草根高校入学編③~合っているのはどっち?~
興味が出たので立ち上がり、話を聞くために座り込んでしまっている金嶺くんへ手を差し出す。
「きみはどうやってFしかない能力で特待生になれたんだい?」
「なっ!? なにを!? 俺はそんな能力じゃない!!」
慌てふためいた声をあげて否定をするが、鑑定で何度も見ても能力がFとしか表示されない。
それに、この狼狽具合から、何かを隠しているようにしか思えなかったため、追及する。
「俺は鑑定のスキルが使えて、それで視ているんだけど、【金嶺慎吾】くんの能力がFとしか表示されないんだ。合ってない?」
「お前、俺の名前を!? どうして!?」
金嶺くんは落ち着きを失い、目を見開いて首を左右に振っている。
「鑑定だよ。それで、どうなの?」
「そ、それは……」
同じことを聞くと、金嶺くんは泣き出しそうになりながら顔を伏せ、質問に答えようとしない。
俺へ話しかけた時にはこんなことになるとは思わなかったのか、放心状態になってしまった。
「あなた、本当に鑑定が使えるの?」
そんな時、凛とした声が聞こえてきた方向に視線を移すと、和服の女の子が俺へ話しかけてきていた。
「聖奈、金嶺くんを頼むよ。詳しく聞いておいて」
「わかった。ねえ、ハンター証持ってる!?」
足元の金嶺くんが俺の注意がそれたタイミングで逃げようしていたため、聖奈へ後を託した。
安心して和服の子と話をしようとしたら、ドゴっと何かを殴るような音が聞こえた。
「ごめん、少し待っていてくれる?」
一言女の子へ謝ってから後ろを見ると、机がひしゃげてしまっている。
「これ誰のハンター証よ!?」
「俺の……です……」
「能力が全然違うじゃない! 本当のことを言いなさい!!」
ハンター証を見た聖奈が金嶺くんの胸ぐらを片手でつかみ、持ち上げて追及していた。
首が締まって話ができなさそうなので、一旦止めようとしたら、和服の女の子が俺より先に聖奈へ近づく。
「私にもハンター証を見せていただいてよろしいですか?」
「貴女は?」
「
「水鏡?」
和服を着た女の子が、水鏡と名乗ると聖奈が金嶺くんを床へ降ろす。
「いいわ。視てくれる?」
「はい」
水鏡さんは聖奈の持っているハンター証を一目見て、すぐに返した。
苦しそうに床に手をついて呼吸をしている金嶺くんのことを注意深く水鏡さんが観察している。
「お兄ちゃん、これ」
「ん?」
聖奈がその様子を見ながら、俺へハンター証を手渡してきた。
そこには金嶺くんの能力が書かれており、俺が鑑定したものとはまったく別の記号が書かれている。
【名 前】 金嶺慎吾
【ランク】 ナイト級
【神 格】 2/7
【体 力】 1200
【魔 力】 1500
【攻撃力】 D
【耐久力】 D
【素早さ】 C
【知 力】 D
「なにこれ? 本当にあの人のやつ?」
「わかんないけど、お兄ちゃんの言っている能力とは違うね」
聖奈から受け取ったハンター証は本物っぽく、裏にはきちんと計測を行った人の名前が書いてあった。
能力を視ている水鏡さんの動向を見守っていたら、入り口の扉が勢いよく開けられた。
「なにをしているんだ!?」
視聴覚室へ草矢さんを始めとして、数人の先生らしい人たちが物々しい雰囲気で入ってくる。
その後ろにはいつの間にかこの部屋から出て、先生を呼びに行ったと思われるショートカットの女の子がこちらを見ていた。
「助けて下さい!!」
すると、金嶺くんが這いつくばって、草矢先生の足へ近づいてしがみつく。
草矢さんの後ろにいた先生の一部が金嶺くんのことを知っているのか、背中をなでながら落ち着かせようとした。
「あいつらが……」
金嶺くんは俺と聖奈を怯えながら指で示すので、草矢さんたちが睨んでくる。
理由を説明しようとしたとき、またも水鏡さんが俺の前に立ちふさがった。
「草根高校の先生方、その子はなぜここにいるのでしょうか?」
先生たちと正面から向き合うように立つ水鏡さんは、先ほどとは違って冷たい声で金嶺くんを見下ろしている。
「なぜそんなことを?」
ここで何が起こっていたのかわからない草矢さんは、水鏡さんの言葉を理解できずにいた。
「念入りにその子の能力の鑑定を行いましたが、神格が1で能力がFのものしかありません。どのような理由でここにいるのか教えていただけますか?」
「どういうことだ!?」
何か思うことがあったのか、草矢さんは水鏡さんではなく、今金嶺くんを保護しようとしていた数名の先生に向かって事情を聞いている。
水鏡さんが目で合図をしてきたので、俺は持っていたハンター証を草矢さんへ差し出した。
「これが彼の持っていたハンター証です」
「ああ……知っている。しかし、それでは……」
これでは鑑定結果かハンター証に間違いがあるということなので、草矢さんはどうすればいいのか頭を悩ます。
それを見て、水鏡さんが金嶺くんへ近づいて膝を折る。
「あなた、あれをどこで計測してもらったんですか?」
感情のない声で質問をしていた水鏡さんへ、金嶺くんを避難させようとしている先生が怒りながら右手を振り上げた。
「きみには関係ないだろう!」
水鏡さんのことを突き飛ばそうとしていた先生の腕を、炎の壁で防ぐ。
「あっづ!? なんだこれは!?」
「先生が暴力に訴えるとか、この学校はどうなっているんですか?」
精霊に作ってもらった壁を消し、右手をかばうように地面を転がっている先生へ近づく。
水鏡さんへ暴力を振るおうとしていた先生は恐怖で立ち上がれなくなり、足をもがいて俺から離れようとしていた。
「ひ……ひぃ……く、草矢先生! なんとかしてください!? 私たちへこんなことをさせていいんですか!?」
「先に手を出したのはそっちでしょう? 俺は防壁を作っただけで、攻撃の意思はありません」
両手を上げながら何もする気がないことをアピールする。
目の前に炎が出て驚かせてしまったと思いながら水鏡さんを見たら、金嶺くんから一切視線を外していなかった。
(金嶺くんのことしか見えていない……それに、この程度は起こって当たり前のことなのかな?)
俺も金嶺くんへ顔を向けると、他の先生がかばうように立ちふさがり、何とかして守ろうとしていた。
今まで動かずにいた草矢さんは俺や水鏡さんを見た後、金嶺くんへ近づいてハンター証を見せる。
「金嶺くん。1回しか聞かない。これはきみのものか?」
「なにをそんなことを、そっちよりも彼を――」
「黙れ!!」
金嶺くんの前に立っていた先生が俺の対応をするように草矢さんへ言ったところ、鬼のような形相で一喝していた。
(さて、なんて答える?)
俺は腕を組んで、金嶺くんがどのようなことを口にするのか非常に興味深い。
水鏡さんも立ち上がっており、スマホを取り出して金嶺くんの返事を待っているようだった。
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