初心者ハンター澄人⑦~草凪家について~
「2人とも見つめ合って何をしているの?」
「夏さんから能力を隠すように言われていたんだ」
「そうね、あなたが複数の精霊を扱えるとなると、騒がしくなる連中が現れそうだから注意しなさい」
夏さんから目を放せずにいたら、お姉ちゃんが少し額に汗をかいて戻ってくる。
すっきりとした顔をしているお姉ちゃんも俺の能力を隠すように助言をしてくれていた。
「もう大丈夫だから、精霊に頼んでみるね」
「ええ……夏、澄人どうしたの?」
「少し草凪家のお話をしていました」
「それは――」
お姉ちゃんと夏さんが相談を始めたので、俺は少し離れた場所で精霊を呼ぶための準備をした。
先ほどと同じように土の精霊に頼み、岩石と金を混ぜて複数の塊を作り出す。
岩へ集まっていた金が混ざり、俺が両手で抱えられるほど大きさのある金鉱石がいくつかできあがる。
それを持とうとしたらふらついてしまい、話をしていた2人が慌てて俺の方へ駆け寄ってきた。
「大丈夫?」
「魔力を使用した後は、無理をなさらないでくださいね」
2人から休むように言ってくれているけれど、境界に入ってから精霊の召喚と休憩しかしていないので、意地でも他のことをしようと思った。
「平気だよ。俺も運ぶから」
腕に力を込めて金鉱石を持ち上げるものの、重さに足が震えて、支えられずに落としてしまう。
それから何度か持ち上げようとしたが、もう地面から浮かすことさえできなくなっている。
そんな俺の腕をお姉ちゃんがつかんで、岩を持ち上げるのを止めてきた。
「疲労が溜まっているのよ。体力が少なくなっているんじゃない?」
「そうなの? 体が重い気がするけど……」
「ハンターとして初めて境界に入ってこれだけできれば上出来よ。外に出て、後は私たちに任せなさい」
再びお姉ちゃんと夏さんが金鉱石を持って境界の外に出るので、それに付いていく。
境界の外へ出た瞬間、俺へ見せつけるように青い画面が現れた。
【ミッション結果】
ゴブリン8体討伐
貢献ポイント400獲得
境界の外には先ほど運び出した石が並べてあり、2人は持っていたものその付近に置いた。
画面を消して2人の様子を眺めていたら、お姉ちゃんだけが中へ戻ろうとしている。
「じゃあ、夏、澄人を頼むわね」
「はい。香さんも油断しないでください」
「もう敵は残っていないわよ」
お姉ちゃんは笑いながら1人で境界へ戻り、夏さんは俺へ寄り添うように肩へ手をまわしてきた。
「転ばないように支えるので、安心してください」
「……ありがとうございます」
正直、境界内から戻るときにも何度か転びそうになっていたので、俺よりも身長が低い夏さんの助けを借りることにした。
断ったら夏さんに俺が転ばないように気を使わせてしまいそうなため、素直に抱えられた腕へ体重をあずける。
「さあ、車まで戻りましょう」
小柄な体の夏さんは、俺のことを支えているとは思えないほど安定して車まで戻ってくれた。
「これを飲んでください。体力が回復します」
「またこれ?」
「グビッと飲んでください! 苦いのもなれますよ」
助手席に座ると、前に飲まされた緑色の液体が入った瓶を差し出される。
薬が濃縮されたような味が忘れられず、夏さんに渡された瓶を両手で持ったまま飲めない。
【体 力】 10/150
ステータスで体力を確認すると、お姉ちゃんから指摘されたようにほとんどなくなっていた。
(本当にこれを飲めば体力が回復するのか……)
体がしんどいままなのは辛いので、瓶に口を付けて勢い良く飲み干す。
口の中に濃厚な薬品の味が広がり、ツンとした刺激臭が鼻に付く。
すべてを飲み干すとこみ上げてくるものがあるので、我慢して飲み込み背もたれに寄りかった。
(これで回復していなかったら、2度と飲まない!)
ゆっくりと呼吸を行い、体力が回復しているのか確認する。
【体 力】 150/150
夏さんの言う通り、体力の数値が最大まで戻ってしまっていた。
(体力がなくなるたびにこんなものを飲み続けなければならないのか……)
少しハンターになったことを後悔しつつも、体が楽になったので、夏さんへお礼を言う。
「ありがとうございます。楽になりました」
「よかったです。本当は自然回復が一番なんですけど、枯渇寸前まで減っちゃうと倒れてしまうので気を付けてください」
「はい……」
しばらくするとお姉ちゃんが車に戻ってくるので、外でサンドイッチなどを食べることになった。
食事中、境界から持ち出した金鉱石を引き取ってもらっていたようで、そのことについて教えてもらっている。
ハンターを束ねている草凪家の影響があるのか質問をしたら、お姉ちゃんが首を振って否定した。
「警備とか取引は公的な機関が行ってくれているから、ハンターには手出しできないの」
「まとめていても?」
「今なんて特に口出しできないわ。勝手に代行している人の言うことを役人が聞くと思う?」
「確かに……」
今回引き取ってもらったものは、後日明細がギルドへ送られてくるそうだ。
危険度Fにしては稼げたんじゃないかと夏さんが言っている時、お姉ちゃんが食事を終えて俺を見る。
「少し草凪家や、【私たち】の話をしましょうか」
お姉ちゃんは両手でサンドイッチを持っている夏さんの肩に手を添えていた。
確かに俺はお姉ちゃんと夏さんの関係をほとんど知らない。
「よろしくお願いします」
俺は姿勢を正して、お姉ちゃんの話に耳を傾けた。
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