草根高校入学編⑤~特待生の不信感~
「金嶺慎吾くんの詳細については個人情報のため教えることはできないが、入学できないことになった」
ここに居る全員にステータスの偽造をばれて、個人情報も何もないと思うが、草矢さんはそれを教えられないと言っていた。
しかし、彼のことを学校へ残そうとしていた先生がいることも確かなので、それについても納得ができていない。
「彼を庇おうとしていた先生についてはどうなりますか? 正直、そんな人たちに教えられたくありません」
俺がはっきりと教えられたくないと言い切ると、聖奈や他の数人もうなずいてくれた。
(これから学校生活を送るのなら、嘘を隠し通そうとする人を先生と呼びたくない)
中学の担任のように、信頼関係を結べる人でなければ先生と呼べないと思っている。
1人たりとも何も言わない中、草矢さんが参ったように視線を落とした。
「それは……理事長が検討してくれている最中だ……」
苦し紛れに師匠が判断をすると言う草矢さんの言葉を聞き、納得することができなかった。
(他の模範になるということは、教員の言う事をそのまま受け入れる生徒であるということではない)
自分が正しいと思うことを捻じ曲げて考えを変えることをしたくはないので、俺は静かに立ち上がる。
「そうですか……残念です。あのような人たちが紛れている以上、学校の指示を素直に従えないので、俺は一旦失礼します」
「お、おい! 澄人くん!?」
金か何かを握らされて、特定の生徒が有利になるように動く教員がいる学校に通いたいと思う生徒はいないだろう。
他の模範になれと言うことは、間違っていることを誰が相手でも否と唱えることができる生徒だと俺は考えた。
「私も帰ります。先生が信用できない学校には安心して通えないです」
聖奈も俺に続いて席を立つと、他の特待生も草矢さんの制止を無視して帰ろうとする。
部屋の隅で待機していた他の教員が動揺し、俺の進路を塞ごうとしていた。
「なにか?」
「もうすぐ理事長がいらっしゃる。それまで待ってくれないか?」
焦りながら師匠が来ると言う男性の前に立つと、目の焦点が合っていないことから、苦し紛れに口にしたとしか思えない。
男性の視線が草矢さんの方を向いて一瞬ほっとしたので、俺もチラリと盗み見た。
(草矢さんが急いでスマホで連絡をしている……今呼んでいるのか……)
ただ、これで本当に師匠が来るので、廊下ですれ違って中途半端な言い訳をされるよりも、しっかりと話を聞こうと思う。
「わかりました。理事長を待ちます」
「ありがとう……きみたちはどうかな? 残ってくれるよね」
俺の後ろには聖奈や他の特待生もおり、中年の男性が懇願するような顔で聞いてきていた。
大多数が俺と同じように椅子へ座り直す中、水鏡さんが中年の男性の前に立つ。
「水鏡さんはどうしたのかな?」
なぜか草矢さんを見た後に俺の方へ顔を向けた水鏡さんは、何かを考える仕草をしていた。
「いえ、なんでもありません」
そう呟いて、俺の斜め後ろの席に水鏡さんが座ろうとした時、扉が開いて師匠が現れる。
「特待生のみなさん、こんな事が起こり、不安にさせて本当に申し訳ない」
肩で息をしながら入り口ですぐに謝罪をする師匠は、俺たちに向かって頭を下げた。
「理事長先生、1つ確認したいことがあります」
これから説明をしてくれるはずの師匠よりも先に、俺の後ろに座る水鏡さんが声を上げる。
全員が水鏡さんに注目すると、キッと視線を鋭くして俺のことを見てきた。
「草凪澄人さんは無能力ということで、あの草凪正澄様直々にハンターにならないように追放されています。彼も先ほどの金嶺くんのように――」
「おまええええええええええ!!!!」
水鏡さんが言い終わる前に、聖奈が椅子を蹴飛ばして殴りかかろうとしている。
間の悪いことに席が近く、精霊に頼めるほど魔力を込める時間がない。
(今殴っちゃだめだ!)
このままでは水鏡さんが思いっきり殴られてしまうので、アイテムボックスからミスリルの剣を取り出す。
聖奈が振るう拳の軌道を読み、剣身で受け止められるように両手で持った剣を突き出した。
ギィン!!
剣身と聖奈の拳が当たると金属を打ち鳴らした音が部屋中に反響する。
あまりの衝撃で、剣が水鏡さんの方へ弾き飛ばされそうになるのを堪えると聖奈が泣きながら首を振った。
「お兄ちゃんどうして!? 今、こんな場所でそいつに侮辱されたんだよ!?」
「わかってる!! だけど俺のことを知っているのならこういう反応をされるって言われていただろう!?」
「だけど!?」
ここで聖奈に暴れられては部屋の中がどうなるのかわからない。
なんとかできそうな師匠に目を配る前に、草矢さんが聖奈を背中から羽交い絞めにした。
「聖奈さん落ち着きなさい! 今の彼女を見て、同じようなことが澄人くんへ言えると思うか!?」
「……え?」
草矢さんに言われて、俺の後ろにいるはずの水鏡さんの様子をうかがおうとしたら、床に座り込んでいる。
まだ攻撃を防いだ剣を持っていた両手がジンジンとしびれていた。
(こんな力で殴られたらひとたまりもないだろうな……)
水鏡さんは俺の持っている剣を目を見開いて凝視している。
妹が驚かせてしまったので、剣をアイテムボックスへ入れてから手を差し出す。
(聖奈に襲いかかられたらこうなる……俺だって怖かった……)
いくら待っても水鏡さんが俺の手を無視していたので、少し悲しくなって来た時、ようやく手を取ろうと手を伸ばしてくる。
しかし、水鏡さんは手を取ることはなく、震えながら人差指を俺へ向けてきた。
「く……空間魔法が使えるの? 世界に数人しか使えないSS級の能力なのに……」
「ええ、たくさん荷物が入りますよ」
アイテムボックスについて水鏡さんが知っているようなので、余計なことを何も言わない。
実際にSS級のスキルを見るのが初めてなのか、大半の人が自分の目を信じられないような表情を俺に向けてきていた。
草矢さんに羽交い絞めにされていた聖奈は解放され、満足そうにその様子を眺めている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます