自由への指針⑧~緊急ミッション発生中~

 青く光る芝生が広がる大地を走る俺のことを、数百体に及ぶモンスターが地面を揺らしながら追ってきていた。


(火による直接的な攻撃は効かない……どうすればいいんだ……)


 周囲をモンスターに囲まれているため、一瞬でも止まればやつらの餌食になってしまうだろう。

 このフィールドへ軽い気持ちで入ったのが間違いだった。


(もうあのインナーは常に着よう。そして、アイテムボックスへ剣を入れる!)


 何の装備も持たずに、運動用のジャージだけを着て境界に入るなんてことは二度としない。 

 装備を取りに帰りたいなと少しでも考えた時、見せつけるように画面が表示される。


【緊急ミッション:青の草原で起きたスタンピードの制圧】


 俺の思考が読まれているかのようにミッションの内容を再確認させられた。


「わかっているよ!! 倒せばいいんだろう倒せば!!」


 苛立ちながら画面を手で振り払うように消し、俺の行く手を阻むモンスターを避けながら走る。

 現状、火の精霊による攻撃は無力化されてしまうので、土の精霊に頼むしかない。

 

(この量のモンスターを今の魔力と土の精霊で何とかする方法か……)


【魔 力】 350/500


 どう使うのか迷いながらも、右手に魔力を集め始める。

 自分の体から魔力が消費されていく感覚になりながらも、あることをひらめいた。


(魔力を使いながら回復すれば、より多く集めることができるんじゃないか?)


 左手でアイテムボックスから魔力回復薬を取り出して、一気に飲む。

 夏さんの言うとおりに、何度も飲んでいたら薬のような味が気にならなくなってきた。


 回復薬を飲むと、魔力が補填され、より多く右手に込めることができるようになる。


(これなら……後はモンスターをなるべく多く集めよう!)


 モンスターの行動パターンは走っている途中に観察をしていたので、なるべく多く集まるように誘導を始めた。

 俺の後ろにほとんどのモンスターが集まった時、思い切り地面を踏み込む。


 数メートル程飛び上がり、空中で反転しながらモンスターたちを眼下に捉えた。


(飛行系モンスターはなし! 全部が地上にいるのならやれる!!)


 追ってきていたモンスターは動物系モンスターばかりで、目を血走らせて一心不乱に空中にいる俺へ噛みつこうとその場でジャンプをしている。

 一つ目の巨人も腕を振り上げ、俺が落ちてくるのを待っているようだった。


 現状の把握が終わり、俺の体が落ち始めるので、両手をモンスターへ向ける。


「大地の精霊へ草凪くさなぎ澄人すみとが命じる! 大地よ割れろ!!」


 今の自分に残っているすべての魔力を精霊に捧げ、茶色の光を地面へ向かって打ち出した。

 精霊は茶色の光を強く輝かせて青い芝生の大地をうならせて、モンスターを吸い込んでいく。


「ピギャアアアアアアアアア!!!!」


 モンスターは突如割けた地面へ戸惑うように叫びながら滑り落ち、俺が着地すると同時に地面が閉じた。


「ピギィ!!」

「うをっ!? 生き残りがいたのか!?」


 まだ後方に残っていたイノシシのモンスターは全長2メートルほどあり、長い牙を俺に向けている。


(何か武器はないのか!? 素手だと戦える気がしない!!)


 この数体のために回復薬を飲んで精霊に頼むのはもったいないので、イノシシの攻撃を避けつつ、何もないとわかっていながらもポイントショップの装備品の欄を開いた。


「あ! これだ!!」


○装備品

 ・採取用ナイフ:ゼロP


 チュートリアルで採取があったからなのか、採取用のナイフが0Pで売っていたため、急いで購入する。


 刃の部分が20センチほどしかないが、素手よりはましなので、イノシシの目などの柔らかそうな部位を狙って戦い始めた。

 突進を避けた後に止まった時など、隙があれば攻撃を行い、時間をかけてイノシシを1体ずつ倒す。


【ミッション達成】

 貢献ポイントを授与します


 最後のイノシシのモンスターの心臓を狙ってナイフを突き刺したら、緊急ミッションが終わりを告げてきた。


「はぁ……やっと終わった……」


 全身に倦怠感が襲ってきていたため、体力や魔力があまり残っていないようなので、少し回復するまでこの場で休むことにする。

 ナイフを抜いてから大の字で芝生に寝転び、自分のステータス画面を表示させた。


【名 前】 草凪澄人

【年 齢】 15

【神 格】 1/1《+1:10000P》

【体 力】 20/200《+10:50P》↑

【魔 力】 30/500《+10:50P》↑

【攻撃力】 E《1UP:5000P》

【耐久力】 F《1UP:1000P》↑

【素早さ】 E《1UP:5000P》

【知 力】 D《1UP:10000P》

【幸 運】 H《1UP:100P》↑

【スキル】 精霊召喚(火・土)□

【貢献P】 2000


 今回の緊急ミッションで2000Pを獲得できたので、またステータスを上げることができる。

 自分のステータスを眺めていたら、アジトの資料で見たハンターの能力平均値という資料を思い出す。


(能力的に神格が3のハンターと同じくらいになったけど、次はどれを上げようかな)


 一般的なハンターはこの能力は神格が3にならないと到達できない。

 5で【B】が2つあるお姉ちゃんや、4で【A】がある夏さんは平均とはだいぶかけ離れている。


(まあ、いいや……それよりも自分の能力と向き合おう)


 今までどんな効果が表れるのかわからないので放置していた【幸運】の能力が目につく。

 今回のミッションで2000Pも入ったので、100P使って幸運の能力を上げるために矢印を押そうと腕を動かそうとしたら、地震のような振動とともに俺の体が軽く宙に浮いた。


「なんだ!? グっ!?」


 まだ痛む体を地面に打ち付けられ、何が起こったのか確認しようとした時、ステータス画面が強制的に消されて、赤い画面が割り込んできた。


「嘘だろ!? またなのか!?」


【緊急ミッション:青の草原の主から3時間逃げ切りなさい】

成功報酬:貢献ポイン――


 ミッションの内容に目を通そうとしたら、俺の周辺が暗くなり、頭上には巨大な岩のようなものが迫ってきていた。

 画面を殴りつけるように消しながらその場を離れ、俺に落ちてきたモノの全容を目にする。


「でかすぎるだろ……これから何もないここで3時間も逃げないといけないのか……」


 俺を踏みつぶそうとしていた敵は、岩でできた巨大な兵士のようなモンスターだった。

 あいつが出た瞬間に緊急ミッションが発動したため、おそらくこの兵士がこの草原の主だと思われる。


(3時間逃げ切ってやる!!)


 逃げやすくなる素早さは上げられないので、今回獲得したPをすべて体力へ変換して、青い草原を走り始めた。


【体 力】 420/600


 岩の巨人から離れて、相手の行動に注意しつつ、改めて緊急ミッションの内容を確認する。


【緊急ミッション:青の草原の主から3時間逃げ切りなさい】

成功報酬:貢献ポイント10000

失敗条件:フィールドからの逃亡・ミッション受注者の死亡

未完影響:市街地へのモンスター流出等

《境界制限有》

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