これからの目標③~神格の上昇~

 神格を上げるために自分のステータスを確認したら、腕を組んで一点を見つめてしまった。


【神 格】 2/2《+1:50000P》↑


「5万!? もらえるポイントは2倍なのに、3に上がるためのポイントは5万も必要なのか!?」


 ステータスに表示された必要ポイントを見て、思わず声が出てしまう。


 他の項目は変化がなかったので、神格のポイントだけ上昇率がおかしい。

 3になるのはまだまだ先になりそうだと、感じながら画面を消す。


(とりあえず……着替えて掃除をしよう……)


 汗を吸ったシャツや寝間着を洗濯機へ放り込み、タオルで体を拭く。

 ふと、洗面台についていた鏡が目につき、筋肉質になった自分の体に驚いてしまった。


「……お姉ちゃんの訓練でこんなになったのかな?」


 一晩でいきなり体型が変化したように思えなくもないが、そんなことは起こるはずがない。


(気のせい……か?)


 自分の体をまじまじと観察したことがなかったので、久しぶりにしっかり見て驚いただけなんだと思う。 

 用意してあった服を着てから、近くに干してあった雑巾を絞り、掃除の準備を始める。


――ヴーヴーヴー


 拭き掃除をしようとしたら、寝る前にマナーモードにしていたスマホが震えていることに気が付く。


(夏さんだ。なんだろう?)


 手を拭いてから電話のマークをスライドして、電話に出る。


「澄人様、お休みになられましたか?」

「はい、ちゃんと寝られました。聖奈はどうですか?」

「まだ寝ています……よっぽど疲れていたんでしょうね」

「無理をさせたみたいです。ご迷惑をおかけします」


 電話に慣れていないせいなのか、無意識のうちに離れて見えないはずの夏さんに対して頭を下げていた。

 1人で何をやっているのかと恥ずかしくなり、スマホを持っていない方の手を頬に当てる。


 そんなことをしていると、少し声のトーンを低くした夏さんの声がスマホから聞こえてきた。


「いえ……聖奈さんからあの境界でなにがあったのか聞きました。澄人様がご無事で本当によかったです」

「俺の剣のことも聞きましたか?」

「はい。それについて詳しく教えていただきたいので、これからアジトへ来ていただけますか?」


 聖奈は休む前にあの境界で起きたことを夏さんへ話をしてくれているようだった。

 この【草薙の剣】について知りたいようだったので、掃除をしたらアジトへ向かうことにする。


「わかりました。ライフミッションを行うので、1時間後に向かいます」

「よろしくお願いします。それと……」


 いつもはきはきと話をする夏さんが珍しく言葉を詰まらせ、なにか悩んでいるような感じがした。

 どうしたのかと言葉を待っていたら、えーっと言った後もしばらく間が空く。


「こちらへ来るときに……3人分の食事を買ってきていただくことは可能ですか? その……私も昨日の疲れでベッドから動けないんです……香さんも帰ってきたらそのまま寝ていて……」


 電話を聞いているだけで今のアジトがどんな状況なのか頭に浮かんでくる。

 俺だけ先に休ませてもらっていたので、力になれるのなら買い物くらいなら喜んで行く。


「大丈夫です。任せてください」

「本当申し訳ないです。よろしくお願いします……」


 夏さんは電話を切るまで何回も俺へ謝っており、最後は気が抜けたのか力が抜けていた。


(ライフミッションは後だ。食料をアジトに届けよう)


 お腹が減っているのに動けなくて困っている様子だったので、簡単に食べられる物と食材を買うためにスーパーへ向かうことにする。

 用意した掃除道具を残しておき、財布を持って外へ出た。


 アジトの途中にスーパーがあるので、そこでゼリー飲料や手軽に食べられる物と、1人では普段買わないような大量のお肉を購入する。


(なぜかお姉ちゃんの作る昼食が、がっつり系ばっかりだったから肉料理の方がいいんだろう)


 なんの料理を作ろうか悩みながらアジトに入ると、誰の声も聞こえず、テーブルに買ってきた物を置いて様子をうかがう。


「すみとさまー」

「今、行きます」


 夏さんの机や簡易ベッドがある方向から声が聞こえてきたので、袋から数個飲食できるものを取り出す。

 声の聞こえた方向に向かうと、夏さんが布団から顔だけを出して待っていた。


「夏さん……とりあえず、これを……」

「こんな体勢ですいません……とてもお見せできるような恰好ではないので……」


 恥ずかしそうに布団を両手で持っており、頬を赤くした夏さんのお腹が鳴る音が聞こえる。

 

「すいません!」


 俺がその音に気付くと、夏さんはすばやく布団をかぶって顔を隠す。

 余程我慢をしていたのか、俺が手に持った食料を見ただけでお腹が鳴っていた。


「えっと……枕元に置いておくので食べておいてください。ちゃんとしたのをキッチンで作っていますね」


 昨日はレッドラインや聖奈のことで大変だったと思うので、みんなにはちゃんとした食事をしてもらいたい。

 夏さんの枕元に持っていた物を置き、立ち去ろうとしたら後ろから声が聞こえてきた。


「ありがとうございます……助かりました」


 布団から目だけを覗かせた夏さんがお礼を言ってくれていたので、首を振って笑顔を向ける。


「こちらこそ、聖奈をありがとうございます。少し待っていてください」


 頷く夏さんを一目見てから、キッチンへ向かって材料を並べた。

 主にばら肉とロース、ステーキを買っていたので、フライパンを2つ取り出す。


「まずは時間のかかりそうなステーキから焼こうかな」


 二口コンロの両方にフライパンを並べて、塩コショウなどを振りかけてステーキの下ごしらえを行う。

 フライパンを温めてから牛脂を引き、両方でステーキを焼き始めた。


「おお……匂いだけでも美味しそう……あ、忘れてた」


 ステーキをフライパンへ置いた瞬間に、焼ける音と匂いが漂い、慌てて換気扇のスイッチを押す。


「なつー? 何か買ってきてくれたの?」


 普段家では絶対に食卓へ並ばないような料理を作っていると、通路からお姉ちゃんの声が聞こえてくる。

 換気扇をつけている最中だったので返事ができずにいたら、下着姿のお姉ちゃんが現れた。


 寝ぼけまなこでこちらへきているお姉ちゃんを直視できず、慌ててフライパンへ目を移す。


「俺だよお姉ちゃん。そこの袋の中に食べれる物を買ってきたから見てみて」

「ありがとう……え? すみ……と?」


 袋の中を探るような音が止まると同時に、お姉ちゃんが俺に気付いたようだった。


 後ろを見ると、下着しか身につけていない姿が目に入ってしまうため、俺のことを意識させるためにできるだけはっきりとした声を出す。


「おはようお姉ちゃん! よく寝れた? ご飯、すぐにできるからね!」

「あ、ありがとう……私はシャワーを浴びてくるわ!」


 妙に慌てて離れていくお姉ちゃんの足音を聞きながら、妙にドキドキした心臓を落ち着ける。


(お姉ちゃんも疲れていたんだな……)


 苦労をさせてしまった2人のことを思いながら料理を続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る