第2章~草根の土地~

進路選択編①~訓練の成果~

「聖奈!! 討ち漏らしたゴブリンを頼む!!」

「わかった!」


 60センチほどしかない緑色をした子鬼のようなモンスターが群れの中心に俺と聖奈がおり、異常を察したゴブリンがこちらへ向かおうとしていた。

 洞窟の空間を眺め、周囲を一掃できるように魔力を調整し、火の精霊へ俺が見える範囲のゴブリンを焼き尽くしてもらう。


「火の精霊よ!!」


 魔力に意思を込めることで名前や命令を省略することができるようになり、今では呼ぶだけで自分の思い通りの効果を発揮してくれるようになった。


 俺を中心に炎の波が発生し、襲いかかってきそうな数十体のゴブリンが火だるまになる。

 辺り一帯が火の海になり、生き残りがいないのか注意深く周囲を確認する。


「お兄ちゃん大きいのが残ってる!!」


 そう言いながら聖奈が炎の中へ飛び込もうとしていたので、道を作るために魔力を追加する。

 聖奈の体へ防火の膜を付与するように頼み、奥へ目を向けるとゴブリンロードと敵の名称が表示された。


「聖奈! ゴブリンロードがいる!」

「それがわかれば大丈夫!!」


 ゴブリンよりも二回り以上大きな群れの主が生き残っており、体にまとわりついた炎をうっとおしそうに掃っている。


「大地の精霊よ!!」


 聖奈がゴブリンロードとの戦いに専念できるよう、周りから奇襲を受けないために壁を作り出す。

 しかし、俺が壁を作った瞬間、聖奈はゴブリンロードの首を切断して、戦いを終わらせてしまった。


「お兄ちゃん心配しすぎ、これでも私はビショップ級なんだよ?」

「そうは言っても油断しちゃだめだろう」


 炎の海が消え、残っているゴブリンがいないことを確認してから、貴重な物がないか境界内を探索する。


【境界内活動時間 残り 1:14】


 スマホでも計測をしているが、念のために境界の残り時間を表示させるとまだ1時間以上残っていた。


「聖奈、1時間14分残っているから、ゆっくり探そう」

「あれ? また1時間継続するのを使ってくれたの?」

「まあ、200ポイントしか使わないし、その方が安全だろ?」

「ありがたいけど……お兄ちゃん、能力上げているの?」


 何かないのか薄暗い境界内の壁をさぐっているときに、聖奈が手を止めてじーっと俺を見つめながら質問をしてくる。

 広じいとの訓練を開始してから3ヵ月ほどが経っており、自分の能力を確認しながら返事をした。


【名 前】 草凪澄人

【年 齢】 15

【神 格】 2/2《+1:50000P》

【体 力】 1200/1200《+100:1000P》↑

【魔 力】 1400/2500《+100:1000P》↑

【攻撃力】 E《1UP:5000P》

【耐久力】 E《1UP:5000P》

【素早さ】 E《1UP:5000P》

【知 力】 D《1UP:10000P》

【幸 運】 D《1UP:10000P》

【スキル】 精霊召喚(火・土)・鑑定 □

【貢献P】 2000


「ナイト級にならないように、体力と魔力を中心に上げているよ」


 広じいからナイト級以上になってしまうと、協会へ召集することがあると聞かされた。

 そして、今の俺はあまりそういうことに関わらない方が良いとアドバイスを受けたため、階級を上げないようにしている。


 貢献ポイント1万で獲得した【鑑定】のスキルを使用しながら壁を注意深く見ていたら、ミスリルと表示された。

 そこを持っていた小さな携帯用ツルハシで叩き、かけらを手に入れる。


「聖奈、これミスリルだよな?」

「危険度Eの境界なのにミスリルがあったの!?」


 確認のために聖奈を呼んだところ、ゴブリンロードを見つけた時よりも驚きながらこちらへ駈けてきた。

 俺が差し出した小石ほどのミスリルを手にして、嬉しそうに俺へ笑いかける。


「ミスリルがあるなら、今回はだいぶ稼げそうだね」

「たくさんあることを祈るか」


 聖奈から返したもらったミスリルのかけらを握りしめ、辺り一帯の洞窟を眺めた。


「大地の精霊よ!」


 ミスリルを回収するように意思を込めて大地の精霊に呼びかけると、地震のように地面が揺れ始める。

 ガラガラと天井が砕けるように岩石が落ち、洞窟全体が崩れそうになってしまう。


 足元に回収された両手で抱えられる大きさのミスリルをアイテムボックスへ放り込み、境界を出るために走り出す。


「境界を出よう」

「うん!」

 

 時間を余らせつつも境界を出ると、いつものように青い画面が表示される。


【ミッション成果】

 ゴブリンを40体討伐

 ゴブリンロードを1体討伐

 5000の貢献ポイントを授与します


 フィールドミッションだけでここへ入る前に使用した【境界耐性(1日)】のポイントを獲得することができた。


「お疲れ様です。これをどうぞ」


 境界を出ると、たき火を囲みながら外で待っていた3人が立ち上がり、夏さんが俺と聖奈へ体力の回復薬を渡してくれる。


「ありがとうございます。けど、俺は体力が減っていないので大丈夫です」


 雪が舞う寒空の下で待たせてしまったので、申し訳ないと思いながら頭を下げる。

 今回、俺は体力を消費しなかったので受け取らずに、アイテムボックスからミスリルの塊を両手で抱え出す。


「師匠、これをお願いします」

「これはまた……すごい塊だな……とりあえず、そこへ置いておいてくれ」

「はい」


 地面へ置くように指示をされたので、割れないように注意しながらゆっくりと塊を降ろす。


 広じいはこの3ヵ月で、俺に魔力の制御やモンスターとの戦闘方法の基本を教えてくれた。

 メリハリをつけるために、今のように訓練中は【師匠】と呼ぶようにしている。


 この大きなミスリルは協会経由で販売されるため、通常なら発掘者等の情報が漏れてしまうが、師匠に任せるとその心配がなくなるらしい。


(夏さんがハンター協会の顧問であることをうまく利用しているって言っていたっけ)


 今は5人でCからF程度の境界がよく出現する場所まで遠征に来ている。

 少し休憩をしていたら、直感が働き、境界が生まれそうな違和感を察知した。


「師匠、あっちのほうで境界が発生しそうです」

「そうか……澄人、中学卒業後の進路は決まったのか?」

「……今言わないとだめですか?」

「そうだな。香や夏とも話をしていたが、お前には【あの高校】へ進学してもらいたい」


 3人は俺と聖奈がダンジョンへ突入しているときに俺の進路について話をしていたようだった。

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