自由への指針⑨~青い草原の主からの逃亡~
(境界制限!? なんで危険度【G】の境界に適応されたんだ!?)
基本的にBランク以上の境界は20人以上入ることができなくなるという。
そのため、戦うことができなくなったハンターを入れ替えて、常に20人で戦うという手段を用いているそうだ。
ただ、資料を見た限り境界制限がかかる境界は例外なく危険度がB以上だったので、この境界にはかからないはずである。
(なんでそれが……)
俺がミッションの詳細に目を通している時、はるか遠くにいる巨兵が手に持っている岩の剣を振り上げていた。
十分に距離を取っているため、何が起こっても対応できるはずなので、相手の行動をうかがう。
「なにをしようとしているんだ?」
巨兵はその巨大な剣を両手で持ち、剣を地面へ突き刺すように力一杯打ち込もうとしていた。
剣が地面に刺さった瞬間、地面に釘のように鋭く隆起した波が生まれ、俺の方に向かい始めている。
「なんだよそれ!!!!」
波は激流の川のように速く、一直線に向かってきているため、全力で避けようとした。
しかし、俺を追走するように波が進む方向が変化し、いくら走っても逃げられそうにない。
(このままじゃ追い付かれる! それなら!!)
土の釘が俺へ襲う直前に助走をつけて跳躍し、その波を飛び越える。
波は俺が真上に来た瞬間、弾けるようにさらに上へ盛り上がってきたため、俺の背中へ軽く触れた。
そのまま走り出すが、後ろを見ても波はもう追ってくることはない。
安心して前を見ると、再び巨兵が両手で剣を振り上げている。
(まさか!? 同じことをするのか!?)
俺の予想は当たり、再び打ち下ろされた剣から波が発生してしまった。
先ほどと同じように飛び越えてやりすごすものの、自らの足で巨兵へ近づいてしまっている。
(このままじゃ……)
攻撃を避けるように移動をしていたら、案の定巨兵の足元へ誘い込まれた。
巨兵は緑色の目を輝かせて、剣を持ちかえて振り上げている。
(今だ!!)
攻撃が止んだ隙を逃さず、俺も再び巨兵と距離を取り、相手の行動をうかがう。
すると、残念そうに目の輝きを失った巨兵が剣を持ち変えて、波を発生させていた。
俺はそれを何度も繰り返しながら、逃げなければいけない時間を確認する。
【残り時間 2:27】
(このまま同じことを繰り返せばクリアできる!)
そう思った瞬間、本来波を飛び越えた俺の足元にはないはずのものが地面から隆起していた。
(なんでまだあるんだ!? 避ける方法は!?)
何かをしようにも魔力を込める時間はなく、俺の体に土の釘が今にも突き刺さろうとしている。
少しでも痛みを和らげるために、微かに溜まった魔力で土の精霊を呼ぼうとしたら、俺の体が再浮上した。
「な、なんで!?」
「それはこっちのセリフよ! なんであんたが境界に入っているの!?」
「え!?」
声の聞こえた視線を向けると、左右にリボンを付けた髪をなびかせていたため顔が見えず、俺は上下にハンター用の装備を着た女性に抱えられている。
その女性は土の釘を器用に足場として使いながら土の波をやりすごしていた。
地面に着地すると顔を隠していた髪がどき、思わずその女性の名前をつぶやいてしまう。
「
この十年間俺のことを避け続けていた双子の妹である聖奈が助けてくれていた。
聖奈は俺を地面へ優しく降ろし、何も答えることなく腰に差していた紫色の剣を抜いている。
「無能のあんたがなんで境界に入っているの!? 死ぬところだったじゃない!!」
聖奈は巨兵の攻撃を打ち消すように剣を振っており、衝突した勢いで大量の土が舞う。
1つの波を対処するたびに聖奈が顔をゆがめ、必死に俺を守ってくれていることが分かる。
俺は聖奈にこんな能力があることを初めて知り、なにもできていない自分に腹が立つ。
「聖奈ごめん……」
「ここを! 出たら! 話が!! あるわ!!!!」
何か一言口にするたびに巨兵の攻撃が襲ってきており、徐々にその間隔が短くなってきていた。
巨神は連続で剣を振り下して、聖奈に休ませる時間を与えないようにしている。
(このままだと聖奈が消耗して、共倒れになる……何かしないと……)
立ち上がろうとしたら、聖奈が涙を流しながら剣を振っているのに気が付く。
声をかけるために手を伸ばすと、聖奈が涙をまき散らして悲しそうに顔をゆがめる。
「お兄ちゃんの神格ではハンターとしてやっていけないから、私は平穏な道を歩んで欲しかったの!!」
聖奈が本気で俺のことを心配してくれている悲痛な叫びが心に響く。
ただ、今の俺はハンターとして強くなることを心に決めており、強くなる手段も確保している。
(何より、後2時間はあいつから逃げないと、街に出られるから後退はできない!!)
立ち上がりながら魔力を込めて、聖奈の助けになるように土の精霊へ力を借りた。
「大地の精霊へ草薙澄人が命じる!! 奴の攻撃に対抗する防壁を作り出せ!!」
土の波を受けている壁の振動を感じ、1回の損傷具合から数分は時間を稼げそうだった。
魔力が枯渇したので、3本目の回復薬を飲み干しながら、聖奈へ目を向ける。
「お兄ちゃん……精霊召喚したの?」
「聖奈、俺にも戦う力があるんだ。ただ、能力が足りなくて防戦一方でしか抗えない。お前ならあのモンスターを倒すことはできそうか?」
「……あれはA級モンスターの【岩石の巨兵】よ。私たち2人じゃまず無理ね」
聖奈はモンスターのことを知っているのか、諦めたように剣を鞘にしまって腕を組んでいた。
【残り時間 1:57】
振動が鳴り止まない中、俺は残り時間を見て聖奈に提案を行う。
「そうか。なら逃げ続けて救援を待とう」
「それも無理……なぜか、この境界は2人しか入れないみたいだし……私が残るからお兄……あんたは境界の外へ出て」
聖奈は急に顔をそらして、俺を追い払うように手を振っている。
ただ、俺がこの境界から出るとこのモンスターが街に出現するので、退くわけにはいかない。
(ミッションのことを言うわけにはいかないな……そうだ!)
境界から出られなくなった人が助けられたという資料があったことを思い出す。
「それは無理だ。なぜかあのモンスターが出た時から、境界の外へ出られなくなったんだ」
「嘘……標的にされたの……」
「そうらしい」
聖奈も境界から出られなくなる現象について知っているようだった。
十分程耐えてくれた土の精霊が建ててくれた壁が崩れる直前に、聖奈が眉間にしわを寄せて俺の腕を取る。
「必ず守るわ。私があいつを倒す」
その表情は不安を含んでおり、先ほどあの巨兵を見ながら「倒すのは無理」とつぶやいていた聖奈の言葉が頭の中で繰り返された。
(聖奈の手が震えている……)
壁が崩れると土の波が絶え間なく押し寄せてきている光景が目に飛び込んでくる。
【残り時間 1:43】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます