初心者ハンター澄人⑧~2人のこと~

「まず、私は草壁家……草凪家の一族を守護する家に生まれて、あなたを守るように正澄様から頼まれたの」


「あの遺言があったから?」


「それもあるけど……まあ、今はそう思っておいて」


 お姉ちゃんは真剣な話をしているはずなのに、ほんのり顔を赤くして俺から少し目をそらす。


 すると、次は夏さんが持っていたサンドイッチを置いて、俺を見る。


「私は草凪家の方を導く役割を担う、水上家……を勘当されかけたとき、正澄様から澄人様を頼むと言われ、そのために生涯を捧げる決意をしております」


「勘当されかけたんですか?」


「ほとんどされています。私が水上家の敷居をまたぐことはありません」


 夏さんはそう言い切り、家から出されたことに対して後悔なんて微塵も感じていないようだった。


 そこまで言われると、なんで勘当された理由を聞きたくなったが、俺が質問をする前にお姉ちゃんが口を開く。


「本当は後1人清澄ギルドに所属している人がいるんだけど……今は紹介できないの」


「……俺が目立たないように?」


「その人が日本でも有数のハンターでね。別の任務中なのよ」


 私よりもはるかに強いと言っており、先ほど境界内でみたお姉ちゃんの移動速度や剣を振るう姿を思い出す。


 それよりも強い人のイメージが持てず、身を乗り出して話を続けた。


「お姉ちゃんよりもすごいって……クイーンとかキング級ってこと?」


「等級では認定されている中で一番上のキング級よ」


「すごい人なんだね」


「歳も澄人様より一回り以上離れており、本来なら保護者の役割を担うんですが……正澄様や分家の方々がそれを良しとしませんでした」


「じいちゃんは何を考えていたのかな……」


 2人ともそれはわからないと苦笑いをしながら言っており、俺は眼を閉じて自分の考えを導き出してみることにした。


 祖父はアジトを用意してくれており、お姉ちゃんや夏さんなどの人たちへ俺のことを助けるように言葉を残してくれた。


 その反面、俺をあの小さい家に閉じ込め、敷地内には人を近づけないようにもしている。


 祖父の考えがわからず、頭を悩ましていたら、俺は靴箱の上にあるメモ帳の存在を思い出す。


(敷地内に俺以外が入れないのなら、あのメモ帳でやり取りをしている相手は誰だ?)


 2人の口調では、俺が断片的に記憶を思い出すまで、接触はしないようにしていたと思われる。


 とりあえず、メモ帳の存在を知っているのか、確かめることにした。


「話が変わるんだけど、うちの靴箱の上に何があるのか知ってる?」


「急になに? 夏、分かる?」


 2人を見ながら質問をしたら、お姉ちゃんの言葉を聞いて夏さんがすねるように唇を尖らせてそっぽを向いた。


「私は1度も澄人様の家へ行かせてもらっていないのでわかりません!」


「何もないですけど、来ますか?」


「行かせていただけるのなら!!」


「大丈夫ですよ。今度ご招待しますね」


「はい!!」


 夏さんが目を輝かせて俺のことを見つめてくるため、念入りに部屋の掃除することにした。

 

 2人ともメモ帳の存在を知っているようには見えない。


 メモ帳については家に帰ってから考えることにして、次は俺が目立ってはいけない理由の予想の答え合わせを行う。


「俺がハンターとして目立っちゃダメなのは、分家の人たちの中に邪魔だと思っている人がいるからだよね?」


「邪魔というよりも、消したいと思っている勢力と、傀儡として当主になることを望んでいる勢力がありますが……両方ともろくなことを考えておりません」


「あんなやつらを澄人には近づけさせないようにしてくれているから安心しなさい」


 夏さんはうんざりするように肩を落とし、今の分家にはまともな人がいないと首を振っていた。


 お姉ちゃんは敵視するように眉をひそめ、手を握りしめている。


(この2人は俺のことをとても大切に考えてくれている……ありがとうございます)


 言葉に出すのが恥ずかしいので、少し頭を下げながら心の中で感謝を伝えたら、体を起こした時に2人が驚きながら顔を真っ赤に染めて俺を見ていた。


 何かあったのかと思っていたら、夏さんが地面へ頭を着けそうな勢いで下げる。


「そんな風にお礼を言われるようなことはやっておりません! 澄人様こそ私たちの急な申し出でハンターになっていただきありがとうございます!!」


「あ……えっと……声に出てた?」


 思っていたことを口に出してしまっていたようで、夏さんは照れるように顔を緩めている。


 お姉ちゃんの反応を見ようとしたら、立ち上がって後ろを向いていた。


「す、澄人! 食事が終わったから、午後も境界を探すわよ!」


「わ、わかった! 片付けをするね」


「こっちはいいから、貴方は車で休んでいなさい!」


 お姉ちゃんは終始俺の方を見ずに指示をしてきている。


 車へ戻る時、かすかに見えたお姉ちゃんの耳が真っ赤に染まっているように見えた。


 午後の境界突入は難航を極め、再開してから発見した3つ目の境界線の危険度を測定している夏さんを俺とお姉ちゃんは見守っている。


 すると、夏さんは機器を片付けて残念そうにため息をついた。


「危険度【D】です……香さん、どうしますか?」


「回避よ。何度も言うけど、今回はFまでの境界までしか入らないわ」


「そうですよね……座標を登録しましたが、そろそろ報告をしないと他の人に見つかりますよ」


「今回の分だけ報告よ。まさか、1日で5カ所も見つかるなんて……」


 チラリと俺を見てくるお姉ちゃんは、複雑そうな表情をしていた。


 腰に手を当てて困ったように俺を見てから、スマホを取り出して電話をかけ始める。


 機器を片付けた夏さんが俺の横に来て、お姉ちゃんの電話の内容を聞いていた。

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