草根高校入学編④~金嶺慎吾の答え~
部屋中の人から視線を浴び、何も言えずにいた金嶺くんは急に両手で顔を覆い何度も謝り始める。
泣くような声を出し始める金嶺くんを見て、草矢さんが唇を噛み締めて俺たちの方を向いた。
「特待生のみなさん、休憩時間を30分程延長します。しばらくお待ちください」
草矢さんが周りの先生に指示を行い、金嶺くんを立ち上がらせてからこの部屋から退出する。
それを見送っていたら、水鏡さんもスマホを持ったまま廊下へ出ようとしているのが見えた。
気にせずに元の席へ座ろうとしたら木製の机が折られており、座れなくなっている。
見事に割れている机の断面を触っていたら、聖奈が申し訳なさそうにこちらへきていた。
「お兄ちゃん、ごめん。つい……」
「いいよ。俺が頼んだもんな」
机は木でできているので、土の精霊に頼んで直せるか試してみることにした。
左手で机を触りながら、魔力を込めて他の机のようにまっすぐなるようにイメージを持つ。
精霊を解放させると、折れ曲がった机がメキメキと音を立てながら元の形になるようにうごめく。
机が元通りに治ったら、聖奈がおーっと感心するように拍手をしてくれた。
「お兄ちゃん流石だね」
「精霊が助けてくれてよかったよ」
俺が座りながら精霊という言葉を口にしたら、周囲の人が急に俺へ目を向けてくる。
見返すと顔を伏せて何も言ってこないので、気にせずに持ってきた本を読もうとしたら、水鏡さんが廊下から戻ってきた。
俺を見つけると眉をひそめながらまっすぐにこちらへ来るので、警戒するように聖奈が腰を浮かす。
「今、家に電話をして彼の計測を行った人を特定したわ」
「……誰だったの?」
質問をすると、水鏡さんがなぜか聖奈の方を見てため息をつく。
「草凪ギルドから出て、金嶺家に所属していた人みたい……あなたなら知っているかしら?」
水鏡さんが聖奈を見ながら聞いてきていたので、聖奈がムッとしながら口を開いた。
「知らない。私は水の家の人と会ったことさえないよ」
「……そう。それは残念ね、草凪聖奈さん」
わざわざ氏名を言う水鏡さんの意図がわからないので、気にせずにその人や金嶺くんがこれからどうなるのか聞いてみる。
「それで、その人にはなにか罰則はあるの?」
水鏡さんが聖奈から視線を離して俺を向き、わざとらしく右手の人差し指をあごにあてた。
「ハンター証を意図的に偽造した人は無期限の活動禁止だけど、今回は計測の間違いの厳重注意で済まされると思うわ」
「嘘っ!? それだけ?」
聖奈が驚くように水鏡さんを見るので、その処置が相当軽いものだとわかった。
また同じような人が出たら嫌だなと思っていたら、水鏡さんが俺のことを凝視してくる。
「なに? まだなにかある?」
「なんであなたは能力を隠しているの? やましいことでもある?」
水鏡さんは鑑定で俺のステータスを覗こうとして失敗したのだろう。
俺は夏さんが他人から能力が見えないように隠す処置をしてもらっている。
これを破られるのは特殊なスキルを持った人だけらしいので、水鏡さんはできなかったらしい。
「あるよ。俺は草凪家から1度追い出されているから、他の人に能力を見られたくないんだ」
「そうなの。それはごめんなさい」
少しも申し訳なさそうなそぶりを見せず、言葉だけの謝罪を受ける。
その態度で聖奈が臨戦態勢をとってしまった。
「あんた、喧嘩売ってるの?」
「謝っているじゃないですか。それとも……本当に隠さないといけないことでもあるのかしら?」
「お前っ!?」
聖奈が今にもとびかかろうという時、扉が開けられて草矢さんが入ってくる。
異様な雰囲気を感じたのか、草矢さんは聖奈と水鏡さんを見ながら表情を強張らせた。
「基本的に学校内で争いは厳禁だ。それを破った場合は謹慎指導等になる」
そう言われても聖奈は水鏡さんを睨みつけたまま視線を外さない。
ここで問題を起こしてもろくなことがないので、聖奈を止めようとしたら草矢さんがこちらへ詰め寄ってきた。
「それに、模範に足り得る人材ではないと判断されれば、強制退学もありえるぞ」
「ふんっ!」
聖奈が深く椅子に座ると、水鏡さんはつまらなそうに俺たちから離れる。
その後姿を見ながら、俺の能力を覗こうとした少女のステータスをまだ確認していなかったので鑑定を行う。
【注意:スキル使用が第三者に伝わります。実行しますか?】
しかし、今まで見たことがない赤い画面で忠告するような文章が出て、止められてしまった。
(こんなことがあるのか……一体どんなスキルなんだろう?)
帰ってから、夏さんにこんな効果のあるスキルがあるのか聞いてみることにした。
水鏡さんが大人しく椅子に座ると同時に、草矢さんが前に立って咳払いをする。
「待たせてしまって非常に申し訳なかった」
草矢さんが俺たちに向かって頭を下げ、先ほどの騒動について謝罪をしていた。
(金嶺くんはどうなったんだろう?)
おそらくここにいる全員が知りたいと思っていることだが、誰も言い出さない。
「これから、一斉に申請書類の確認を行うため、部屋を移動する」
こんな空気の中、何も起こらなかったかのように予定を進めようとしていたので、俺は草矢さんを見ながら手を上げた。
「……草凪澄人くん、なにか?」
「なにかではなく。あの子とステータス偽造を知っていたと思われる先生がどうなったのか説明をお願いします。何も説明がないままでは不信感しか抱きませんが、それでも良いのなら移動しますよ?」
草矢さんは俺の顔をじっと見つめ、ゆっくりと息を吸って表情を曇らせる。
ここにいる生徒が1人たりとも移動しないで草矢さんのことを見つめているようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます