中学卒業編①~広じいの謝罪~

「すまん澄人! わしが悪かった!」

「広じい、どうして草根高校の理事長ってことを俺だけに黙っていたの?」


 師匠が居間で床に頭を着けて土下座をしており、本当に申し訳なさそうに謝ってくれていた。

 それでも、見学に行っただけであんな対応をされた高校には不信感を抱くため、このままでは進学先として選ぶことは難しい。


 事の発端は、師匠が草根高校へ入学ができるように推し進めようとしていたことに問題があるとお姉ちゃんが教えてくれた。


 また、師匠が謝りたいとお姉ちゃんへ電話が来てから、草根高校で起こったことを夏さんと聖奈には説明してある。


 事情を知っているお姉ちゃんや夏さん、聖奈が眉をひそめて見つめる中、気まずそうに師匠が頭を上げた。


「澄人が草根高校へ行きたいと決心してくれた時に、もう用意はできていると、師匠っぽく言いたかったんじゃ……」

「そんなことのために?」


 呆れながらそう言うと、師匠はすまんとつぶやき、手を膝に置きうなだれていた。


「今日は、澄人が見学に行くと香から聞いたから、理事長室にわしがいて驚くと思って、期待して待っていたらこんなことになるとは……」

「広じいは俺へ良いところ見せようと思って空回りしているよね」

「それについては言い訳のしようがない……」


 俺はハンターとして階級を上げていきたいので、あんな学校でも少しは通いたいと考えている。

 ただ、俺に校舎を切らせておいて、学校がどんな対応をしてくるのか、まだ師匠から話を聞き出せていない。


「それで、俺のことはどうなりそうなの?」

「あれから臨時の職員会議を開き、そこで演習場で撮影されていた動画を見せたら、全額免除の特待生として迎えたいという結論になった」

「ふーん」

「澄人……それでは不満か?」


 納得すると思っていたのか、全額免除と言う師匠は期待を込めて俺を見てきていた。

 ただ、校舎を切らせておいて正直それだけか・・・・・と思ってしまったので、拍子抜けをしている。


「お兄ちゃん、私と一緒だよ」


 嬉しそうに俺の横顔を覗いてくる聖奈だったが、それを聞いて自分の中にあるモヤモヤが分かった気がした。


「そうだよな。教員にもできない演習場ごと校舎を叩き切るなんてことをしたのに、聖奈と一緒っていう特にひねりのない対応なんだよな」


 それを聞いて、師匠は深く深呼吸を行い、考えるように目と口を固く結ぶ。


「……なにが……望みなんだ?」


 何も浮かばなかったのか、師匠は心苦しそうに声を絞り出していた。

 俺がこうしてほしいというのは簡単だが、それは今後の付き合いをする上で得策ではない。


(あくまでも学校からの申し出という形にしてもらわないと、俺は納得しない)


 別にこれを言って入学できなくても別の道があるので、ここは強気に対応をすることにする。


「俺が納得するような提案をしてください。それを考えるのがそちら側の仕事ですよね?」

「……わかった。それと勝手に澄人を試した教員が謝罪をしたいと言っているんだが……」


 謝りたいと言われても、それをされるくらいなら学校としての誠意を見せてほしい。

 草矢さんの顔が一瞬脳裏に浮かび、やはりどうでもいいと感じてしまった。


「もう会うこともない人かもしれないので、断ってください。もし、草根高校へ行くことになったらよろしくお伝えいただければ幸いです」

「必ず伝える……わしは、今後について考えるため学校へ戻る」

 

 丁寧に謝罪を断ると、師匠は再び頭を下げてから居間を出ていこうとしている。

 流石に見送らないのは失礼なので、立ち上がって3人の方を向く。


「玄関まで見送ってきます。何か伝えることはありますか?」

「今週末の訓練をどうするか、聞いておいてくれる?」


 お姉ちゃんがスマホを見てから、俺へお願いと言いながら微笑んできていた。

 うなずいてわかったと言いながら師匠の後を追いかけ、横へ並び声をかける。


「師匠、週末の訓練はどうするのか、お姉ちゃんが気にしていましたよ」

「そうだったな……4人で境界を探してきてくれ。わしは学校の修復計画といった今回の対応で行けそうにない」


 いつも力強くて若々しい師匠が力なくそう言うと、歳以上に老けて見えてしまった。

 今回のことは師匠も堪えており、玄関に着くと俺を見ながら悲しそうに軽く笑う。


「まあ……全部わしの力不足で招いてしまったことだ。澄人は気にしないでくれ」


 教員が結託して俺を試すことをするなんて思ってもいなかったようだ。

 最初から学校に来た俺を師匠が出迎えていれば変わったのかもしれないと考えつつも、なぜあのような対応をされたのか考える。


「あの人たちにはいらついたけど、ハンター関連の人は少しでも俺のことを知っていればあんな対応をされるのかな?」

「悔しいが……そうだな。わしも正澄様から言われていなかったら、お前の力を信じることに時間がかかっただろう」

「じいちゃん直々に記憶を封じられたからね……それを分家の人たちが広めているからそうなるか……」


 話を聞いていたら、じいちゃんは最後にこの家で俺の記憶を封じていたらしい。

 それを知っている人たちが俺にハンターとしての能力が無いと思うのは当然だろう。


「それを払拭したいのなら、今回のようにお前がハンターとしての力を示すしかない」

「そう……師匠、寒いから気を付けてください」

「……ああ、行ってくる」


 玄関を出る師匠の背中を見送り、冷たい風が吹き込んでくるため、戸をしっかりと閉める。

 居間へ戻りながらスマホを見ると、まだ明日になるまで5時間も余裕があった。


(ライフミッションをこなすために走ってくるか)


 今日のライフミッションを確認し、1ポイントでも多く獲得するために居間にいる3人へ一声かけてから外へ出た。

 冬の夜の空気は体の芯から冷やしてくるので、少しでも暖まるために走り始める。


(目標は10キロ、今日中に次も終わらせたいな)


【ライフミッション:10キロ走りなさい】

 残り8.6キロ

 成功報酬:貢献ポイント600


 視界の端でライフミッションを表示して残りの距離を確認していたら、背筋からぞっとするような感覚が全身を駆け巡った。

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