これからの目標②~紙の差出人は?~

「なんだろう? さっきの人が残していったのかな?」


 何かが書いてあるようだったので、足元に落ちていた紙を拾い上げて目を通す。


【お騒がせして申し訳ありません。2度と来ないので安心してください】


 あれだけ俺と会おうとしておいて、もう来ないと書置きを残されていた。

 裏に電話番号などの表記もないため、先ほどの男性と連絡をする手段もない。


(あの人が何者で、俺にどんな用があったのか気になってくる……そういう作戦か?)


 外に目を向けて誰かこちらを見ていないのか探すものの、こちらの様子をうかがっている人は誰もいなかった。

 おかしいなと思い、紙を持ったまま首をかしげながら家に戻ると、机の上に置かれたスマホが鳴っている。


 扉の鍵を閉めたことを確認してから、急いでスマホの画面に目を向けた。


(ああ、お姉ちゃんか……なにかあったのかな?)


 表示されていたのがお姉ちゃんの名前だったので、安心するように息を吐いてから電話に出る。


「もしもし、澄人? 今、聖奈ちゃんの家……というか、草凪ギルドにいるんだけど、ちょっとそっちへ向かうのが遅くなりそうだから、寝てなさい」

「そんなにかかりそうなの?」

「そうね……草凪ギルドと協会から人を呼んで話をしているんだけど、少し問題が起きてね」

「問題?」

「詳しくは戻ったら説明をするわ。聖奈ちゃんは無事に荷物が回収できて、アジトで寝かせているから、あなたも休んで」


 お姉ちゃんの声を聞いていても、昨日の夜中から戦って今も重要な話をしているというのに疲れているようには思えない。

 そんなお姉ちゃんが俺のことを気づかって電話をしてくれていたので、その言葉通りに休もうと思う。


「ありがとうお姉ちゃん。大変だと思うけどよろしくお願いします」

「ええ、これくらい任せなさい。それと、もしも澄人の家に草凪ギルドの人が来たら絶対に出ちゃだめよ。私を止めて欲しいとか頼むだけだから、無視しなさい」

「わかった。そうするよ」


 さっきの男性もそうだったのかなと思いながら返事をして、持っていた紙をゴミ箱へ捨てる。

 電話を切る前にお姉ちゃんがおやすみと言ってくれたので、再度お礼を言いながら通話を終了した。


(出なくてよかった。歯磨きをして寝よう)


 支度を整えてから布団に入ると、急激に眠気が襲ってくる。


(そうか……俺もずっと起きていたから……疲れていたのか……)


 思考が回らなくなってきて、目を閉じてそのまま意識を落としていった。

 玄関の扉が叩かれたような音が聞こえたような気もしたが、俺にはそれを対応する気力が残っていない。


(ごめんなさい……もう寝ます……)



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「澄人、よく聞きなさい。わしはこれからお前の記憶を封じる」

「どうして? おじいちゃんはお母さんやお父さんを探しに行くんでしょう?」


 おじいちゃんの言っていることがよくわからず、先ほど大人たちが集まっているのを盗み聞きしていたため、これからみんなで両親を探しに行くことを知っている。


(よくわからないけど、おじいちゃんは僕を置いていこうとしているんだ! ……でも、なんで泣きそうなんだろう)


 いつも笑顔のおじいちゃんが悲しそうな顔をしていたため、暴れるのを止めてじっと目を見つめた。

 僕が大人しくなるとおじいちゃんの表情が穏やかになり、俺の頭を大きな手でなでてくれる。


「落ち着いたか? よく聞いてほしい……お前は生まれながらに試練を背負った子だ」

「試練?」

「そうだ。そして、両親も境界に飲み込まれていなくなってしまった」

「それなら! 僕も!!」

「聞きなさい澄人!!」


 初めて怒ったおじいちゃんの声を聞き、聖奈が見ている前で泣くのはお兄ちゃんとしてかっこ悪いので、手を握りしめて涙が流れそうになるのを我慢した。


 すると、俺の手をおじいちゃんが包み込み、聖奈へ目を向ける。


 聖奈も泣きそうな表情をしており、俺と目が合うとどこかへ行ってしまった。

 その後ろ姿を眺めていたら、おじいちゃんが僕を抱きしめるように背中へ手をまわしてくる。


 おじいちゃんに抱きしめられるのは初めてのことじゃなかったけど、今までで一番強く力を入れられた。


「澄人、もしもお前に記憶が戻ったら、聖奈と家へ帰りなさい」


 耳元で僕にしか聞こえないような小さな声でつぶやいた言葉を聞いても、おじいちゃんが何を伝えたいのかわからなかった。

 

(聖奈とはいつでも一緒に帰れるのに、おじいちゃんは何を言っているんだろう?)


 どういうことなのか聞こうとしても、おじいちゃんが俺を離してくれないので質問ができない。

 苦しくてもがいていたら、部屋に複数の人がやってくる。


「ご当主様、準備が整いました」

「ああ、澄人を連れて行ってくれ。わしもすぐに向かう」

「はい。よろしくお願いいたします。澄人様行きましょう」

「え!? どうして!?」


 おじいちゃんから解放されたら、次は怖い顔をした大人たちが僕のことを無理矢理どこかへ連れて行こうとしている。

 助けを求めるためにおじいちゃんの方を見ると、よく遊んでくれた人と何かを話をしているようだった。


「おじいちゃん!! おじいちゃん!! 僕行きたくないよ!! おじいちゃん!!!!」


 僕が何度叫んでもおじいちゃんの顔がこちらを向くことはなかった。



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「じいちゃん!!」


 自分の声で目が覚めると、汗が噴き出ており、寝間着と布団が乱れている。

 何度も叫んでいたかのように息が乱れていたため、体を落ち着けるために台所でコップへ水を入れて飲み干す。


 深呼吸をしながら椅子へ座ると、涙が流れていることに気が付く。


「何の夢を……」


 最悪の目覚めで、とても悲しい夢を見たという印象しかなく、内容を忘れてしまった。

 ゆっくりと呼吸を行い、体の調子を整えようとしたら、画面が表示される。


【ライフミッション:1部屋、掃除を行いなさい】

 成功報酬:貢献ポイント200


(今日の分のライフミッション……そういえば、起きたタイミングで出るんだったな……)


 気分転換のためにミッションを行おうとしたら、画面を消す前にあることに気が付いた。


「あれ? 貢献ポイントが倍になってる?」


 今まで最初のライフミッションの報酬はポイントが【100】だったのに、今回はその倍になっていた。

 どういうことなのか画面を消せずにいたら、ピコンっと小さな画面が表示される。


【お知らせ】

 神格が2になったので、獲得できる貢献ポイントが2倍になりました


 俺は神格が上がったことによる効果を実感し、思わずガッツポーズをする。


(これから最優先に神格を上げよう!!)

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