中学卒業編③~殲滅ミッション開始~
(時間だけが指定されているってことは、モンスターを探さないといけないダンジョンなのか?)
現れた青い画面に表示されたミッションに目を通し、このダンジョンでやらなければいけないことを予想する。
境界に突入するといつもどおり宙に放り出されたので、着地して周りを確認した。
「モンスターの姿はなし……ここは平原か……それにしても暑いな」
外は夜だったが、境界内は昼間のように明るく、ねっとりと湿った空気が体にまとわりついてくる。
気温が高く今着ている服では暑すぎるため、上着を脱いでいたら後ろのほうでドサッと何かが落ちるような音が聞こえてきた。
「いっ!?」
地面に腰を打って痛そうにさすっている水守さんは俺と目が合い、恥ずかしそうに顔をそらす。
しかし、外との違いに気付き、周りを見ながら目を点にしている。
「なにこれ……本当に別世界と繋がっているんだ……」
「その格好暑いでしょ? 上着と帽子だけでも脱いだほうがいいよ」
「え? いったい何なの……」
座っている水守さんが呆然としながら上着を脱いでいたら、微かに地面を踏みしめる音が聞こえてきた。
その方向に目を向けると緑色の小人モンスターであるゴブリンが集団で歩いており、こちらには気付いていない。
「水守さん、静かにしてあっちを向いて」
服を脱いで立ち上がろうとしていた水守さんに小声で注意を行い、ゴブリンの方に腕を伸ばして指で示す。
「あれがゴブリン。知ってる?」
「資料で見たことはあるけど……」
不安そうな顔でゴブリンを見る水守さんの様子から、全部説明しなくてもよさそうなので、俺はポイント稼ぎを行うことにした。
ハンターとして最低限の自衛をしてほしいため、アイテムボックスを表示させる。
「それなら、俺はこれから戦うけど、わからないことがあったら聞いてね。武器は何が使える?」
「えっと……剣と薙刀なら……」
「薙刀はないから、剣でいいかな?」
「……持っているの?」
一応ポイントショップに薙刀は売っているけれど、剣なら鉄のものがあるので取り出した。
アイテムボックスへ手を入れる俺を不思議そうに見ていた水守さんは、剣を出すと息を飲んで手で口を覆う。
「嘘……空間魔法? 澄人くんは【無能】のはずじゃ……」
分かっているものの、他人から無能と言われたらカチンくるものがある。
水守さんの足元へ剣を突き刺して、俺はゴブリンと戦うために背中を向ける。
「とりあえず渡しておくね。たまに様子を見るけど、死なないように気をつけて」
「え? 守ってくれるんじゃ……」
「俺は無能だから、同じポーン級の水守さんならなんとかなるよ」
この状況で1人にされるのは不安だろうが、俺でも最初の突入で生き残ることができたので、水守さんでもなんとかなるだろう。
(体力が500もあれば、ちょっとやそっとじゃ死なない)
周辺にはゴブリン以外のモンスターが見当たらないので、ミッションをこなすために水守さんから離れる。
思い切り地面を蹴飛ばして、一直線にゴブリンの集団へ近づき、討ちもらさないように敵の頭上に名前を表示させた。
(数は12体! もうこちらに気付き始めたやつがいる!)
走りながら火の精霊を呼ぶために左手に込めた魔力を開放する。
「火の精霊よ!!」
ゴブリンを焼却するのには十分な量の魔力を放出したため、12体のゴブリンは絶叫を上げながら地面へ燃え崩れた。
すると、今までなかった黒い渦が出現し、動物型のモンスターを放出している。
(倒したら次が出てくるのか? 倒せるだけ倒してやる!)
精霊の力を行使して次々と現れるモンスターを倒していたら、魔力の枯渇を知らせる頭痛が襲ってきた。
アイテムボックスの中にある魔力回復薬を長押しして、小さな画面が現れるのを待つ。
【魔力回復薬が選択されました。使用しますか?】
《はい》《いいえ》
モンスターが焼き上がるを見ながら《はい》を2回選択すると頭痛が収まり、魔力が回復しているのがわかる。
魔力を回復するのにいちいち瓶で飲むのが面倒だと思ったら、この様な使い方があると【お知らせ】が教えてくれたので、それ以降1度も回復薬を飲んでいない。
(あれ? 次が出ない……どこかに隠れているのか?)
新たに表れたモンスターを倒しても次の黒い渦が出現しない。
隠れているモンスターを探すために走り回っていたら、残り時間が数分しかないことがわかった。
【残り時間:0:07】
(後7分しかないのか……この境界にある貴金属でも集めよう)
どんな境界内にも少なからず現実世界では珍しい金属が存在しているため、残りの魔力をモンスターに使うくらいならそちらを回収したほうが後で役に立つ。
地面を覗き込むように膝を折り、表面を見ながら鑑定を行う。
(駄目だ……土には含まれていない)
何の表示も出ないため、土に貴金属は含まれていないようだった。
(境界と現実空間に挟まれる可能性があるから、できるだけ自分の意思で出た方が良いって言われたからな……)
精霊に頼むとしても、最初の一粒でも見つけないと指定ができないため、俺は諦めて境界から弾き出される前に帰る判断をした。
「この! 当たれ!!」
残りが3分程度で出るのに余裕と思いながら境界の出口を目指して歩いていると、水守さんが剣を振り回して何かをしていた。
よく見ると、俺が最後に出現した小動物のモンスターが1体だけ水守さんの方へ来ていたようだ。
「いたっ!? どうして当たらないの!?」
40センチ程度の鼠のようなモンスターは水守さんの周囲を走り回り、時折発達している前歯で攻撃をしている。
水守さんはその動きに翻弄されて、削られたように足から血を流していた。
(残り時間は1分……帰ろう)
時間がないため、火の精霊で得意気に走り回っていたネズミを焼却する。
「きゃっ!?」
水守さんが腰を抜かして尻餅をつき、燃えているモンスターを見て息を飲む。
「帰るよ。立てないみたいだから、担ぐね」
「ちょっと!?」
地面に放り出していた剣を回収してから水守さんを肩で担ぎ、境界を後にする。
【ミッション成果】
全40体のモンスターを討伐。
8000の貢献ポイントを授与します
境界から出る時に現れた青い画面に現れたミッションの結果を見ながら水守さんを肩から降ろす。
水守さんは何も声を出さず、地面に座ったまま立とうとしない。
(どうしたんだろう?)
ため息をつきながら顔を覗き込むと目の焦点が合っていなかった。
夜のこんな場所に水守さんを1人にして放っておけないので、どうしようかと悩んでいたら、警備の人と大勢の人がもめているのが見える。
見たことがある縦にも横にも大きな男性は、警備員さんを押し退けながら必死の形相でこちらを睨んでいた。
「おい! 境界を独占するなよ! 卑怯者!!」
その声に続くように周囲の人も俺に向かって暴言を浴びせてくる。
(一体なんなんだよ……)
厄介事を2つも抱えてしまい、俺は1人では無理だと思って、スマホを取り出してお姉ちゃんへ連絡した。
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