進路選択編③~進路への苦悩~

 あれから土日の2日間にわたっていくつもの境界を消し去ったが、討伐ミッションが発生するのはその日最初に入った時だけだった。

 討伐ミッションもライフミッションと同じように、1日1種類だけ現れることに確信を持てた。


 明日から1週間学校へ通えば冬休みになり、それまでに進路を決めろと担任の先生から言われている。


(俺の好きなようにすればいいって言うけど……正直決め手がない)


 帰りの新幹線に乗っている最中にそのことばかりを考えてしまい、会話をする気になれなかった。

 今も窓の外に流れる風景に目を向けているものの、ここがどこなのかさえわからない。


(同世代のハンターと交流……するのも面倒なんだよな……)


 同じクラスの人ともあまり話をしないのに、ハンター同士の交流ができると聞いても魅力には感じなかった。

 それに、その高校に通わなくてもハンターとしての活動はできる。


(ただ本当に近いんだよな……片道5分で行けるのは草根高校だけ……)


 どんなふうに考えても答えが出ず、呆然としていたら誰かに肩を強くつかまれて揺らされる。


「お兄ちゃん!? 着いたよ!?」

「え? ああ……ありがとう」


 いつの間にか草根駅に着いており、俺以外の4人は席を立って新幹線から降りようとしていた。

 慌てて荷物を持って4人の後に続き、駅を出て車で帰ろうとしていたので、俺は立ち止まる。


「俺はちょっと欲しい本があるから、先に帰っていてくれる?」

「お兄ちゃん?」


 先に車へ乗っていた聖奈がドアを開けながら怪訝そうな顔をして俺を見てきた。

 運転席に座ろうとしたお姉ちゃんは、後部座席のドアを閉め、微笑みながらうなずいてくれる。


「澄人、大きな荷物は運ぶわ。気を付けて行ってらっしゃい」

「ありがとう」

「それと、遅くなりそうだったら連絡しなさい」

「わかったよ」

 

 お姉ちゃんが荷物を受け取ると、見送るように手を振ってから車の荷台へ運んでくれた。

 俺は自分勝手なことをしているとわかっていながらも、頭を下げてから適当に歩き始める。


(とりあえず、本を買いに行こう)


 正直、1人になれるならどんな理由でもよかったのだが、一応自分の言葉が嘘にならないように本屋へ向かうことにする。

 日の沈んだ寒空の下、厚手のコートのポケットへ両手を入れて、白い息を吐きながら歩いているとスマホが震えた。


水守みずもり 真友まゆ:冬休みのどこかで、またクラスで集まりませんか?】


 メッセージを読むとクラスの学級委員長から義務的な文章が送られてきており、立ち止まって丁寧に断りの文章を打ち始める。


 今年の夏に大勢のクラスメイトと遊ぶことに参加したことがあり、その時に話があまりにも合わず、最終的に孤立した俺はほとんど委員長としか話をしていなかった。


(ゲームやテレビ、映画とかの話をされてもまったくわからなかった……今だと少しくらいは……)


 草凪の家に移り住んでからは生活が変わり、そっちには最新の家電製品が揃っているので、テレビなどを見る時間を取っている。

 1つのニュースでもテレビとネットで反応が違い、自分の意見を持つことの大切さを知ることもできた。


 それでも夏の苦い思い出があるため、今回は不参加の意思を委員長へ伝える。


【冬は受験対策で空けられそうにありません。不参加でお願いします】


 打った文章の送信を行い、かじかんだ手にはーっと息を吐いて温めてから本屋を探し始めた。


(あ、ここでいいや……休憩もできそうだし、入ろう)


 駅に隣接している大型ショッピング施設の中に本屋さんの表記を見つけたため、建物の中へ入る。

 入り口に大きく階層毎の詳細な配置図が壁に描かれていたので、眺めていたら背後から誰かが近づいてきた。


 人通りの多い場所だから特に気にしないでいたら、縦にも横にも大きな男性がわざわざ俺の前に回り込んでくる。


「澄人か? こんなところでなにをしているんだ?」

「先生……初めて学校以外で会いましたね」


 体格が良い担任の先生は俺へ遊びに来ているのかと笑いかけてくれたが、進路のことを考えるとどうもそんな気分になれない。


「まあ、こんなところに立っていたら迷惑だし、悩んでいる生徒へお茶の1杯くらいおごってやる」

「俺が悩んでいるってわかるんですか?」


 先生が俺の心を見透かしているかのように、施設の中へうながしながら話しかけてきた。

 そんなに表情に出していたのかと思って質問をしてみたら、先生は八重歯を見せて笑ってくる。


「進路先の紙を空白で出したのはお前だけだからな。俺じゃなくてもそれくらいわかるさ」

「すいません……1時間悩んでも書けませんでした」


 心から申し訳ないと思うので謝ると、担任の先生は気にするなと言いながら俺の背中を軽く叩く。


「学年1位の進路相談をしろと言われたばかりなんだ、ちょうど良かった」

「休日は仕事を忘れるが口癖じゃありませんでしたか?」

「それよりも俺がすっきりとした気分で年を越せるほうが肝心だ。いくぞ」


 早く来いといいながら歩き始めた担任の先生の後を追い、ショッピングセンターの中へ入る。

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