進路選択編②~中学後の進路~

「あの高校って、草根くさね高校でしょ? ……俺が行ったら絶対に目立つよね」

「そういう土地だからな。しかし、同世代のハンターとも交流ができるし――」


 師匠がなんとか【草根高校】へ行かせようと、何度聞いたかわからない説得をしてきた。

 俺の住んでいる街にも使われている草根という名前の由来を聞き、ちょっと行く気が失せている。


(【草】凪の家が【根】付く土地だから、草根市と名前がつけられるとかスケールが大きい……)


 あの街に住んでいるハンターならほとんどの人がこの話を知っており、中学生にしてビショップ級になっている聖奈はそのこともあいまって有名のようだ。


(目立つのは嫌なんだよな……進路どうしよう……)


 分家の人が俺のことを無能力のためにじいちゃんから草凪家を追放されたと言いふらしてくれたおかげで、まだそこまで知られていないが、ハンター活動をしているためそれも時間の問題だろう。


 家のことや清澄ギルドで活動したいということを考えた結果、合格していた県外の進学校への入学は辞退してしまった。


(両親から離れたいから県外にしたのに、その原因が違ったからな……わざわざ外へ行く理由もなくなった)


 今は、草根市にある高校で家から通える範囲のところが進学先の候補になっている。

 その中でも草根高校は県内でも有数の進学実績もあり、家から5分以内で着くため条件としては最高に良い。


 さらに、草根高校はハンターになる高校生が集まる専用のクラスもあるため、全国から応募が殺到しているようだ。


(聖奈の方を見れない……完全に否定すると泣かれるからな……)


 聖奈はもう草根高校のハンターを募集している総合学科へ奨学生として入学することが決定しているので、進学の話が出るたびに期待を込めた瞳を俺へ向けてくるようになった。


「それよりも、今は境界を消すことを優先しませんか? 雪も積もってきそうです」

「ぬ……そうだな。澄人が境界に慣れる目的があったな」


 ちょうど話の区切りがよいところで師匠の言葉を止め、境界を探すために歩き始める。

 すると、自然に俺の横へきたお姉ちゃんが軽く肩を叩いてきた。


「次は私と入るからよろしくね」

「お姉ちゃんと? ……俺がすることあるかな?」


 香お姉ちゃんは聖奈と同じ剣を使用するアタッカーのため、俺が行えるのは補助と範囲攻撃が主になる。

 ただ、お姉ちゃんは【草壁流剣術】というスキルを使用して斬撃を飛ばすことができるので、俺がやることがほとんどなくなってしまう。


「澄人様、香さんは私とのじゃんけんで勝っただけなので考える必要ないですよ」

「じゃんけんで決まったんですか……」


 なぜ師匠がお姉ちゃんとの突入する練習をさせるのかと意図をくみ取ろうとしたら、後ろから夏さんが声をかけてきた。

 お姉ちゃんは機嫌良さそうに鼻歌まじりに話しかけてくる。


「夏は私の次になったから、3つ目も探してあげてね」

「軽く言いますよね……あ、ここです」


 俺が立ち止まった瞬間、待っていたかのように目線ほどの高さに青い線が生まれ始めた。

 それを見守っていたら、いまだに師匠だけが信じられないような目で俺のことを見てくる。


「もう2つ目……正澄様でもこんなことできなかったぞ……」

「境界を探すのはスキルでもなんでもないんですけど」

「それが信じられん……夏、危険度を測ってくれるか?」

「はーい」


 境界の青い線が安定したため、夏さんが境界の測定を開始しようとしていた。

 そんな時、何かのミッションを達成したのか、緑色の画面が現れる。


【ミッション達成】

 境界を100回発見しました

【危険度調整】機能を解放します


「え!?」

「澄人様、どうかされましたか?」

「あの……えーっと……」


 なんだろうと表示された文章に目を通すと、思わず声が出てしまった。

 夏さんが作業を止めて、首をかしげながらこちらを見ている。


(なんて言えばいいんだろう?)


 解放された機能がどのようなものかわからないので説明するのにも困っていたら、新しくできた境界の手前に画面が移動した。


【危険度調整】

 現在の機能では、【1】ランクの変化が可能です

 変更する場合は5000ポイントが必要になります


【 ↑ 】 【 ↓ 】

 

 俺の悩みを解決するように機能の詳細が分かったので、それを読むように4人へ説明を行う。


「これで俺が100回境界を発見したから、新しく危険度の調整ができるようになったみたい……です」

「本当にそんなことが!? やってみてもらってもいいですか!?」


 計測をしていた夏さんが俺に詰め寄り、興味津々の様子で寄り添ってきた。

 他の3人は疑いの目を向けてきており、師匠はおもむろにスマホを取り出して電話をかけた。


「待て澄人、本当に変化するのか確認をする。まずは境界の難易度を観測センターで計測してもらう。香、電話を頼む」

「は、はい!」


 師匠からスマホを渡されたお姉ちゃんが慌てながら両手で受け取り、話を始める。

 現在の場所を伝えてから少し待っていると、お姉ちゃんがこちらにも聞こえるように口を開く。


「本当にこの境界の危険度は【C】なんですね? 清澄ギルド4名での突入を申請します」


 確認をするように話をしたお姉ちゃんが電話を切り、スマホを師匠へ返した。

 すると、師匠は深呼吸をしてから俺と目を合わせてくる。


「澄人、Bにするのは危険だから、Dに変化してもらえるか?」

「やってみます」


 危険度を下げるために下矢印を選択すると、5000ポイントを使用して実行するのか確認する画面が表示された。

 境界線から漏れる青い光を見てから一呼吸置き、本当に下げられるのかどうか不安になりながら実行する。


「下げてみました。どうですか?」

「今から境界の計測をしてみます」


 夏さんが作業中だった機器の操作を再開し、境界の危険度の計測を始めてくれた。

 作業中、夏さん以外の全員がなぜか緊張しながらその様子を眺めてしまう。


「危険度……【D】です。本当に下がっているようです……」

「夏、本当にDだった? 間違いじゃないの? もう1度測ってみてくれない?」


 お姉ちゃんが夏さんへ疑うように声をかけ、再度計測するようにうながしていた。

 しかし、夏さんは意味がないと言いながら首を振り、計測機器を片付け始める。


「私もそう思って2回計測しましたが、この境界は確実にDランクです」

「そうなの……」


 夏さんが境界の計測を間違えるのを見たことがないので、この境界は本当にDランクになってしまっている。

 新しく獲得した機能をどのように使うのが良いのか考えていたら、夏さんが言葉を続けた。


「広さん、Dなら香さんと澄人様で大丈夫ですよね?」

「あ、ああ……そうだな……」


 師匠にそう言われてから俺とお姉ちゃんは突入準備を整えて、青い線に向かって歩き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る