これからの目標⑥~草凪家へ~

 車で向かっていると、俺以外の3人の表情が固くなり、口数が少なくなっている気がした。

 理由を聞こうとしたら、一番表情を暗くしていた聖奈が不安そうに前に座る2人に話しかける。


「今の草凪の家には【あの人】がいますよね? 通してくれると思いますか?」


 答えにくいことだったのか、2人とも口を開かずに黙ったままだった。

 質問をした聖奈も誰がいるのか知っており、2人の横顔を見て何かを言おうとした口をつむぐ。


「聖奈、誰がいるのか知っているの?」

「うん……それは……」


 聖奈は答えずに気まずそうな顔になって、運転をしているお姉ちゃんへ視線を向けている。

 その視線に気づいたのか、お姉ちゃんは運転をしながらため息をつき重い口を開いた。


「私の祖父がいるのよ」

「お姉ちゃんのおじいちゃん? それなら、事情を説明すれば入れてくれませんか?」

「どうかしら……家主のいなくなってしまった草凪の家に誰も入れないようにしているみたいよ」

「なんでそんなことを?」


 俺が質問をすると、夏さんが答えにくそうにしているお姉ちゃんの代わりに後部座席に顔をのぞかせる。


「……正澄様が最後・・に頼んだことのようです」


 おじいちゃんが最後に残した言葉で、お姉ちゃんの祖父の方が今も家を守り続けているそうだ。

 しかし、俺にはどうしても気がかりなことがあるため、話が終わって前を向こうとした夏さんを呼び止める。


「おじいちゃんはなんでその人と会うのが最後だってわかったんですか?」

「それは……その……」


 目が泳いでしまった夏さんが助けを求めるようにお姉ちゃんを見ている。

 しかし、お姉ちゃんは首を振り、何も言うつもりはないようだった。


「【境界地震】に巻き込まれたお父さんたちの捜索をするために、意図的にレッドラインを作ったの」

「レッドラインを作る!? そんなことができるのか!?」

「お兄ちゃんはその前日に記憶を封印されて、あの部屋へ閉じ込められたの……おじいちゃんも境界に閉じ込められたまま帰ってこなかった……」

「そんな……」


 前に座る2人が口を開かないので、聖奈が悲しそうに話をしてくれている。


 俺は聖奈の説明を聞き、自分以外にも境界を生み出すことができる人がいることに驚いてしまう。

 さらに、両親やおじいちゃんが境界内で行方がわからなくなったことを認識すると、急に強烈な頭痛が襲ってきた。


「いっつ!?」

「お兄ちゃん大丈夫!?」


 痛みに耐えられず、両手で頭を抱えてうずくまってしまった。

 横に座っていた聖奈が俺の肩に手を回し、倒れそうな俺の体を支えてくれている。


「澄人!? どうしたの!?」

「澄人様!? なにがあったんですか!?」


 異変に気付いた前の2人も俺のことを気にしてくれているようだったが、答える余裕がない。

 頭が割れるように痛く、何度も何度も鐘のような音が鳴り響いてそのたびに強烈な頭痛に襲われている。


 車が停車すると、3人は後部座席に座る俺を横に寝かせてくれた。

 3人に見下ろされていたので、まだ続く頭痛の中、なんとか声を絞り出す。


「ちょっと休めば大丈夫……心配かけてごめん……」


 頭の中がかき回されるような感覚に、吐き気を感じてしまう。

 車内で吐くと大変なので、必死に我慢をしていたら夏さんが俺の頭に手を当てる。


「この者に癒しを」


 夏さんがつぶやくように何かを唱えると、頭痛や吐き気が少し和らいできた。

 あまり心配をかけたくないので、体を起こそうとしたら夏さんに頭を押さえられて止められる。


「澄人様はここで待っていてください。その状態で外に出たら、今度は熱中症になってしまいますよ」

「祖父との話は私がつけるから、澄人は安心して待っていればいいわ」

「……ありがとう」


 外から8月の強い熱気を感じ、俺が倒れても迷惑になるだけだと思い、2人から言われた通りこのまま横になっていることにした。


「車のエンジンはつけておくから、ゆっくり寝ていなさい」

「……うん」


 お姉ちゃんの言葉に返事をするとドアが閉められ、3人が離れていく足音が聞こえる。

 俺しかいなくなった車の天井を眺めていたら、頭痛の原因について考えてしまう。


(いったい何なんだ? 最近、頻繁に頭の中で何かが起こっている……)


 時にはアドバイスのような言葉が聞こえたり、今回のように痛みだけ感じたりしている。

 肝心な時に動けない悔しさでため息をついていたら、外で誰か叫んでいるような声が聞こえてきた。


「師匠、話を聞いてください!!」

「相手が香だろうと、何人たりともこの中へ足を踏み入れることは許さん!!」


 言い争うようなお姉ちゃんと初老の男性のような声が車内にいる俺まで届き、3人が家に入れてもらえていないことがわかる。


(俺も行こう……)


 車から出るために重い頭を持ち上げて、なんとか座席に座り直す。


「これ以上、ここへ入ろうとするのなら、貴様ら3人のハンター資格をはく奪する!!」


 その言葉からただならぬ空気を察したため、慌てて外に出るとお姉ちゃんたちが1人の白髪で短髪の男性と対峙している。

 男性は3人をにらみつけており、1歩でも進んだら手に持っているスマホでどこかへ連絡しようとしていた。

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