進路選択編⑦~草根高校、学校見学~

 すれ違う高校生に見られながらお姉ちゃんの後に続いて歩いていたら、校舎からスーツを着た人がこちらへ一直線に向かってくる。


 40代くらいに見える短髪の男性が俺たちの前で立ち止まり、お姉ちゃんの顔を見ているようだった。


「ひさしぶりだな澄香」

「先生、お久しぶりです」

「お前が卒業して2年か? 懐かしいな」


 お姉ちゃんが妙にかしこまり、その男性と話を始めた。

 話の内容からこの学校でお姉ちゃんのことを教えていた先生だと思われる。


 その先生と目が合うと、品定めをされているかのように全身を見られた。


「この子が例の?」

「そうです。この子が草凪澄人です」

「そうか……なるほど……」


 その先生が値踏みするように難しい顔で見てきていたため、俺もこの人の能力を【鑑定】で覗くことにした。


(ダメだ……この人も神格5以上か……)


 お姉ちゃんのことを教えていた人なので、普通ではないと思っていたがここまでとは思わなかった。

 そして、名前を聞いて納得をするようにうなずいていたので、俺の神格について知っている人なんだろう。


 一方的に知られているのは良い気分ではないので、お姉ちゃんの袖を少し引っ張った。


「お姉ちゃん、この方は?」

「あ、ごめん澄人。この人は――」

「はじめまして、草凪澄人くん。私はこの学校の教員で、主に実習を担当している草矢です」


 草矢先生は軽く微笑んで俺へ握手をするように手を差し出してくれたので、握り返した。


「今日は総合学科を見学したいとのことなので、あちらの校舎へどうぞ」


 手を離すとすぐに誘導を始め、目の前にある校舎ではなく、さらにその奥にあるきれいな建物を目指す。

 校舎にはまだなにかの活動をしている生徒の姿が見え、数人の人と目が合ったような気がした。


 誘導された先には来校受付と書かれた札が掲げられている入り口があり、簡単に入れそうにない。


「手続きをしてくるので、少し待っていてください」

「よろしくお願いします」


 草矢先生がその受付へ向かってくれるので、懐かしそうに校舎を眺めているお姉ちゃんに声をかけた。


「お姉ちゃんもこの校舎に通っていたの?」

「そうよ。この校舎は建て替えたばかりの時に入学したわ」


 新しい校舎は手前にあった校舎と渡り廊下で繋がっていて、繋ぎ目で分かりやすく色が変わっている。


 ちょうど、古い校舎から新しい校舎へ移動している生徒が見え、胸元からカードのようなものを取り出していた。


 それを新しい校舎へ入る直前にかざすような仕草をしており、この建物に入れる人が限られているような印象を受ける。


(普通科の生徒と総合学科の生徒を分けているのか? だとしても露骨すぎて逆に怪しまれると思うんだけど……まあ、今はどうでもいいか……)


 分けられているとしても、何かしらの理由があってそうなっているのであり、入学してない今の俺には関係ない。

 余計なことを考えないようにしたら、草矢先生が首から下げるネームタグを持って近づいてくる。


「これが見学者用のタグなので、校舎内では必ず首から下げておいてください」

「ありがとうございます」


 渡されたタグの紐を持ち、頭を通してから首に下げた。

 それを見届けられてから校舎へ入る前に、草矢先生がポケットからカードを取り出す。


 それを自動ドアの横にある端末へかざすと扉が開き、中が入れるようになった。

 お姉ちゃんはその様子を見てなにも表情を変えないため、ここでは普通のことなんだと感じた。


「それでは校舎内を案内します。一足制のため、靴はそのままで結構です」


 受験した県外の高校でも体験したことがある靴を履き替えない一足制を導入しており、このまま校内にはいれるようだ。


 校舎に入ると壁一面に手のひらサイズの木札が並べられていて、この建物を作る時に援助をした人の名前と金額が書かれている。


 その中でひときわ大きな札が目立つように10億寄付したと言う人の名前が一番上に掲示してあった。


「……あれ? じいちゃんの名前だ」

「ん? そう言えば作り始めた時は確か……」


 達筆な字で草凪正澄と書かれており、それを見つけたら足が止まる。

 同じものを見てお姉ちゃんが腕を組み、何かを考えるようにうーんとうなっていた。


「草凪正澄様は建築計画が立てられた時、本校の理事長を務められておりました」

「そんなこともしていたんですね」

「ええ、ご立派な方でした」


 草矢先生がおじいちゃんの名前を見ながら拳を握りしめており、深呼吸をしてから息を軽く吐く。

 一瞬俺のことを鋭い眼光で見てきた先生は、俺から目を離さずに口を開いた。


「それでは最初に地下の演習場へ向かいましょう」

「はい、お願いします」


 なぜか緊張しているように額に汗を浮かばせる先生がゆっくりと歩き始めたので、見学対応に慣れていないのかと思いながら後に続いた。


 俺の横を歩くお姉ちゃんも口数を減らし、前にいる先生の背中から目を離さない。


 階段を降りた先にはドームのように広がったグラウンドほどの空間があり、地面には芝生がひかれている。

 芝生の上を歩いていたら、急にお姉ちゃんが俺の肩をつかんできた。


「先生、どういうことですか? 校内を見学させていただけると聞いておりましたが」

「この学校は将来を担うハンターを育成する場所だ……可能性の無い者を引き受ける義務はない」


 草矢先生が顔を険しくしながらそう口にしながら、大きく手を広げて俺を見てくる。


「ここに総合学科の教員が揃っている。きみに全員を納得させる力を見せてほしい」


 後ろを振り返ると壁沿いに人が並んでおり、俺に注目しているのがわかる。

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