自由への指針①~澄人の生活~
隣の市にあるスーパーで買い物をしてから、走って家へ戻っている。
【ミッション達成】
貢献ポイントを授与します
【ライフミッション:20キロ走りなさい】
成功報酬:貢献ポイント400
その途中で緑色の画面が現れ、ライフミッションの達成と次のミッションを知らせてきた。
画面を消しながら、背負っている荷物を落とさないように気を付けて走る。
(10キロの後は20キロ……労力の割にポイントがもらえないな)
そんなことを考えていたら赤信号になったので止まり、スマホに目を向けた。
【澄人様、今日は何時頃にお伺いすればいいですか?】
具体的な時間を伝えていなかったので、日陰に移動して慣れないスマホの操作を始める。
信号が青になるが、メッセージを打ち終わらないので動くことができなかった。
【夕食を一緒に食べたいと思うので、6時頃いらしてください】
夏さんへ夕方来てもらうように連絡を行うと、信号が再び赤になり待つことになる。
すると、スマホが震え出し、なぜかお姉ちゃんから電話がかかってきていた。
「澄人!? 夏とご飯を食べるって聞いたんだけど本当なの!?」
「本当だけど……なにかあった?」
「なにかって……私だって……」
電話に出ると、なぜかお姉ちゃんが怒りながら夏さんと晩御飯を一緒に食べることを聞いてくる。
理由がわからないので質問をしたら、もごもごとはっきりと答えてくれない。
「ごめん、信号が変わったから切るよ?」
「私も澄人の家でご飯を食べたいの!!」
信号が青になったため、さすがにもう進みたかったので電話を切ろうとしたら、お姉ちゃんの声がスマホ越しに響き渡った。
本気でお姉ちゃんが頼んできているが、残念ながらうちのテーブルには2人しか座ることができない。
そのことを昔家に来ていたお姉ちゃんなら理解してくれると思い、信号の点滅を見送ることにした。
「お姉ちゃん、ごめん、うちのテーブル小さいから3人はちょっと……別の日にどうかな?」
「わ、わかっているわ。急に行けるなんて思ってもいないもの! また、別の日ね? 今度調整しましょう。必ずよ?」
「う、うん……じゃあね」
最後はなぜか畳み掛けられるように言葉を浴びせられ、勢いに負けて電話を切る。
よくわからないので首をかしげながらスマホをポケットへ入れて、信号が変わったため家に向かって走り出した。
家には5時前に着くことができたので、余裕を持って夕食を作ることができる。
購入してきたものを冷蔵庫に入れてから、エプロンを付けて台所に立つ。
「よし。今日は和食だ」
アジトではお肉や濃い味付けの料理が多かったので、今日は出汁を使って煮物や焼き魚を作ることにした。
水に出汁パックを入れて、煮る野菜を切っていたら玄関がノックされる。
来客は夏さんだと思われるけれど、防犯のために確認をしてから扉を開けた。
「こんばんは……少し早く着いちゃいました……」
「大丈夫ですよ。すぐに作るので、待っていてください」
「え!? 澄人様の手料理なんですか!?」
俺が作ると聞いた瞬間、夏さんは持っていた袋を落として口を覆うように驚いている。
よく見ると、夏さんは普段とはちがってきりっとした服装で来ていたため、俺の家を見た後はどこかへ出かけると考えていたようだ。
「すいません……晩御飯をどうするのか相談していませんでしたよね。今からでもどこかへ――」
「ぜひ頂きます! むしろ、そっちの方がいいです!!」
料理を中断しようとエプロンを取ろうとしたら、夏さんが俺の手を握って食い気味に身を乗り出してきた。
そんなに期待されても豪勢なものは作れないため、今からでも1品追加できないか考えてしまう。
いつまでも玄関に立たせるわけにはいかないので、スリッパを用意して夏さんを案内する。
「そ、そうですか……何もないところですけど、どうぞ」
「ありがとうございます。おじゃまします……え?」
俺の家に数歩入った夏さんは、部屋の風景を見ながら立ち止まってしまった。
鍋が沸騰をしていたので、火の調整をしつつ、椅子に座ってもらうように声をかける。
「もう少し時間がかかるので、座って待っていてください」
「は、はい……」
夏さんが座ってくれたので、できるだけ美味しくするために集中して調理を行う。
そういえば、味の好みがわからないので、聞くために振り返ると、なぜか呆然と俺の部屋を眺めていた。
「夏さん、味は濃い目と薄目どっちが好きですか?」
「え!? えーっと……中間でお願いします」
答えてくれていたが、夏さんは椅子に座りながら不安そうにそわそわしていたため、なにか不手際があったらしい。
不安になり、夏さんを不快にさせては招いた意味がないので、今後の人をもてなす時のためにどうすればいいのか知りたい。
「わかりました……それと、すいません、人を招いたことがないので……なにかありましたか?」
「特にないですよ! それより、本当に……ここで住んでいるんですか?」
「そうですけど……どうしたんですか?」
「テレビとかパソコンとかがないので、生活感を感じられなくて」
「ラジオならありますよ。聞きますか?」
「いえ……お気になさらないでください。ちょっと電話をかけてきますね」
夏さんは俺の部屋を再度眺めながら家の外へ出て行ってしまった。
俺は自分の部屋を眺めて、勉強机や布団、食事をするためのテーブル、冷蔵庫などがちゃんとあることを確かめる。
(テレビとかパソコンがないのを気にしていたけど、見たかったのかな?)
音がないのを気にしたと思い、数年ぶりにラジオの電源を入れる。
しかし、電池が切れていたのか、何度か電源スイッチを入り切りしても音が鳴らない。
(必要ないからいいか)
調理の続きを行っていたら、帰宅してからセットしていたご飯が炊けたので、しゃもじでほぐすように混ぜる。
その最中に夏さんが外から戻ってくると、なぜか目を赤くして顔には涙の跡が見えた。
(……なぜ?)
夏さんを30分程座らせていただけで、なぜか泣かせてしまった。
「澄人様、これをどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
泣かれたという反応に戸惑っていたら、夏さんが涙声で最初に落とした袋を俺へ渡してくれた。
中にはどら焼きなどの和菓子が入っているので、テーブルのお菓子入れに並べる。
「澄人様はずっとここで生活をしていたんですか?」
今にも泣きそうな瞳を俺に向けており、俺はなんで夏さんをこんなに悲しませてしまったのか頭を悩ませた。
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