中学卒業編⑤~草凪ギルドの蛮行~

「草凪ギルドの人たちはなんでこんなことをしたのかな?」

「私は境界を出た後は余裕がなくてわからなかったんだけど、澄人くん何か身に覚えはある?」


 お姉ちゃんと待ち合わせをしている駅へ向かいながら、水守さんとなんであのようなことが考えている。

 一際大きな声で叫んでいた人が叫んでいた内容を水守さんへ伝えることにした。


「さあ? 境界を独占するなとか言っていたけど、そんなことをした記憶が無いよ」

「確かに今の状況ならそう言われてもおかしくないかも……」

「そうなの?」


 お姉ちゃんとの待ち合わせ場所に着き、近くにベンチがあったので一緒に座ると、水守さんがうんと言って話を続けた。


「この市や、周辺で発生した【9割】の境界に清澄ギルドが関わっているんだけど、それは知ってる?」

「そんなに多いの?」


 水守さんはうなずき、そのせいでこの地域の観測センターが境界発見数のノルマが達成できず、本部から指導を受けていることも教えてくれた。


「普通のギルドは観測センターから境界の情報を買って突入するの。それに、清澄ギルドが観測センターに境界を売ってくれているから、直接文句を言い難い状況だけど……」


 あのように清澄ギルドに怒りを向けるのは観測センターの人間だと思っていたが、そうでもないらしい。

 俺がどういうことか聞くと、水守さんはうーんと考えてから説明を始める。。


「清澄ギルドへの発見報酬と観測センターの手数料が上乗せされて、その境界へ突入する権利は各ギルドがオークションで競るから、お金のないギルドは活動ができないのが現状なの」

「ちなみにそのオークションページって見られるの?」


 リアルタイムだからどうだろうと呟きながら、スマホを取り出してオークションのページを表示すると、俺へ見せてくれた。

 自然と肩を寄せる体勢になり、2人で1つのスマホに表示されたページを眺める。


「やっぱり、今この地区には競売されている境界はないみたい。けど、最近は相場の数倍になることも珍しくないわ」


【競売中】と書かれたページには何も表示されていないため、境界が見つかりにくいということがよくわかった。

 

「見せてくれてありがとう。境界って1日でどれくらいの数が見つかるの? 観測センターが情報を公開していないからわからないんだ」

「私はこの市周辺のことしかわからないけど、大体多くて5ヶ所くらいで、少ない時はゼロかな」


 ふーんと口にしながら、この前行った遠征の時に発見した境界を頭の中で数える。


(1日で20ヶ所くらい見つけたよな……出やすい地域って本当に発生しやすいんだな)


 この街も他の場所よりも境界が生まれやすいと聞いていたが、遠征先ではここよりも多く発見することができていた。


「澄人くん? 草壁さんの車はどれかわかる?」

「ああ……ええっと……」


 少し上の空であさっての方向を見てしまっており、迎えの車を探していなかった。

 内心慌てながら駅のロータリーに停車している車へ目を配り、まだ来ていないことを確認する。


「まだ来ていないみたい。そろそろだと思うんだけど……あ」


 そんな時、大きな黒い車が新しくロータリーに入ってきた。

 運転席にはお姉ちゃんが乗っており、助手席に聖奈が座っている。


(聖奈がいる。どうしたんだろう?)


 助手席に座る聖奈が俺たちの姿を見つけ、お姉ちゃんへ教えているのが見えた。

 車がどこに停まるのかを見届けてから、水守さんを案内する。


「迎えが来たから行こうか」

「……うん」


 俺と水守さんがベンチから離れ、車の停まっている場所まで向かっていたら、正面から聖奈が歩いてきていた。

 迎えに来てくれたのかと思い、近づいていたら、俺たちに気づいた聖奈が心配そうに駆け寄ってくる。


「真友! 大丈夫だった?」

「なんとか……変な液体を飲んだら体が楽になったよ」

「回復薬かな? あれ美味しくないよねー」


 聖奈は水守さんの身を案じるように話しかけており、会話の内容から2人が友達のように感じた。

 2人の話が終わらないので、お姉ちゃんを待たせると思い、会話を中断させるように声をかける。


「そろそろ行こう。家でゆっくり話せばいいだろう?」


 往来していた人からもちらちらと見られていたため、さっさとこの場を離れて車へ向かう。

 後ろを軽く見ると、2人が話しながら歩いており、水守さんが少し安心したように笑みを見せている。


(やっぱり緊張させたのかな、聖奈が来てくれてよかった)


 俺も安堵しながら車に近づいて、後部座席へ乗り込もうとしたら、聖奈が後ろから止めてきた。


「お兄ちゃんは助手席に座ってくれる? 私と真友が後ろに乗るよ」


 聖奈の言葉に返事をしながら助手席のドアを開けると、お姉ちゃんが嬉しそうに俺を見てくる。


「無事でよかったわ。お帰り澄人」

「迎えに来てくれてありがとう。それより――」


 後ろに乗る水守さんのことを気にかけると、お姉ちゃんがため息をつきながら椅子に座り直す。

 後部座席にいる2人が座り、ドアが閉められたのを確認してからお姉ちゃんが口を開く。


先に・・彼女の件から片付けるわ。観測センターへ向かうわよ」


 先と言うお姉ちゃんの表情は引き締まり、後ろの2人も会話を止めていた。

 しかし、俺は観測センターへ初めて行くので、どんなところなのか楽しみになってしまった。


「澄人、どうして彼女と境界に入ったの?」

「どうしてって……境界を見つけた時に一緒にいて、水守さんもハンターってことがわかったから、除け者にするのも悪いって思って申請しただけだよ」

「本当にたまたま一緒にいたの?」


 お姉ちゃんは俺にではなく、バックミラーで後ろに座る水守さんを見ながら聞いていた。

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