水鏡さんの顔を見ないようにしていた。
そんな聖奈を気にはしているものの、あえて話をしようとせずに水鏡さんが話を続ける。
「水上夏澄さんは最近好調みたいね」
「どういうこと?」
何か含みを持たせる言い方に思わず聞き返してしまい、水鏡さんが背中を向けようと踵を返した。
「境界発見数国内1位……私の両親も
観測センターをまとめているのが水鏡家ということを前に聞いたことがある。
いつかは分かることだと思うので、このまま勘違いをされたまま水鏡さんを帰すわけにはいかなくなった。
(夏さんの目標達成を邪魔されても困るからな)
師匠との話は夜に後回しにして、聖奈へ一声かけてから水鏡さんを追いかけることにした。
「聖奈、水鏡さんと境界を探しに行こう」
「えっ!? お兄ちゃん本気?」
窓の外を眺めていた聖奈が目をぱちくりさせながら俺の方を向く。
「本気。水鏡家に俺が境界を発見できる謎を教えてもらえるかもしれない」
言いながら水鏡さんを追いかけ寄るために立ち上がると、聖奈が首をかしげながら荷物を持った。
「あの子がわかるかなぁ……」
聖奈が疑わし気ながらも、俺の後を追いかけてきてくれたので、安心して境界を探すことができる。
(たぶん、さっきのは水鏡さんなりの忠告のはず。だから、俺は勘を見せつけてやる)
事実と違うことで話がこじれるのが一番困るので、水鏡さんを通して俺の能力を水鏡家へわからせる。
俺はこの部屋から出てすぐのところで、水鏡さんに追いつくことができた。
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