中学卒業編④~境界突入後~
お姉ちゃんへ電話をかけ始めたら、またも違和感を覚えたため、はっと周りを見回す。
見たこともない重装備を付けた警備員が叫んでいた人たちを拘束し、強制的にこの場所から離していた。
最初に警備へ来てくれた人に何が起こったのか聞くために声をかけようとしたら、お姉ちゃんが電話に出てしまう。
「澄人? どうしたの?」
俺もここで何が行われているのかわからないので、周りを見ながら状況を確認する。
「えっと……境界を出たら30人くらいの人に囲まれて卑怯者とか大声で言われて、警備の人たちが連れて行ってくれているんだけど……何かわかる?」
「今はどこにいるの? そこから離れられそう?」
自分の身に起こっていることを順番通りに伝えたところ、お姉ちゃんは落ち着いた声で話してくれている。
周りと足元で俺を不安そうに見上げている水守さんを見て、うーんと悩んでしまう。
「駅の近くにいて、移動は……ちょっと難しいかも」
「どうして? 怪我でもしているの?」
「俺じゃなくて、一緒に境界へ入った人が足を怪我しているんだ」
「……え? ここに2人ともいるけど、誰と入ったの?」
電話越しでもお姉ちゃんが驚いているのが声のトーンでわかってしまった。
誤魔化すと後が大変になるので、正直に伝える。
「水守真友って、クラスメイトのハンターの人。あと、たぶん近くで境界が見つかりそうなんだけど、探しに行ってもいいかな?」
境界を見つけるだけでもギルドに貢献できると教えてもらっていたので、できるだけ多く観測センターへ報告したい。
視界の端に見える水守さんが、暑い境界を出た後なので、薄着なのが気になった。
「駄目よ……その水守真友さんに話を聞きたいから、家まで連れてきてくれる?」
やはりこの状況では、新たな境界を探しに行くのを止められた
分かっていたことだが、まだ俺たちのことを囲んでいる人からの暴言は収まらず、警備員さんたちも苦労しているようだ。
「離せ!! 俺を誰だと思っているんだ!? こんなことをして協会が黙ってないぞ!!」
たっぷりと脂肪を蓄えている人が、急に大きな声を出してじたばたと動き最後の抵抗をしている。
(会話の邪魔だな……)
周りが騒がしいので、その人の声が聞こえないように背を向けてお姉ちゃんとの会話を再開する。
「連れて帰るの? 遅いけど大丈夫かな?」
「水守家でしょ? 私から連絡を入れておくから平気よ」
当然のようにお姉ちゃんが連絡先を知っていることに驚きを隠せない。
ルーク級の人はハンター界隈で顔が広いのかと納得し、膝を折って座っている水守さんと視線を合わせた。
「わかった。それなら連れていくよ」
「お願いね。場所的にはどこら辺になりそう?」
「今、駅の……東側かな。それ以上は詳しくわからない」
「なら、駅の南口へ迎えに行くわ。待っていてくれる?」
「うん。お願いします」
最後お姉ちゃんに必ず連れてきなさいと釘を刺されたため、目の前で震えている水守さんへ体力回復薬を差し出す。
「寒いから上着を着た方が良いよ。それから、これを飲んだら楽になるから、どうぞ」
素直に上着を羽織ってくれた水守さんは、俺から受け取った回復薬を眺めて怪訝そうな顔をしている。
「……これはなんなの?」
蓋を開けるとツンとする薬草の匂いが鼻に届き、慣れている俺でも少しきついものがあった。
「体力回復薬。境界内で消費した体力を回復してくれるんだけど、クセがあるから味わうんじゃなくて、一気に飲むのをおすすめするよ」
「これを……飲むの?」
俺はうんと言いながら力強くうなずき、脱力して立ち上がれないでしょと水守さんへ言葉をかけた。
足の怪我は血が流れているものの、そこまでひどくはなさそうだった。
(ある程度は回復薬を飲めば治るから心配いらないな)
回復薬を飲むのを待っている間に水守さんの観察をしていたら、よしというつぶやく声が聞こえてくる。
覚悟を決めた水守さんが瓶に口を付けて、勢い良く回復薬を飲み始めた。
回復薬はみるみるうちになくなり、飲み干した水守さんは苦そうに持っていたタオルで口を拭う。
「ありがとう澄人くん。
なぜか本当にという言葉が強調されており、これで効果が無かったらどういうリアクションをしたのか気になる。
俺も初めて飲んだ時には、夏さんがとんでもない物を持ち歩いていると思っていたことを振り返り、人のことは言えないなと笑みがこぼれた。
「話が聞こえていたと思うけど、うちの【ギルドマスター】が話を聞きたいみたいだから来てくれる?」
外部の人へお姉ちゃんのことを言う時には、ギルドマスターと呼ぶようにアドバイスを受けていた。
その通りに伝えると、なぜか水守さんは妙に緊張した面持ちになっていた。
「わかってる……【あの】草壁さんよね? 覚悟はしているわ」
「あのって、どういう意味?」
水守さんがお姉ちゃんのことをなにか知ってそうだったので、何だろうと思いながら質問をした。
「高校卒業と同時にルーク級へ昇格して、水上夏澄と2人だけで危険度Bの境界を消滅させた人よ」
「詳しいね」
「……この街で知らないハンターはいないと思うわ」
相槌を打ちながら立ち上がり、水守さんへ手を差し出すが、自分の力で立ち上がっていた。
ゆっくりと立ち上がった水守さんは、感覚を確かめるように自分の足を気にしている。
「あれ? 警備の人もいないけど……どうしたんだろう……」
いつの間にか周りから人がいなくなっており、水守さんが不思議そうに辺りを見回していた。
俺は危ない集団だと思って見ないようにしていたので、改めて確認するとほとんどいなくなっている。
「もう終わったのかな?」
「私にはわからないけど……」
「そうだよね。ちょっと聞いてくる」
水守さんがお願いと俺へ行って来ていたので、事情を知ってそうな人を探す。
(あの人ならわかるかも)
最初に警備の打ち合わせをした人が残っていてくれており、なにがあったのか聞こうとしたところ、その人が俺の顔を見ると駆け寄ってきてくれた。
「今、ハンター規則に反した、草凪ギルドの構成員27名を逮捕しました。もう近くにはいないと思われますので、ご安心ください」
「草凪ギルドの人たちだったんですか……対応、ありがとうございます」
俺が警備の人を見送っていたら、水守さんが何かを考えるように少しうつむいて頬に手をそえていた。
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