これからの目標④~4人で食事~

「良い匂いですね。やっぱり澄人様の料理は美味しそうです」

「そんな風に言ってもらえて嬉しいです」


 復活してちゃんと服を着ている夏さんが、椅子に座って料理ができるのを待っている。

 セットしていた炊飯器が鳴り、お米が炊き上がったようなので、茶碗を用意しようとしたら夏さんが立ち上がった。


「澄人様、お手伝いします。お茶碗を出しますね」

「よろしくお願いします。聖奈の分は俺の物を使ってください」

「おはよう2人とも……」


 2人でご飯用意をしていたら、シャワーを終えて普段着になってくれたお姉ちゃんが気まずそうな顔をして現れる。

 料理をしていても下着姿のお姉ちゃんがちらつくため、全力で振り払い平然と対応しようと心掛けた。


「おはようお姉ちゃん。もう少しだから、座っていて」

「え、ええ……ありがとう……」


 お姉ちゃんは俺の様子をうかがいながら椅子に座り、少し安堵したようにため息をつく。

 そんなお姉ちゃんを見た夏さんが、にやけながらお姉ちゃんの前にお茶碗を置いた。


「もしかして香さん、いつもみたいに寝起きは下着でここへ来たんですか?」

「ちょっと夏!? 澄人の前でなんてこと言うの!?」


 からかうように夏さんが笑っており、お姉ちゃんは顔を赤くして恥ずかしそうにしている。

 2人が騒いでいたら、聖奈が廊下から顔を出してこちらを覗いているのが見えた。


「聖奈、おはよう。よく寝れた?」


 俺が聖奈へ声をかけると、2人も騒ぐのを止めて聖奈へあいさつをしてくれる。

 気づかれた聖奈はおずおずと部屋に入ってきて、気まずそうに頭を下げた。


「おはようございます。こんなにゆっくりと休めたのは久しぶりだったので……寝すぎちゃいました……」


 どうやら俺たち3人が揃っているのを見て、寝坊したと勘違いをしているようだった。


「遅れてないよ。よく眠れたみたいでよかった。ご飯は食べれそう?」

「うん……美味しそう……」


 3人分の料理ができたので、聖奈に座ってもらい飲み物の用意をした。

 先ほどまで寝ていた3人が食べ切れるのかあやしい量の肉料理の数々がテーブルに並べてある。


 目を輝かせながら料理を見ていた聖奈へ、横に座っている夏さんが笑顔を向けた。


「澄人様の手作りなんだから、残さず食べなさい!」

「お兄ちゃんの? 本当に!?」

「ああ、そうだよ。食べられそう?」

「もちろん! いただきます!」


 聖奈は両手を合わせた後、フォークをステーキに刺し、ナイフで切ることなくそのままかぶりつく。

 お姉ちゃんや夏さんが聖奈の食べ方を気にすることなく美味しそうに食べてくれていたため、本当にお腹が空いていたようだった。


(聖奈……よほどお腹が空いていたのか……)


 少しだけ聖奈のお皿に乗っているお肉の量を増やし、3人が食べやすいようにテーブルの上を整理する。

 しばらく黙々と食べていた時、ふとお姉ちゃんと目が合い、照れながら箸を止めた。


「澄人は……食べないの?」

「うん。俺は先に食べたから、気にしないで」

「そう? 夏の言っていた通り、本当に美味しいわ、作ってくれてありがとう」

「どういたしまして」


 お姉ちゃんが俺へお礼を言ってくれると、食べていた2人も俺へ美味しいと伝えてくれた。

 あれだけ作った料理が無くなりそうな勢いだったので、一応3人へ質問をしてみる。


「どれだけ食べるかわからなかったから、材料が余っているんだけど、まだ食べられる?」


 3人は同時にうなずくので、俺はキッチンに立ち料理を再開した。

 今ある分を食べ終わったのか、お姉ちゃんがお茶を飲んで一息ついている。


「そういえば、聖奈ちゃんの借金はなくなったわよ」

「え!? もしかして、お姉ちゃんが払ってくれたの?」

「そんなわけないでしょう。草凪ギルドのやつら、聖奈ちゃんをありえないほど低賃金で働かせていたのよ」

「どういうこと?」


 料理を中断してお姉ちゃんの方を向くと、何かの資料と思われる紙束を持ってきてくれた。

 そこには聖奈の境界突入履歴が羅列されており、ほとんど毎日のように低ランクの境界を消滅させている。


「ハンター協会から境界の消滅で支払われる褒賞金と、聖奈ちゃんの給料がありえないほどかけ離れていてね。その差額を請求したら、逆に請求できるようになったわ」


 記録の横には褒賞金の額も書いてあり、一番低いHランクの境界でも10万は貰えるようだ。


「澄人様、失礼します」

「はい?」


 資料に目を通していたら、口元にソースが付いている夏さんが俺の額に手を当ててきている。

 ティッシュを渡そうと手を伸ばそうとしたら、逆の手で体を押さえつけられた。


「動かないでください……嘘……神格が……上がっている?」

「夏!? 本当!?」


 夏さんの言葉を聞いて、聖奈と談話をしていたお姉ちゃんが急に顔をこちらへ向ける。

 食事をしていた聖奈も箸が止まり、俺と夏さんのことを信じられないような目で見てきていた。


 そんな中、夏さんが俺から手を離して、自分の部屋に向かって走り出す。


「測定機器を持ってきます! テーブルの上を片付けておいてください!!」

「ご飯はどうしますか?」

「測定終わったら続きを食べさせてください!!」


 嵐のように過ぎ去って行った夏さんを見送り、言われた通りテーブルの上を片付けようとした。

 すると、まだ食べていた聖奈がかきこむように口へ入れ、すべての皿から料理が消える。


「よく食べれたね……思いっきり盛ったんだけど……」


 まだ口をもぐもぐしている聖奈は満足そうにしており、お姉ちゃんはお皿の片付けを始めた。


「体力が減ったせいなのかもしれないけど、境界に行った次の日はすごくお腹が空くのよ」

「あー……確かに、俺も起きてからいつもよりは多く食べたような気がする」


 聖奈も首を縦に振り、空いているお皿を俺へ渡してくれる。

 お皿の片付けを終え、テーブルを拭いていたら夏さんがガチャガチャと機械を持ってやってきた。


 テーブルの上がきれいなのを確認してから機械を置き、組み立てを始める。


「さあ、澄人様! 測定をさせてください!!」

「よろしくお願いします」


 組立が終わったのと同時に椅子を引かれたので、大人しく座って腕を機械の中へ入れた。

 なぜか3人がそれぞれ緊張した面持ちになり、固唾を飲んでいるように見える。

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