進路選択編⑧~草根高校見学試験~

 いきなり力を見せろと言われて困り、どうしようか悩んでいたら草矢先生が言葉を続けた。


「私たちは血縁のみでここへ入ろうとしているきみを受け入れることはできない」

「先生、なんてことを!?」


 草矢先生につかみかかる勢いで詰め寄ろうとしたお姉ちゃんを止める。

 今すぐにでも帰りたい気持ちを抑え、草矢先生の後ろにいる人たちを見ながら口を開く。


「お姉ちゃんいいよ。よくわからないですけど、【力】を見せればいいんですよね?」

「そうだ。きみをこの学校に入れても良いと思える可能性を示してほしい」


 この人たちが求めているものが俺にはわからないが、お姉ちゃんがいる手前、自分にできることを全力で行って、ダメという判断がされればここを諦めることにする。


(こんなことをやりにここへ来たんじゃないんだけどな……)


 地下にある演習場の天井を見上げ、この上には何があるのか知る必要がありそうだった。

 質問をしようとしたら、腕を組んで顔をしかめている草矢先生しか名前がわからない。


「草矢先生、この上にはなにがあるんですか?」

「……第1校舎が建っているが、それがなにか?」

「危険なので生徒を避難させてください」

「どういうことだ?」


 俺を観察していた大人たちがざわめき始める中、草矢先生だけは怒るように顔を赤くする。

 剣を振って被害者を出したくないので、俺はなんとしてもこれから言うお願いを聞いてもらわなければいけない。


「これからこの天井を切ろうと思います。校舎内にいると危険ですよ」

「ここを切る!? 何を馬鹿なことを言っているんだ!?」

「切りますよ。切れなかったら俺は二度と草凪を名乗らず、あなたたちの前に現れません。なので、避難させて下さい」


 そう言いながらアイテムボックスから草薙の剣を取り出すと、それだけで数人が息を飲み俺を見る目が変わった。

 草矢先生も例外ではなく、俺の持っている剣を見つめたまま、絞るように声を出す。


「わかった……20分待ってほしい」

「では、準備をしているので、終わったら合図をお願いします」


慌てふためく人たちを後目に、今の自分にできることをこの人たちの前で行うために演習場の中央へ向かった。

 持っていた剣を膝下で構えてから力を入れると、刀身からまばゆい金色の光が散りばめられ始める。


 それを見たお姉ちゃん以外の大人が驚愕して行動が機敏になったので、光を漏らすのは正解だったようだ。


(これでも反応がなかったら困るところだったけど、ちゃんと反応してくれてよかった)


 問題があるとすれば、上の校舎にいる人が逃げるまでこの体勢を維持しなければいけないということだ。

 この力を放つ範囲の狙いをじっくりと定めないと余計なところまで切ってしまいそうなので、集中力を切らしてはいけない。


 ゆっくりと深く呼吸を行い、剣を振り上げた時の軌跡をはっきりと思い描く。


 何度かの深呼吸の後、お姉ちゃんが両手を使い頭の上で大きな丸を作ってくれた。

 その周りには肩を大きく上下に揺らす人たちが集まっており、俺のことを睨むように見つめている。


(力を見せろと言うのなら、遠慮なく振ってやる!!)


 頭上の天井に向かって光が解放されるように思いっきり剣を振り上げる。


「神の一太刀!!」


 剣からまばゆい黄金の光が放出され、天井に当たったことに気付かないまま、空に向かって立ち上っていく。

 光は数秒ほどで収まり、演習場の天井を裂くようにくっきりと開いた一文字からオレンジ色の空が見える。


 この場にいる全員が信じられないといった表情で空を見上げている中、帰宅するためにアイテムボックスへ剣を片付けた。


「草矢先生、これが今の俺の全力です。検討をよろしくお願いします」


 差し込んでくる夕日がまぶしく、草矢先生の表情をうかがうことができないが、何も言ってこないことから状況がわかっていないように思える。

 また、この力を使って目立つなということが難しいので、騒ぎになる前にここを離れたい。


「お姉ちゃん、今日はもう学校を見る気がなくなったから帰ろう」

「……そうね。そんな気分じゃないわね」


 お姉ちゃんも帰ると言ってくれたので、首から下げていたタグを押し付けるように草矢先生へ返す。


「検討の結果はおね……澄香さんへ連絡をお願いします。それでは失礼します」


 この場に来ていた人たちを見てから頭を下げ、お姉ちゃんと一緒に来た道を戻り始める。

 すると、後ろから大きな足音を立てて誰かが俺たちに追い付こうとしていた。

 

「ま、待ってくれ! 話を聞いてほしい」


 草矢先生が息を乱して駆け寄ってきていたので、止まらずに話をしてもらう。


「そんなに焦ってどうしたんですか? もう話すことありませんよね?」

「きみを試すようなことをして申し訳なかった! 落ち着いて話を聞いてくれないか?」


 一方的に評価するような場に連れてこられて頭に来ているので、今ここで話を聞く気が無いことをはっきりと伝える。


「あなたたち教員が不可能だと思っていたことをするハンターをどんな待遇で学校に迎えるかという話がもうできるんですか?」

「え!? それはどういう……」

「ここ以外にもハンターを教育している高校はありますよね? 貴校はどんなことを俺へしてくれるんですか?」


 お姉ちゃんが通信制の大学でハンターのことを勉強していると知ってから、同じように高校でもそのようなものがないのか調べ、1校だけ見つけることができていた。

 その選択肢があるので、わざわざこんな対応をされる草根高校へ通う気が完全に失せている。


(俺に通ってほしいと言うのならそれなりの対応をしてほしい。試されるなんて心外だ)


 失礼な対応をしてきた目の前で困っている【草矢さん】のことを敬う気持ちもないので、さっさとどいてほしい。


「それは……その……」

「後日、その件も含めて貴校の対応をお聞きします。それでは失礼します」


 返す言葉がなく言い淀んだ【草矢さん】へ軽く頭を下げて階段を上り始めた。

 追いかけてくる足音が聞こえず、来た道を戻っていると寄付金の札が視界に入る。


「お姉ちゃん、ギルドのお金って今10億くらい余裕ある?」

「……澄人が大量に境界を発見したのと、大地の精霊で貴金属をありえない量回収したおかげでだいぶ・・・余っているわ」

「それなら、切られた校舎を建て替えなきゃいけないと思うから、寄付金お願いしてもいい? 俺の名前で10億円」


 お姉ちゃんは俺の言葉を聞いて苦笑いし、行ってくると言いながら事務室へ向かってくれた。


「澄人!」

「ん?」


 その手続きが終わるのを廊下で待っていたら、聞き覚えのある声が俺を呼んでいる。

 声が発せられた方向を見ると、なぜか師匠が草矢さんなど、数人の教員を従えてこちらに来ていた。

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