これからの目標⑤~3度目の計測~

「夏、どうなの? 本当に澄人の神格が上がっているの!?」

「お兄ちゃんの神格が上がるなんてことあるんですか!?」


 2人がそれぞれ俺の神格について本気で考えてくれているようだ。

 聖奈も俺の神格が1以上にならないことを知っているのか、夏さんの言葉が信じられないようにみえる。


「今測っているので待っていてください!!」


 せかされていた夏さんが声を荒げて、お姉ちゃんと聖奈を睨みつけて、離れるように指示を出す。

 測定は慎重な作業をしなければならないと言葉を続け、夏さんは呼吸を整えてから作業を再開した。


 怒られた2人は近くの椅子に座り、夏さんの作業をじっと見つめる。


「出ました……」


 その言葉で、お姉ちゃんと聖奈が同時に立ち上がって夏さんの手元にある画面をのぞき込む。

 腕を解放された俺は、自分の前に表示したステータスと計測結果が同じなのか気になる。


「澄人様……神格が上昇したため、この能力で新しいハンター証の発行を申請します」


 俺は夏さんから渡された紙に書かれた能力を確認して、納得するようにうなずく。


【名 前】 草凪澄人

【ランク】 ポーン級

【神 格】 2/2

【体 力】 840

【魔 力】 740

【攻撃力】 E

【耐久力】 E

【素早さ】 E

【知 力】 D


 俺の表示させたものと同じものが書かれていたので、お願いしますと言いながら紙をテーブルへ置く。

 すると、聖奈が紙を取り、俺のステータスを見ながら何度も目を腕でこすっていた。


「嘘!? どうして!? あんなに計測しても神格の器が【1】しかないって出ていたのに!!」


 聖奈は喜びたいのか、否定したいのか微妙な表情で紙を見てから俺へ近づいてくる。


「あの光が出る剣のことや、本来上がらないはずの神格が上がるのは、お兄ちゃんに特別な能力があるからなんだよね?」


 境界内で俺が言ったことを覚えていたのか、戸惑いながらも俺を見つめながら質問をする。

 草薙の剣については、お姉ちゃんや夏さんも知らないため、説明のためにアイテムボックスから剣を取り出した。


「澄人様、それ……私たちも初めて見ますが、空間魔法ですか?」

「魔法じゃないんですけど、夏さんたちがレッドラインへ入っている間にできるようになりました」


 アイテムボックスはお姉ちゃんたちがレッドラインで戦っているときに獲得したので、その話もしなければならない。


 俺は草薙の剣をテーブルの上に置いて、夏さんと別れてから自分の身に起こったことを順序立てて説明した。

 初めて見るお姉ちゃんと夏さんが興味深そうに俺の方を向く。


「澄人、この剣持ってみてもいい?」

「いいよ」

「イタッ!?」


 聞き終わったお姉ちゃんが草薙の剣に手を伸ばすと、何かに弾かれたように顔をゆがめて腕を引っ込める。

 お姉ちゃんは手をさすりながら夏さんへ顔を向けて剣を指差した。


「夏、お願いできる?」

「ちょっと【視て】みますね」


 夏さんが剣をじっと眺めているので、何をしているのか不思議に思うと、ピコンっと画面が表示された。


【お知らせ】

 現在草薙の剣が【鑑定】されております

 以下の情報を開示しますか?

【草薙の剣】:SSS級

 特性:不壊(壊れることはない)・契約者のみ装備可能

 スキル:神の一太刀ひとたち


【はい】【いいえ】


「香さんおかしいです……何もわかりません」

「あなたがわからないの? なんの剣なのよ……」


 困った表情をする2人の様子から、夏さんの鑑定ができていないことがわかる。


(こんなことも教えてくれているのか……)


【はい】を選択する前に、額に汗を浮かべながら剣をじっと見つめる2人へ近づく。


「すいません、俺の方で認証しないとこの剣を鑑定できないみたいです」

「そんなことまで? それも澄人様の能力なんですか?」

「そうみたいです……わかるようになったと思うので、もう1度視てもらえますか?」


 情報の開示を行い、テーブルの上に置いてあった剣を両手で持って夏さんの前へ差し出す。

 持った時にお姉ちゃんが腕を組んで、もしかしてとつぶやいているのが聞こえてくる。


「香さん……これ……私が価値を視ることができないので……SS級以上のものです……」

「そう……それなら、岩石の巨兵を一振りで倒したっていう話も納得できるわね」

「澄人様はこんなものまでミッションというものでもらえるんですか……いったい何なんですかね?」


 お姉ちゃんと夏さんが剣をみて頭を悩ませる中、聖奈がその横から顔をのぞかせてきた。


「ねえ、お兄ちゃん、おじいちゃんはその本以外になにか残してくれてなかったの?」

「部屋を探してみたけど、何もなかったよ」

「あれ? おかしいな……」

「どうしたんだ?」


 聖奈がどこへやったかなと言って首をかしげ、何かを思い出そうとしている。

 いつまでも剣を出しておくのは危ないので、アイテムボックスへ入れた時に聖奈が1枚の紙を俺へ差し出しながら口を開いた。


「おじいちゃんが最後に私へくれた紙なんだけど、お兄ちゃんこれ読める?」

「これ?」


 聖奈から受け取った紙には、俺がおじいちゃんから残された本に書かれていた文字が並んでいる。

 夏さんが俺の持っている紙を見て、何かわかったようだった。


「これって、たまに境界内で見かけるものですよね? 澄人様これがなにかわかるんですか?」

「うん……これは言語みたい」

「境界内には文字を使う生物がいるってことですか!?」

「俺は境界にあるのは見たことがないけど、おじいちゃんに渡された本はこれで書かれていました」


 夏さんの言葉から、この文字は境界内で見かけるもののようだった。

 その解読表をなぜじいちゃんが持っていたのか、俺にはわからない。


「どういうことだ?」


 紙に書かれた文字を読んで、俺は思わず聖奈に目を向けてしまう。


「どうしたのお兄ちゃん?」

「聖奈と家に戻れ……そう書いてある」

「……え?」

「正澄様の指示なら、草凪の家へ行きましょうか……どうなるかしら」


 お姉ちゃんが車の鍵を手にして、アジトの外へ向かおうと部屋を出ようとしている。

 俺たちはその後に続き、10年間立ち入ることができなかった草凪の家へ入るためにアジトを出た。

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