中学卒業編②~夜の境界発見~

(嘘だろ? こんな場所で!?)


 夜の街を走っていたら境界が現れる前兆の違和感を覚えたため、周りにいる人に目を配る。

 どっちの方向に向かおうか直感に頼ろうとしたら、後ろから誰かが近づいてきていた。


「えっと……こんばんは、澄人くん……」

「水守さん? こんな遅くにどうしたの?」

「私は観測センターの手伝いをしてきた帰りなんだけど……澄人くんこそ何を慌てているの?」


 制服を着ていない水守さんは、ショートヘアが隠れる耳あて付きの白いニット帽をかぶっており、声を聞かなければ誰かわからなかった。


「そうなんだ。また明日ね」

「えっ!? ちょっと!?」


 冷たい対応になってしまって申し訳ないが、フィールドミッションができるか否かの瀬戸際なので、寝る前に謝罪のメッセージを送っておけば問題ないと判断した。


 その場を離れて自分の勘を頼りに走っていたら、人気の無いビルの間から境界が生まれようとしている。


「澄人くん、待って!」

「水守さん、付いてきちゃったんですね」

「血相を変えていたけど、こんなところに何の用なの?」


 まだ境界線が現れず、水守さんは周りをキョロキョロ見ながら顔をしかめる。

 境界が生まれる瞬間というのは珍しく、戸惑っている水守さんが発見数の秘密を知りたがっていたことを思い出す。


「今からここに境界が生まれるんですよ」

「何を言っているの? そんなこと分かる訳ないでしょう? それができれば――」


 俺の横から青い光が漏れ始めると、水守さんは口を開いたまま言葉を失った。

 その点は俺の目線から頭上までひび割れるように空気を割り、青い光を放ち始める。


「水守さん、俺が見つけたから観測センターに連絡するよ? 人がこないように見張ってもらってもいいかな?」

「え、ええ……」


 小刻みにうなずく水守さんは目の前で起こったことが信じられないように、青い線から視線を外さない。

 仕方がないので、俺が報告を行いながら誰か来ないか見張りもこなす。


 危険度判定のために待っていたら、この後のことをどうするのか水守さんに聞いていないことに気が付いた。


「水守さん」

「な、なに!?」


 境界が発生してからずっと青い光を見つめていた水守さんははっとしたように、怯えながら俺のほうへ顔を向けてきた。


「俺はこの境界の危険度がGかHだったら入るけど、水守さんはどうする?」

「どうするって……澄人くんは境界へ入ろうとしているの!?」


 水守さんは耳を疑うように、俺の言ったことを聞き返してくる。

 低ランクの境界なら俺1人でも何とかなり、申請も可能なので不思議なことはない。


「お待たせしました。発生した境界の危険度はGです」

「突入申請と警備員の派遣をお願いします」

「はい。突入する方の階級と名前、所属ギルドがあればお願いします」


 観測センターの人が事務的に対応してくれて、話がスムーズに進んでくれる。

 ただ、水守さんの意思がわからないので、目線で合図を送ると、小さく頷いた。


 入る気があると分かったので、顔からスマホを離して水守さんの目を見ながら聞きたいことだけを言う。


「階級と所属するギルドはある?」

「私もポーン級……ギルドは……ないわ」

「ありがとう」


 観測センターの方に俺と水守さんで突入することを伝えたら、相手が驚くような声を出してうろたえる。


「ポ、ポーン級の水守真友ですか? 本当にそこにいるんですか?」

「いますよ。変わりましょうか?」

「……お願いします」

「水守さん、観測センターの人が話をしたいって」


 スマホを水守さんへ差し出して受け取るのを待っていると、警備の人がこちらへ来ているのが見えた。


「はい。俺は警備をしてくれる人と時間の相談をしてくるから、突入申請しておいてね」


 水守さんがいつまでたっても受け取ってくれないので、押し付けるように渡す。


 警備の人たちは境界を見つけると慣れた手つきでビルの隙間を閉鎖し、滞在予定時間を聞いてくる。

 長くいるつもりはないので、1時間と伝えて打ち合わせを終わらせた。


「だから、私も境界を体験してみたいの! 申請できるんだからいいでしょう!? 切るよ!?」


 境界の近くでは水守さんがまだ電話をしており、なぜか言い争うような声を出している。


(何を余計な話をしているんだ? 時間もないし入るぞ)


 もう突入するための準備を整えたので、すぐに入れるものだと思っていた俺は思わずスマホを奪い取った。


「あっ!?」


 スマホを取り上げられた水守さんは唇を噛み締めて、後ろめたいことがあるように俺から視線を外す。

 電話相手もまだ何か言いたそうにしていたが、余計な会話をせずにさっさと終わらせる。


「すいません。申請は通りましたか?」

「……通っています。清澄ギルドの草凪澄人、水守真友の2名で突入可能です」

「対応ありがとうございました」


 通話を終了して、スマホを守るようにハンタースーツの内側の胸ポケットへ入れた。

 水守さんはばつが悪そうに視線を泳がし、何の準備もしていない。


「境界に入るのが初めてなんだね」

「そ、そうだけど問題ある!?」

「別に……低ランクの境界だけど、相手によっては死ぬかもしれないから俺から離れないようにしてくれるかな?」


 俺が初めて入った境界が運悪く、酸で溶かす攻撃をしてくるスライムだった。


(土の壁も薄いと貫通するから魔力の消費がはやいんだよな……いないことを祈ろう)


 今回の境界にスライムがいたら面倒だなと思いながら、滞在時間の目安を知るために水守さんのステータスを鑑定する。


【名 前】 水守真友

【年 齢】 15

【神 格】 1/5

【体 力】 500/500

【魔 力】 600/600

【攻撃力】 H

【耐久力】 G

【素早さ】 H

【知 力】 G

【幸 運】 F


(神格が1のハンターってこんなもんだよな……最初、俺の体力【50】しかなかったんだけど……)


 初期能力の格差を感じながら、ダメージがなければ水守さんも100分は境界内にいられることがわかった。


「じゃあ、入ろうか」

「う、うん……」


 水守さんは持っていた肩から下げていたバッグを両手で握り締めて、こちらに向かって歩き出す。

 俺は突入場所の安全を確保するために、右手に魔力を込めながら境界に飛び込む。


【フィールドミッション:60分間モンスターを討伐せよ】

 成功報酬:貢献ポイント

 失敗条件:ミッション受注者の死亡

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