自由への指針⑩~耐えた先には~

「ぐぅううううう!! まだまだぁあああ!!!!」


 聖奈は紫色の剣を振って、必死の形相で土の波をなんとかやり過ごしている。

 息は絶え絶えになっており、いつ倒れてもおかしくない。


【0:32】


 俺を抱えながら土の波を飛ぶように避けていた聖奈だが、予想外の方向からきた攻撃により左足の太ももに槍が突き刺さってしまった。


 それからは最初のように動けなくなり、剣を振り続けることで波を相殺し、俺のことをずっと守ってくれている。


(もう聖奈には体力がほとんど残ってない……疲労具合が俺の倒れる直前と同じだ……)


 お姉ちゃんと夏さんに連れて行ってもらった時に自分の体調のことを記録していたため、体力や魔力が枯渇しそうなときの症状はよくかわる。


 しかも、聖奈は右足を負傷しているので体力が減るのが早いのだろう。


(【境界耐性】なんてスキルは資料に載っていなかったから、俺の想定よりも聖奈は消耗している……)


 俺は聖奈が命がけで守ってくれた時間、ずっと魔力を右手に注ぎ込んでいた。

 魔力は自然に回復するので、今の俺の右手には溢れんばかりの魔力が溜まっている。


(最後に今ある魔力を全部込めよう)


 この魔力で巨兵を倒す方法を考えようとした時、俺の足元に紫色の剣身が飛んできた。


「キャッ!?」


 残っている魔力を右手に集めていたら、剣が折れる音と聖奈が倒れた音が聞こえてくる。

 もう次の土の槍が迫ってきており、魔力の使い道を考える時間は残されていない。


「大地の精霊へ草薙澄人が命じる!! 俺たちを守る塀を築け!!」


 先ほどよりも範囲を小さくし、頑丈な壁をイメージするために塀という言葉を用いる。

 枯渇した魔力を回復するためにアイテムボックスから回復薬を取り出す。


 飲み干した後は、上半身を起こした聖奈に体力回復薬を差し出した。


「聖奈、これでしばらく大丈夫だから、これを飲んで休んでくれ」

「私……何にもできなかった……」


 激しく肩を揺らしながら呼吸をしており、苦しそうに口を開いていた。

 回復薬を受け取ってくれた聖奈は、持っていた剣を落として小さく首を振る。


「お兄ちゃん……ごめんなさい……私……」

「いいからそれを飲んで」

「うん……」


 躊躇することなく聖奈が苦い回復薬を飲み始める。

 その姿を見ていると、ハンターなら回復薬の味に慣れておくことが必要という夏さんの言葉が本当なんだと実感した。


 回復薬を飲み終わった聖奈の瓶を持っている手が震えているので、まだびくともしていない障壁を眺めながら言葉をかける。


「聖奈だけなら境界を出られるだろ? お前だけでも助かってくれよ」

「……出られない。これだけ長い時間あいつの前にいたから、私も標的にされたの」

「そうか……俺のせいでごめんな」

「お兄ちゃんのせいなんかじゃ……」


【残り時間 0:04】


 ちらりと視界の端にある残り時間を見ると、数分でミッションが終わりそうだった。

 このミッションが終わってもあの巨兵をどうすればいいのかわからないので、悩んでいたら聖奈が俺の袖を引っ張る。


「ねえ、お兄ちゃん……お父さんたちも……こんな感じで死んじゃったのかな?」

「わからない……俺は……なにもわからないんだ……」

「そうだったね……おじいちゃんがそう決めたんだっけ……」


 聖奈は涙を流しながら悲しそうな笑顔を俺に向け、俺の手をにぎってきた。

 祖父が俺に施した記憶の封印についても知っているようなので、何が何でもここから出て聖奈に説明をさせたい。


「聖奈、約束しろ。ここを出たら一緒に家へ帰るぞ」

「……知ってる? あの家・・・は誰も入れなくなっているんだよ?」

「自分の家に入れない理由がわからない……俺はてっきり両親から隔離されたと思っていたんだ」

「それは……」


 聖奈が俺へ何かを言おうとしたら、視界の端にあった赤色の画面が大きくなって正面に表示される。


【残り時間 0:00】


【ミッション達成】

 貢献ポイントを授与します

【チュートリアル終了】

 最高難易度のミッションを達成してチュートリアルを終了させました

 SSS級装備アイテム【草薙の剣】を授与します


 通知が終了すると画面が消え、アイテムボックス内に草薙の剣という装備品が入れられていた。


(この状況で剣を1本もらってもな……)


 普通に操作をすると、聖奈からは何もない空間に向かって手を動かしているように見られるので、視線と思考だけで画面を動かしている。

 剣の詳細を知りたいと考えたら、アイテムボックスの上部に新しい画面が表示された。


【草薙の剣】

 スキル:【神の一太刀ひとたち】を使用可能

(クールタイム72時間)


(神の一太刀……この状況をなんとかできるスキルなのか?)


 アイテムボックスに手を入れようとしたら、聖奈と目が合ってしまう。

 これから空間から剣を取り出すため、聖奈へ俺の能力を隠してもらうように伝える。


「これから俺の力を見せるけど、他の人には黙っていてほしい」

「え……どういうこと? 大地の精霊がお兄ちゃんの切り札じゃないの?」

「ああ……ちょっと複雑でね。いいかな?」


 聖奈が目を丸くして頷いてくれたので、俺はアイテムボックスへ右手を突っ込んで剣をイメージする。

 すると、手のひらに金属のような棒が当たり、それをにぎって引き抜く。


「嘘……空間魔法? SS級のスキル……」


 俺が剣をアイテムボックスから引き抜くと、聖奈が何かを呟いたように聞こえた。

 草薙の剣は黒い両刃の刀身で、全長が70センチほどある。


(本当にこの剣がSSS級の装備なのか?)


 手に持った感じが鉄の剣とあまり変わらないため、握った物を見ながら顔をしかめてしまった。


『スキルっていうのは人生の一部だ。まれに、魂のこもった逸品なら、それを装備から貸してもらうことができる。使うときには心から頼めば、必ず装備が応えてくれる』


 激しい頭痛と共に聞き覚えのある低い声が頭の中に響き、思わず膝をついてしまった。


「お兄ちゃん!?」


 動揺した聖奈が俺の肩へ手を添えてくれたが、何でもないと言いながら立ち上がる。

 心配そうな目を俺に向けていたので、手に持った剣を信じて聖奈へ声をかけた。


「聖奈、見ていてくれ。これが俺の手に入れた力なんだ」

「え……」


 俺は手に持った草薙の剣を振り上げて、崩れそうになっている防壁の向こう側にいる巨兵を見つめる。

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