草根高校入学編②~オリエンテーション~
真ん中だけ新しくなっている校舎から目を離して、男子生徒へ顔を向ける。
「直るまではどうしていたんですか?」
「オンライン授業と、第2校舎の空いている教室へ輪番で登校をしていたよ」
話を聞いていたら、第一校舎が使えなくなっても影響はなさそうだった。
会話が終わったはずなのに男子生徒が俺の顔から視線を外さずにいたので、念のために思考分析を行う。
(【疑念】? 何か信じられないことでもあるのか?)
男子生徒が数秒ほど俺を見つめていると、聖奈がしびれを切らすように第2校舎に向かって歩き出す。
「どこへ行けばいいんですか? 案内してもらえないようなら、自分で行きます」
「……こっちです」
脇目も振らずに校舎へ向かう聖奈を見て、男子生徒は謝りながら案内を再開した。
案内をしてくれている人がIDカードを使って第2校舎へ入るための入口の扉を開けようとしたとき、聖奈がそっと寄ってくる。
「たぶんあの人、お兄ちゃんのことを疑っているよ」
「だろうな。でも、何もできそうにないから、放っておこう」
扉を開けてくれた男子生徒が少しムッとしながら俺を見て、校舎へ入っていく。
俺の声が聞こえてしまったのか、思考に【怒り】が混じっている。
「2階に特待生のオリエンテーションが行われる部屋があります」
それでも平常心を装って案内しようとしているのを見ると、自尊心が高いのがうかがえる。
俺からは特にすることがないので、何も話すことなく歩いていたら、ある扉の前で男子生徒が立ち止まった。
「こちらになります。席は決まっていないので、時間までお待ちください」
視聴覚室と書かれている札が扉の上にあり、すりガラスのため外からは中の様子がわからない。
一応お礼を言いながら中へ入ろうとしたら、男子生徒が咳払いをして俺をにらみつけてきた。
「入学したら覚悟しておけよ」
「何をしてくれるのか楽しみにしておきます。【EDFE】さん」
挑発的なことを言われたので、鑑定で覗いたハンター証に乗っている4つの能力の値で男子生徒のことを呼ぶ。
一瞬何を言われたのか分からないで眉をひそめた男子生徒は、ぽかんとした顔になり、首をかしげて俺のことを見る。
聖奈がその程度しかないんだとつぶやいたのを聞いて、男子生徒の顔がみるみる赤くなっていった。
「貴様っ!?」
「案内ありがとうございましたー」
視聴覚室の中へ入る直前に俺へつかみかかろうとしてきたので、扉で遮ってそのまま入室する。
廊下からは地団駄を踏む音が聞こえ、扉が開けられることはなかった。
(やっぱり案内以上のことはできないのか)
廊下から足を踏みしめるような足音が離れていくのを聞きながら、部屋の中を見回す。
「きみたちで最後だ。好きなところに座りなさい」
部屋の前には草矢先生が俺と聖奈のことを見ており、空いている席に座るように指示をしてくる。
座ろうとしながら他の人へ目を配ると、俺たち以外に8名の特待生がおり、その中には和服を着ている女の子がいた。
(ここにいるのが全員特待生? 中にはハンターじゃなさそうな人もいる……)
座っている人を対象に鑑定を行い、何の問題もなくステータスを見れてしまった。
特待生というくらいなので神格が6以上の人がいるかと思ったけれど、そんなことはなく、聖奈のステータスが一番高い。
【名 前】 草凪聖奈
【年 齢】 15
【神 格】 4/8
【体 力】 20000
【魔 力】 12000
【攻撃力】 B
【耐久力】 D
【素早さ】 C
【知 力】 C
【幸 運】 D
神格が1の人もいるため、ステータスを見た限りでは特待生の基準が俺にはわからなかった。
大体の人から興味を失いながら近くの椅子に座ると、草矢先生が全員の顔を見るように視線を動かす。
「少し早いが特待生オリエンテーションを始めようと思う。まずは、特待生としての心構えとして――」
草矢先生はこの場に来ている特待生一人一人へ、他の模範になるような生徒になってほしいということを強く主張していた。
30分程度の話が終わった後、次は書類の手続きがあると言われてから休憩時間になると、聖奈が机に突っ伏す。
「お兄ちゃん、私もう駄目……眠いよー」
今までの話を眠そうに聞いていた聖奈が、右頬を机につけながらこちらを見てくる。
途中、もう寝るかと思う場面が何度かあり、その都度自分の太ももをつねって眠気を追い払っていた。
「よく我慢したな。偉いぞ」
「えへへー、3年間お兄ちゃんと通えるんだから当たり前だよ」
頑張って聞いていた聖奈をほめると、口元を緩ませて笑顔になる。
そんなやり取りをしていたら、扉へ近づいてくる人がおり、視線の端でとらえると俺を見ている。
ドンッ!
「草凪澄人だな?」
近づいてきた男の子は机に勢いよく手を置き、俺を前から見下ろしながら不躾に名前を聞いてきた。
どこかで見たことがあるような鋭い目と痩せた頬が特徴の男の子は、なぜか俺に対して怒りを抱いている。
その前に、男の子が有無を言わさずに話せなくなりそうなので、急いで声を出す。
「聖奈やめろ」
先ほどまでぐったりとしていた聖奈が、音を立てずに表情をこわばらせて男の子へ上段蹴りを行おうとしていた。
男の子の横顔に当たる直前まで足を振り上げている聖奈の殺意が高く、攻撃を止めるが納得してくれていない。
「
「とりあえず、話を聞いてあげよう」
「ひぃ!?」
聖奈が足を降ろそうとすると、ようやく自分の身に何が起こっているのかわかった男の子が腰を抜かした。
床に倒れた男の子を見下ろしながら、聖奈が仁王立ちになる。
「で? あんたはお兄ちゃんに何の用があるの?」
「お、俺は特待生として本当にこいつが……」
「は!? こいつ!? お兄ちゃんのことを言っているのなら潰すけど!?」
俺のことになると聖奈は見境が無くなることが多く、周りで人が見ている今も本気でこの男の子のどこかを潰す気でいる。
その覇気に圧倒されて男の子は口を開くことができず、意気込んできた最初からは想像ができないほど委縮してしまった。
(あれ? もしかして、この子……)
聖奈に凄まれた程度で動けなくなる【ALL F】の能力しかない男の子のステータスを見たら、どこかで聞いたことがある名字のような気がした。
【名 前】
【年 齢】 15
【神 格】 1/4
【体 力】 400
【魔 力】 250
【攻撃力】 F
【耐久力】 F
【素早さ】 F
【知 力】 F
【幸 運】 F
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