中学卒業編⑪~進路決定、それから~

(やっぱり聖奈ってきれいだな)


 身内のひいき目ではないと思っているのだが、聖奈は雑誌に載っているモデルさんよりもきれいだと思っている。

 そんな美少女が寒空の下で校門へ寄りかかり、つまらなそうに地面へ視線を落とす。


「聖奈、どうしたんだ?」

「お兄ちゃん!」


 声をかけると明るい表情になった聖奈が俺の近くまで駆け寄ってきた。

 手袋やマフラーなどの防寒具を身に着けていない聖奈は、寒そうに手をこすって温めようとしている。


「こんな寒い中どうしたんだ?」

「お兄ちゃんを待っていたんだよ。一緒に帰ろう」

「待たせてごめん。これを使う?」


 今にも雪が降りそうな中で聖奈を待たせてしまったので、鞄からマフラーを取り出す。

 渡す時に聖奈の手が氷のように冷たく、このままでは風邪をひかせてしまうと思い、左手に魔力を込めた。


「私が使っていいの?」

「いいよ。俺は寒さには強いんだ」


 マフラーを受け取ってくれた聖奈は、ありがとうと小さい声で言いながら首に巻いた。

 それと同時に、聖奈の冷え切った体を温めるように火の精霊に頼むと、顔に赤みを帯びる。


「もしかして、火の精霊を使ってくれたの?」

「調整の練習。これくらいなら平気かな? 前に自分でやったら暑すぎたんだよね」

「こんなことまでできるんだ……精霊ってすごいね」


 聖奈が不思議そうに全身を確かめるように触り、火の精霊による暖房効果に感動していた。

 ただ、そんな火の精霊による炎を聖奈が切ったことがあり、俺の脳裏から離れない。


「魔法を剣で叩き切る聖奈もすごいよ」

「草凪流剣術に切れぬものはない――って言えばいいかな?」


 わざと低い声を出して、時代劇のように聖奈が振舞うので思わず笑ってしまった。

 聖奈も意識して演技をしたのか、嬉しそうに笑顔になる。


「ようやく笑ってくれたね」

「どういうこと?」

「最近、お兄ちゃんが悩んでいるようだったから、心配していたんだよ?」



 進路について悩んでいた時に、草凪ギルドの厄介事などがあり、余裕がなくなっていた。

 今日ようやく一段落ついたので、聖奈へ伝えることにした。


「心配してくれてありがとう。進路だけど……決めたよ」

「本当に!? どこにしたの!?」

「草根高校の総合学科、聖奈と同じところだよね?」


 聖奈が驚きながら俺の方を見てくるので、鞄から先ほどもらった手続きの書類を出す。


「さっき、草根高校の人が来て、校長室で話をしていたんだ。書類もここにある」

「…………」


 俺が取り出した紙を見て聖奈が固まり、惚けたように何も言わない。


(あまり喜んでくれていないのかな? それはそれで寂しい)


 紙を鞄へしまおうとした時、聖奈が急に抱き付きいてきた。

 荷物が落ちそうになるのを堪えると、聖奈が満面の笑みを俺へ向ける。


「ありがとうお兄ちゃん!! 来年からも一緒の学校へ通えるね!!」

「これからもよろしくね」

「うん! 任せて! ――あ」 


 任せてと言う聖奈のお腹が鳴り、話をしていたため、昼の時間をだいぶ過ぎているのに気が付いた。

 恥ずかしそうにもじもじしながら俺から離れる聖奈へ、寄り道しようと提案をする。


「あそこでハンバーガーを食べてから帰ろうか?」

「うん! そうしよう!」


 聖奈が俺の手を取り、ハンバーガーチェーン店へ向かって走り出す。

 入店してから、聖奈が注文をしてくれる間、俺は席の確保をしている。


 待っている間、今日のライフミッションの内容を確認した。


【ライフミッション:境界を1ヵ所見つけなさい】

 成功報酬:貢献ポイント200


(見つけるだけだともったいない……聖奈と一緒だから、Dくらいまで入れないかな……駄目だお腹空いた)


 俺のお腹も鳴り、空腹で考え事に集中できなくなってきている。

 レジの方を見ると、聖奈がプラスチックで出来た30センチ程の番号札を持って、こちらへ来ていた。


 手を振って席を確保できていることを知らせると、小走りで近づいてくる。


「席を取ってくれてありがとう」

「聖奈も注文してくれて助かったよ」


 テーブルへ番号札を置くと、向かい合うように聖奈が座り、運ばれてくるのを待つ。


「食べ終わったらどうしようか?」

「私は特に用事がないから、少し体を動かそうと思っているよ」


 なぜかそわそわと周りを気にしている聖奈は、楽しそうに話をしていた。


「それなら、一緒に境界を探しに行かない? 今日の――」

「行く! 食べたらすぐに行こう!?」


 何も予定がないようなので、境界に誘おうとしたら、やたら乗り気で即答された。

 プレートに乗せられてハンバーガーやポテトなどが運ばれてくると、持ってきた女性の店員さんと目が合い、にっこりと笑顔を返される。


 お礼を言ってから食べようとしたら、ジュースを飲んでいた聖奈が唇をとがらせながらこちらを見ていた。


「お兄ちゃん、私たちどう見られているのかな?」

「どうって……兄妹だろう? それ以外なんなんだよ」

「ふーん……」


 ハンバーガーを食べながら他愛もない話をしつつ、聖奈がなにか企んでいるような気がしてならない。

 様子をうかがいながら食事を終わらせると、聖奈の分も片付けるために両手でプレートを持つ。


「片付けるよ」

「ありがとう……」

「ん? どうした聖奈?」


 プレートを持って立ち上がっても、聖奈が席から離れる気配がない。

 うつむいて手をもじもじとさせており、待っていたら何かを決心したように立ち上がる。


「行こう! 【澄人】」


 いきなり呼び捨てにして俺の腕につかまってきた聖奈は、顔を真っ赤に染めていた。


「急にどうしたんだ?」

「早く出よう……」


 聖奈から腕をつかんできたのに、恥ずかしくなったのか、細い声で返事をしてくる。

 思考を覗いたら【照れ】と表示されており、我慢するように腕へ引っ付いてきていた。


(恥ずかしいなら離せばいいのに)


 気にせずにプレートを片付けるために歩き出すと、俺の腕を両手で離さずにしっかりと付いてきた。

 プレートを置こうとしたら先ほどの店員さんと目が合い、残念そうな顔をされる。


(なんなんだろう?)


 不思議に思いながらお店を出たら、聖奈が腕を離して大きく息を吐いた。


「さっきの店員さん、お兄ちゃんのこと狙っていたんだよ?」

「そんな馬鹿な」

「本当だもん、私にはわかるんだ」


 聖奈がふざけている様子はまったくなく、真面目に話をしてきている。

 しかも、よくわからない自信を持っているため、俺がそういう目で見られるのが嫌なのだろう。


 話を変えるために、家へ帰ろうとしたところ、ここで違和感を覚えてしまった。


「聖奈ごめん、たぶん、あっちで境界が生まれる」

「え!? うん。お兄ちゃん、剣ってアイテムボックスにある?」


 アイテムボックスの中には、鉄の剣が1本入っていた。

 早足で境界に向かいながら、聖奈へそれを伝える。


「鉄のならある」

「じゃあ、急いで行こう!」


 俺の手を取った聖奈は、剣があると聞いて活き活きと走り始める。


(これで神格が3へ上げられるくらいポイントが溜まるといいな)


 期待を胸に抱きながら、引っ張られている手を握り返し、聖奈に負けないように走り出した。

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