自由への指針②~今後の目標~

「そうですけど……」

「大変申し訳ありません!」


 なぜか夏さんは全力で謝るように勢い良く土下座をしており、完全に床へ頭をつけていた。

 突然の行動に何が起こったのかわからず、助けてもらっている夏さんに土下座をされたら困る。


「夏さん、頭を上げてください!」

「接触が禁止されていたとはいえ、澄人様にこのような生活をさせていたとはまったく知りませんでした! 私の命と引き換えに、手助けをしていなかった自分を悔やみます!」


 夏さんが床に涙をこぼしながら、床にひたいをねじ込むようにこすりつけていた。

 ただ、俺はこの生活に満足をしているので、こんな風に言われたら少しショックを受けてしまう。


 ただ、今夏さんが悲痛な叫び声の中で、気になる言葉が出てきたため、膝を付いて話を聞く。


「接触が禁止ってどういうことなんですか?」

「それは……正澄様より、澄人様がハンターになるようなことがない限りは視界に入ることを禁じ、破った場合には……ハンター資格をはく奪されます……」

「どういうことなんだ……じいちゃん……」

「私にとって、ハンター資格は命と同等です……しかし、この様な状況を……申し訳ありません……」


 夏さんは涙を流し続けているため、落ち着けるために椅子へ座らせる。


(じいちゃん……俺に本を残してくれたりしているのに、どうしてそんなことを……)


 祖父の考えに一貫性がないように感じ、俺のことをどうしたいのかわからない。


 夏さんはそんな祖父に振り回されて、こんな風に俺のために泣いてくれている。

 冷たいお茶が入ったコップをテーブルに置き、ハンカチと一緒に夏さんへ差し出した。


「涙を拭いてください。俺は今の生活に満足をしているので、気にしないでください」

「尊い……ありがとうございます」


 つぶやくように何かを言っていた夏さんから離れて、冷蔵庫に入っていた魚を取り出す。


「じゃあ、俺は料理の続きをしていますね」

「お手伝いをすることはありますか?」

「夏さんはお客さんなのでありませんよ」


 なぜか夏さんが俺を見る目が変わり、なぜか仰ぐようにハンカチを両手で受け取っていた。

 焼き魚と煮物、お味噌汁が完成したので、テーブルに並べようとすると、夏さんが立ち上がる。


「並べるのはお手伝いします」

「大丈夫です。座っていてください」

「……はい」


 なぜか唇をとがらせて、寂しそうに後退る夏さんが少し可愛く思えてきた。

 予備の器へ夏さんの分を盛り付け、こぼさないように注意して配膳を行う。


 エプロンを取ってから夏さんと向かい合うように座ると、期待するような目を向けられて恥ずかしい。


「えっと……お待たせしました」

「作っていただきありがとうございます。いただきます」

「どうぞ……」


 初めて他の人に料理を食べてもらうので、緊張しながら食べ始める。

 夏さんが箸で煮物をつかんでいたので、俺も同じように口へ入れた。


(味は染みているかな? 煮込み時間足りなかったか?)


 食べながら夏さんの反応を見ていたら、左手をほおに添えて笑顔になってくれている。


「おいしいです」

「よかったです。人に食べてもらうのは――」


 初めてですと口にしようとした時、自分の頭の中で見せつけられるような何かの映像が走馬灯のように駆け巡った。


 小さい俺の手が包丁を持っており、同じくらいの女の子が料理を食べて、不味そうにしかめっ面になっている。

俺に料理を教えてくれていた頃のお姉ちゃんがフォローしてくれるものの、頭の両サイドにリボンを付けている女の子は嫌そうにフォークを置いた。


 その女の子が誰なのか顔をよく見ようとしたら、俺の耳に誰かの声が届いてくる。


「澄人様? どうかされましたか?」

「え? いや……なんでもないです」


 夏さんが焼き魚に箸を付けながら俺へ声をかけてきており、頭を振って食べるのに集中することにした。


(あれは誰だったんだ?)


 食事をしながら夏さんと料理についての話をするが、どうしてもあの女の子のことが頭をよぎる。

 食べ終わった後は、手伝うという夏さんを座らせたまま食器を片付けて、テーブルへ2人分のお茶と和菓子を置く。


「少し聞きたいことがあるので、まだお時間大丈夫ですか?」

「はい! 平気です。むしろ、私も澄人様とお話がしたいです」

「ありがとうございます。ちょっと待っていてください」


 夏さんが快く返事をしてくれたので、俺は聞きたいことを書いた紙とペンを持ってくる。

 忘れないためにメモをするためのペンを右手で持ち、質問を読み上げた。


「まず、俺がこの街を出られる条件を教えていただけますか?」

「寂しいことですがお答えします……現在、清澄ギルドに属している澄人様が個人で活動できるようになれば、別の場所へ定住することが認められます」

「個人での活動ですか?」

「はい。ハンターが個人で活動するためには、ポーン級の2つ上、ビショップ級に昇格しなければいけません。その条件は以前お渡しした資料の能力に追加して、神格の数値も関係してきます」

「え!? 神格もですか!?」


 前にもらった階級表では、ビショップ級の条件は能力が【E未満なし、C以上2つか、B以上1つ】となっていた。

 神格について何も書かれていなかったので、夏さんの説明を聞いて、ペンが止まってしまう。


「目安……ですが、ビショップ級では3以上神格の値が必要になります」


 俺の表情を見た夏さんは、冷静に真実だけを言ってくれている。

 聞きたいと言ったのは俺なので、メモへそのことをペンで刻み、忘れないようにした。


 次の質問をしようとしたとき、夏さんが不安そうに俺のことを見てくる。


「澄人様……大丈夫ですか? 顔色がわるそうですが……」

「ちょっと目標が明確になって、焦りました……でも、達成できないことはないと思うので問題ないです」

「それなら良いのですが……」


 神格を1から2へ上げるためには貢献ポイントが【10000】必要になる。

 2から3へ上げるにはどれほど必要なのか想像もつかない。


 ふと、目の前に座る夏さんの能力を見せてもらっていなかったことに気付いた。

 この前一緒に入った境界内でも平気そうに活動していたので、俺よりは高いと思われる。


 好奇心が勝り、メモ帳に書いてある内容を無視した。


「夏さんの能力を見せてもらうことはできますか?」

「え? 構いませんよ。どうぞご覧下さい」


 何のためらいもなく渡されたハンター証を見て、小柄な夏さんが俺よりもはるかに強いことを知ってしまった。


【名 前】 水上 夏澄

【ランク】 ルーク級

【神 格】 4/7

【体 力】 12000

【魔 力】 27000

【攻撃力】 D

【耐久力】 D

【素早さ】 D

【知 力】 A

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