進路選択編⑤~現在の草凪家の様子~
家に帰るとお姉ちゃんや夏さん、聖奈が居間のこたつに入ってテレビを見ていた。
ただいまと言うと返事をしてくれる人がいることに感謝をしながら、この家にある部屋で着替えを行う。
前まで住んでいた小屋から荷物を移動させて、今はこっちの家に4人で住んでいる。
お姉ちゃんや夏さんは家を持たずにアジトへ自分の荷物をため込んでいたため、広すぎる家なので一緒に住んでほしいと言ったところ、二つ返事で移り住んでくれた。
今は3人とも同じ場所にいて個別に相談ができそうにないので、居間が静かになるまで勉強をすることにする。
――トン、トン
勉強を始めようと机にノートと教科書を広げていたら、部屋の扉が控えめに叩かれた。
「澄人、今いいかしら?」
「大丈夫だよ。どうぞ」
うかがうように小さくお姉ちゃんの声が聞こえてきたので、返事をしてから扉の方へ体を向ける。
ドアを開けるお姉ちゃんはパジャマに着替えており、寝る準備を終えているようだった。
その姿を見ながら先生の言葉を思い出し、俺はお姉ちゃんがハンター以外になにをやっているのか知らない。
何かを聞きたそうに俺の顔を見てきたお姉ちゃんより先に、質問をするために口を開いた。
「お姉ちゃんって、平日の昼間は何をしているの?」
「昼間? 通信制の大学の授業を受けているけど、言っていなかったかしら?」
「初めて聞いたよ。どうしてなのか聞いてもいい?」
座布団を2枚押し入れから出して、お姉ちゃんへ座ってもらうようにどうぞと言いながら用意をする。
お姉ちゃんは扉を閉めて、ありがとうと言いながら座布団へ腰を下ろした。
「一番は、ハンターと大学生の両立ができるからって理由が一番ね。あと、ギルド管理の資格が欲しいっていうのもあるわ」
「ギルドを管理するのにも資格が必要なの?」
「それはそうでしょ……言っていなかったっけ? 今のギルドは正澄様が作ったから、存続させるのに毎月お金を払っているのよ」
「初めて聞いた……それって、お姉ちゃんが管理の資格を取れば払わなくてよくなるの?」
「ええそうよ。必要単位は取ったから、後は大学を卒業できれば取れるわね」
振り返るとハンター以外のお姉ちゃんのことやギルドの仕組みについて話を聞く機会を作らなかった。
初めて知ることが多く、今まで自分のことで精一杯で周りを見る余裕がなかったようだ。
反省をしながら、お姉ちゃんへ率直に俺の進路についてどう思っているのか聞いてみたくなる。
「お姉ちゃんの意見を聞きたいんだけど、俺はどの進路へ行った方が良いと思う?」
「え!? そうね……やっぱり、師匠の言う通り、草根高校の総合学科かしら……澄人には色々な体験をしてほしいわ」
自分の意見を押し付ける言い方ではなく、お姉ちゃんなりに俺のことを考えてくれて助言をしてくれた。
(そんなに草根高校って良い高校なんだろうか……)
何度も話には上がるものの、学校開放などで見学へ行ったことがないので、どんな高校かわからない。
腕を組んで今から見学させてもらえるのか悩んでいたら、お姉ちゃんが困ったように俺を見る。
「ま、まあ、私の意見だからあんまり気にしないでね」
「ううん。言ってくれてありがとう。草根高校の見学ってできるかな?」
「行ってくれるの!?」
見学という言葉に飛びつくように身を乗り出してきたお姉ちゃんは驚きながら喜んでいた。
まだ決めていないので、ぬか喜びをさせないようにちょっと待ってと言いながら両手を向ける。
「見たこともない高校へ行くって判断ができないだけだよ」
落ち着いて座布団に座り直したお姉ちゃんは俺の話を聞いてくれた。
「……それもそうよね。ちょっと待っていなさい」
そして、そう言ったあと、部屋から出てどこかへ行ってしまった。
待つように言われたので、座布団に座ってぼーっとしていたらお姉ちゃんが苦笑いをしながら戻ってくる。
「学校に見学希望の連絡をしたら、明日の夕方に見に来ても良いって言ってくれたわ」
「今!? 夜の10時だけど人いるの!?」
この数分で見学の約束を取り付けるお姉ちゃんに驚き、こんな夜遅くに学校に人がいることが信じられない。
どれだけ俺に草根高校へ行ってほしいんだろうと思っていたら、お姉ちゃんが平然と言葉を続けた。
「昼間ハンターとして活動している人のために定時制もあるのよ。それでどうする?」
「行くよ。一応候補として見ておきたい」
「ありがとう。明日、学校が終わったら迎えに行くわね」
「お姉ちゃんも来てくれるの?」
「もちろん、一応保護者ですから」
「よろしくお願いします」
俺が頼むと、お姉ちゃんが任せてーと言い、微笑みながら部屋を出て行く。
座布団を片付けてから椅子へ座ると、たくさん話をして疲れてしまった。
それでも習慣にしている勉強を行い、自分の生活リズムを整える。
勉強を終えてからスマホを見ると、メッセージが1件来ていたので、内容を確認した。
【明日の放課後、図書室へ来てくれませんか? 連絡待っています】
間の悪いことに委員長である水守さんから、放課後に用事を頼まれようとしている。
いつも助けられている人からの頼みなので、どうしようかと悩んでしまう。
【どれくらい時間がかかりますか? 30分くらいなら大丈夫です】
慣れない操作で文字を打ち終わり、一息つこうとしたら数秒もしないうちにスマホが震えた。
【すぐに終わります。図書室で待っていますね】
水守さんから来たメッセージを読み、机にスマホを置いて寝る準備を始める。
お風呂に入る準備をしながら、自分の学校生活を振り返った。
(水守さんも直接言ってくれればいいのに……そんなに話しかけづらいのかな……)
わざわざ夜に連絡をしてきた水守さんのことを考えながら広めのお風呂に入り、体を休める。
次の日の放課後、約束通りに図書室へ入ろうとしたら入り口に休館という札がかかっていた。
(あれ? 開いてない?)
学校内でスマホは使えないので、教室に戻って水守さんを探すためにこの場を離れようとした。
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