水鏡真の入学オリエンテーション後
水鏡真が草凪兄妹と境界の探索に向かっています。
お楽しみいただければ幸いです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「嘘……でしょ……本当に境界が生まれようとしている……」
色々なことが起こったオリエンテーションの後、草凪くんに境界を見つけるコツがあると言われ、適当に街を散策していると思っていたら、本当に発見してしまった。
それも、水鏡家でも見た人がいない、境界が生まれる前の
(時割れはこんなふうに点が浮遊しながら起こっていたんだ……)
こんなものをもう二度と見ることができないと思い、持っていたスマホで時割れの撮影を始めた。
スマホで時割れを撮っていたら、草凪くんが私の方を向いて笑いかけてくる。
「どう水鏡さん? これでもまだ俺の勘、信じない?」
「信じるもなにも……こんな能力聞いたことがないよ……」
「やっぱりそうなんだね。夏澄さんもそう言っていたんだ」
草凪くんから水上さんの名前を聞くと、ドキッと心臓の鼓動が高鳴ってしまう。
私が子供の頃に水鏡家の
(今の当主は、夏澄さんが特級観測員になったら水鏡家へ取り入れるつもりだ)
10年前の境界震災の時、草凪家同様に水鏡家も当主を失い、今は大幅に観測能力が落ちている。
この街のように30分程度かかる境界の遠隔計測が通常通り行えている地域の方が少なく、境界があまり発生しない地域に人を割いてはいない。
その穴を埋めるべく、夏澄さんのような人材を宗家で確保して、地方のセンターの観測員として配置することで現状境界の発見や危険度を計測している。
しかし、境界に入らずに能力を伸ばしきれないまま観測員になってしまう人が増加しており、一般職員で観測センターに見切りをつける人が出始めているため、破綻するのも時間の問題だ。
(観測員の神格を上げないと観測できる回数や範囲が増えないし、なにより自分の経験に繋がらない)
夏澄さんのようにギルド付きになって、境界の計測や突入を行える観測員は珍しく、世界機構が認定する特級観測員になることができるひとは極端に少ない。
(今さらどんな報酬を用意して呼び戻そうというのだろうか……私にはわからない……)
家のことについて考えていたら、鑑定と看破しかできない自分がこの先どうなるのか不安で胸が痛む。
この歳になっても観測センターの仕事を手伝ったことさえなく、家の行事にも参加させてもらえていない。
今はモノの見定めができる【鑑定】と、誰がどんなスキルを使っているのかが分かる【看破】だけが私の能力だ。
(草根高校にはスキルが二つ使えることと、水鏡の特徴である計測と治癒の能力の片りんがあるって判断されたから特待生で入れたけど、できるようになるのかな……)
「おーい、水鏡さん、聞いてる?」
「えっ!?」
考え込んでしまい、草凪くんに呼ばれていることに全く気付かなかった。
「境界の前で余裕ね」
いつのまにかハンタースーツに身を包んだ草凪さんから鼻で笑われてしまい、悔しい気持ちを隠して草凪くんへ謝る。
「ごめんなさい。ぼーっとしていました」
「そう? それで、境界の危険度がDだったから、入ろうと思うんだけど、水鏡さんはどうする?」
「どうする……とは?」
境界を見つけて終わりだと思っていたので、草凪くんの言っていることが分からない。
答えることができずに悩んでいたら、しびれを切らした草凪さんが詰め寄ってきた。
「この境界へ入るのか入らないかよ!? 何を悩んでいるの?」
「危険度Dの境界へ2人で突入するんですか?」
「そうよ? 攻略するだけなら珍しいことじゃないでしょう?」
確かに攻略自体は、この聖奈さんがいれば可能だ。
それに、草凪くんはあの剣や精霊を使うと思うので、確実に攻略できると思う。
しかし、それでも私はこの
「そうですが……私は入れません」
「入れない……ね。お兄ちゃん、もう申請しちゃおうよ」
草凪さんが私に興味を失って背を向けられ、境界の方へ歩いて行ってしまった。
入れないと拒否をしても草凪くんは申請を終えてからも私から離れない。
「……水鏡さん、これが終わったら次の境界を探しに行くけどここで待ってる?」
「いいえ。私はこれで帰りたいと思います。貴重な体験をさせていただきありがとうございました」
(水鏡家の人間は、水上夏澄さんを匿った草凪家の助力を受けてはいけない)
そう水鏡の現当主が決めたため、今一番境界を攻略している草凪正澄様が作った清澄ギルドへ観測センター等に所属しているすべての観測員が同行を頼めずにいる。
私も例外ではなく、ここで2人に付いて境界へ突入したら家を追い出されることになるはずだ。
(家に帰ろう……草凪くんのことは……どこまで説明しようかな……)
水鏡家から失われた神器を草凪家が持っていると知ったら、当主は焦ってことを間違えるかもしれない。
ただ、あれだけ人がいる前で披露していたので、耳に入るのも時間の問題だろう。
(今日私が言わず、後で知ったら絶対に怒られる)
歩きながら、これからの高校生活がどうなるのか期待と不安が混じり合う。
(草凪くんは優しそうだったけど、草凪さんは怖かったな……私が悪いんだけど……)
当主からなんとしても草凪くんの情報を聞いて来いと言われていたので、焦ってあのような対応をしてしまった。
境界が生まれる時の映像と、今日分かった草凪くんのことを必ず当主へ伝えようと決心して家路についた。
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