自由への指針⑪~神の一太刀~

 剣を持っている手に力を込めると、スキルの使い方を教えてくれているかのように自然に体が動き始める。

 両手で剣を握りながら頭上に構え、遠く離れている相手を目から離さない。


「草薙の剣よ! あの忌々しい敵を倒せ!! 神の一太刀!!」


 言葉と共に剣を振り落すと剣全体から金色の光が放たれ、すさまじい勢いで青い世界を侵略していく。

 草木や大地が吹き飛び、巨兵に当たった先にも光が満ち溢れる。


「すごい……さすがSSS級の剣だ」

「なにこれ……こんなの見たことがない……」


 俺と聖奈のつぶやきが重なりながらも、帯状の光を見守ってしまう。


 光が収まると、剣を振り抜いた先にあったモノすべて・・・が切断されており、巨兵も縦に両断されていた。

 巨兵は瞳から完全に光がなくなり、音を立てて崩れ始める。


【ミッション達成】

 ボスモンスターを討伐しました

 貢献ポイントを授与します


「倒せたのか……」


 完全に岩石の巨兵が崩れたのを見届けてから、一息ついて聖奈へ顔を向けた。


「聖奈、大丈夫か?」

「う……うん……私は平気……いたっ!?」


 立ち上がろうとした聖奈だったが、回復薬を飲んでも右足の怪我までは治らず、うまく力が入らないようだった。

 剣をアイテムボックスへ片付けてから、聖奈の右肩を担ぐように右手を背に回す。


「手伝うから、ここを出よう」

「ありがとう……お兄ちゃん……」


聖奈は俺に肩を抱えられて立ち上がり、境界の外へ出られる青い線に向かって歩き出した。

 歩調を聖奈に合わせながら、先ほど約束したことを確認するように口を開く。


「約束を守れよ。怪我が治ってからでいいから、一緒に家へ帰ろう」

「…………」


 しかし、聖奈は返事をせずに悔しそうに下唇を噛んでうつむいてしまう。

 俺には聖奈が過ごしてきたこの10年間のことがわからないので、すぐに答えられない事情があるものだと察した。


 聖奈を連れて境界から出ると、なぜかお姉ちゃんや夏さんがハンター姿で待っており、他にも複数の人が公園の中で待機をしている。


「澄人!!」

「澄人様!!」

「2人ともどうしたの?」


 俺の姿を見た2人が慌てた様子で駆け寄ってきており、周りの人たちは安心したように笑顔を見せる。


(そんなにポーン級1人が危険度【G】の境界に入るのが危ないことだったのか?)


 事前の計測や申請を行い、正式に手続きを行ってから境界に入ったので、こんなに大げさな対応をされるとは思わなかった。

 前に夏さんから聞いていた話から、【F】や【G】の境界ならポーン級だけでも平気だと認識していた。


「どうしたじゃないわ! なんで澄人が境界に入っていたの!?」

「そうです! 一晩で2回も制限境界が現れたんですよ!! それに……」


 2人の様子や周りの雰囲気から、どうやら俺の考えとは違い、良くないことが起こったような感じがする。

 それに、なぜか夏さんが俺に担がれている聖奈へ睨むような目を向け始めた。


 その視線に気づいた聖奈は、小さくごめんなさいと言いながら俺の手を振りほどき、この場を立ち去ろうとする。


「おい! 聖奈……」

「澄人駄目よ。あの子は【草凪ギルド】で、私たち清澄ギルドとは不干渉の協定を結んでいるの」

「どういうこと? 聖奈は俺を助けに来てくれたんだけど」


 お姉ちゃんは聖奈を追いかけようとする俺の体の前へ腕を出して制止させてきた。

 理由を聞くために立ち止まったら、夏さんが聖奈の背中を見てから俺へ声をかけてくる。


「観測センターから救援要請が発令されたため、待機していた彼女がここにあった境界に入りました」

「救援要請?」

「はい。澄人様が突入後、一時間ほどで境界が不安定になり、危険度が【B】まで上昇したんです」

「それで救援要請ってやつがセンターから出て、聖奈が駆けつけてくれたんだ」

「……そうです……澄人様!!」


 夏さんは俺の胸に飛び込んできて、思いっきり抱きしめてきた。

 突然のことに驚き、お姉ちゃんへ説明を求めようとしたが、涙目で見られていたので何も言うことができなくなる。


「どうしてお1人で境界に入ってしまったんですか!? どれだけ心配したのかわかりますか!?」

「危険度Gの境界は澄人だけでも入れるけど、今回のように何が起こるかわからないの!」


 2人は泣きながら俺が無事に境界から帰ってきたことを喜んでくれており、本気で心配してくれていたことがよく分かった。


 ただ、レッドラインの境界で戦っている2人のことを考えたら、少しでも強くなりたいという気持ちを強く抱いた。


 この街を出ることとは関係なしに、俺の知らないところで必死に危険と戦っている2人の力になりたいと決心したことを伝える。


「ごめんなさい。でも、俺はもっと強くなって2人を支えられるようになりたかったんです」

「反省しなさい……けどそう言ってくれて嬉しいわ」


 お姉ちゃんは小さくため息をつきながら笑顔で俺の頭を優しくなでてくれた。


「きゃ!?」


 誰かが倒れたような音がした方向に顔を向けると、聖奈が男性に押されて地面を転ばされている。


「聖奈!」

「澄人様、駄目です!」

「え!?」


 何が起こったのかわからず、聖奈を助けるために駆け寄ろうとしたら、抱き付かれていた夏さんに止められた。

 何もできないままその様子を見ていたら、40代くらいに見える男性が聖奈を見下ろす。


「お前! ミスリルの剣が折れたとはどういうことだ!? 役立たずのくせにこれ以上借金を増やすんか!?」

「すいません……」

「謝っても無駄だ!! 躾が足りんかったか!?」


 男性に怯えるような聖奈の表情が目に入り、俺は必死に止めてくれている夏さんの手を振りほどく。


「夏さんごめん。今まで離れていても聖奈は俺の妹なんだ……助けてあげたい」

「澄人様……それは……」

「夏、いいわ。澄人の好きにさせて」

「香さん、いいんですか?」

「あの子に手を差し伸べられるのは澄人だけでしょ?」

「……そうですね」


 俺たちの他に公園にいた人は、聖奈を叱るように見下ろす集団が現れてからすぐにいなくなっていた。

 夏さんが手を離してくれたので、この集団が【草凪ギルド】の人たちなのかと思いながら聖奈へ手を差し出す。


「聖奈帰るぞ」

「お前誰だ!?」

「この子の借金はいくらあるんですか?」

「あぁあん!? お前が肩代わりするっていうんか!?」


 聖奈を怒鳴り散らしていた男性や、周囲にいた人たちが俺へ詰め寄り、威嚇してくる。

 ただ、境界の中で命をかけて助けてくれた聖奈の姿が脳裏にちらつき、大人に凄まれても怯まずに口を開ことができた。

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