初心者ハンター澄人⑥~土の精霊~

(やるだけやってみるか!)


 2人にばかり働かせてしまったので、俺は自分のできることを挑戦してみたくなった。

 魔力が半分程度まで回復しているため、新しい精霊を使いたい。


 軽く土を探っただけで出てきた物に自信がないので、2人に見てもらいたかった。


「ちょっとやってみたいことがあるんだけど、【金】ってこれでいいんだよね?」

「確認しますね」


 土の中から発見した数粒の砂金を手のひらに乗せて、2人へ差し出す。

 夏さんが土の付いた指でつまみ、光に当てて注意深く見てくれていた。


「これは金で間違いありませんが……何をするんですか?」

「金の【回収】をしてみようと思います」

「どのように?」

「これからお見せしますね」


 不思議そうな顔をしている2人から離れ、砂金を握りしめる。

 土の精霊と書かれているが、なんだか語呂がわるく感じたので、直感で思い付いた名前で召喚を行う。


 火の精霊を召喚した時よりは魔力の量を抑え、地面に手を向けながら範囲を狭めるように言葉を選んだ。


「大地の精霊へ草凪澄人が命じる! 周辺に存在する金を俺の前へ集めろ!」


 手のひらから魔力が解放されると、地面に向かって魔力が飛散する。

 すると、地面が揺れ始めるので、慌ててその場から逃げるように離れる。


 俺のことを見守ってくれていた2人は、血相を変えて駆け寄ってきた。


「澄人、大地の精霊ってどういうこと!? 召喚できるのは火の精霊だけじゃなかったの!?」


「この前できるようになったんだ。隠すつもりはなかったんだけど、使うタイミングがなくて」


 お姉ちゃんは俺の両肩をつかみ、土の精霊を呼べるようになったことを聞いてきた。

 夏さんも興奮した様子で俺のことを見てきていたが、頭に落ちてきた物を見て、息を呑む。


「香さん! ここから離れて!!」


 2人は突然俺から勢い良く距離を取り、地面を滑りながらこちらを向く。

 その直後、俺の目の前にぽつぽつと音が鳴り始め、滝のように金が流れ落ちてきた。


「すごい……これが全部金なんだ……」

「もう少し魔力をくれればもっと回収できたよ。またねー」

「ありがとう」


 耳元で無邪気な男の子のような声が聞こえたと思ったら、すぐに帰ってしまった。

 もういない土の精霊にお礼を言ってから、俺の身長程に積まれた金を眺める。


 お姉ちゃんや夏さんは異変を感じてからすぐ、この金に押しつぶされる前に逃げており、まじまじと金の山を見ながら近づいてきた。

 お姉ちゃんは腕を組みながら金を見下ろして、横に立つ夏さんへ顔を向ける。


「夏、これどうすればいいと思う?」

「運んでもいいですけど、香さん上手く誤魔化せますか?」


「境界から金だけを持ち出すなんて聞いたことがないわ。なんて言えばいいの?」


 お姉ちゃんから質問をされた夏さんは額に手を当てながら考えてくれており、ふと穴を掘った時に出た土砂を注視し始める。


 そして、納得するように1度うなずいてから俺を見た。


「……澄人様、いくつかの岩石へこの金を混ぜてもらうことはできますか?」

「今は魔力が心もとないから、少し休憩したら精霊に頼んでみます」


「それができたら持ち出しても不審がられないので、よろしくお願いします」

「それなら、私は周りの掃除をしてくるわ。夏、澄人をよろしくね」


「はい。わかりました」


 お姉ちゃんは黒い剣を鞘から抜き、草が残っている場所へ向かって疾風のように駆けて行ってしまった。

 すると、お姉ちゃんが向かった方向から何かが飛ぶようなものが見え始める。


「澄人様、他に私たちへまだ見せていないスキルはありますか?」

「もうないですけど……」


「精霊を2種類召喚できるハンターはほとんどいません」

「そうなんですか?」


「はい。複数の精霊を召喚できるだけでも非常に珍しいので、【今】はできるだけ他人へ見せないようにしてください」


 夏さんは俺を心配するように声をかけてくれており、願うような目を俺へ向けてきていた。

 俺はなぜ目立ってはいけないことと、自分の能力を草凪家の人間から隠す理由を知りたくなる。


「その訳を教えてもらうことはできますか?」


 俺を見上げていた夏さんと目を合わせて、ずっと疑問に思っていたことを口にした。

 すると、夏さんは金の山から離れた場所に座り、俺を見る。


「話が長くなるので、こちらで座ってください」


 夏さんの正面に座ると、俺の目を見つめながら夏さんが口を開く。


「話をする前に、澄人様は【ご両親】のことをどこまで覚えておりますか?」

「それが……名前や顔も思い出せないんです……」

「なるほど……それはおそらく、今の草凪家の当主を代行している分家の方々が澄人様の記憶を封じ込めたからだと思われます」

「記憶を……封じ込める?」


 普通なら笑ってしまうようなばかげた内容には身に覚えがある。


 他でもない、俺自身が祖父のことやお姉ちゃんのことを忘れており、疑問に思っていたからだ。


 その時のことを振り返ると、本を読んだり、直接会ったり、そういった何かのきっかけで思い出せそうな気がする。


 両親に関することや、分家と呼ばれる人たちのことを聞かされ、混乱してしまいそうな頭を落ち着けるために深呼吸を行う。


(俺が今聞かなければいけないことを質問するんだ……)


 冷静になるように努め、息を深く吐いて話を続けることにした。


「俺の両親は、家にいないんですね」

「そうです。また、今、澄人様がお住まいになっている土地には、澄人様を含めて立ち入ることを禁じられております」

「誰に?」

「草凪正澄様によってです」

「え……じいちゃんが?」


 夏さんの口から、俺の味方だと思っていた祖父の名前が出てきて、耳を疑ってしまった。

 俺だけはあの土地にある小さな家に入ることが許されており、他の人は立ち入ることさえ難しいと説明してくれていた。


「現在、草凪家の当主は不在で、分家の方々が代行で日本中のハンターをまとめる任に就いております」

「え!? 草凪家の当主が日本中のハンターをまとめるんですか?」


「そうです。しかし、代行ではその役割が果たせていないため、組織としては動いておらず、個々のギルドが勝手に活動しているのが現状です」

「…………」


 続く言葉が見つからず、夏さんの目を見つめたまま何も言うことができなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る