初心者ハンター澄人⑤~草原フィールドにて~


 魔力が無くなると体が動かなくなると言われたので、ステータス画面で魔力の残量を確認すると、やりすぎてしまったことを知った。


【魔 力】 20/250


(20しか残っていないのか!? そんなに使ったか……)


 加減が分からなかったので、ある程度込めたつもりだったが、9割以上の魔力を使ってしまっていた。

 それを意識してしまったら、急に体から力が抜け、何度も振った剣が重く感じるようになる。


 自己分析を行い、このまま草原へ向かっても十分に戦えないと判断し、立ち止まった。


「ちょっと休憩したいんだけど、いいかな?」

「魔力が無くてしんどいんでしょう?」

「その通りです……」

「いいわよ。なら、ここに座って、リュックを降ろしなさい」


 お姉ちゃんは俺の体調を把握しているかのように、労りの言葉をかけてくれていた。

 倒れたいほどしんどいので、素直に焼け焦げた地面へ座り、リュックを降ろす。


「じゃあ、これから採掘を始めるから見ていなさい」


 夏さんとお姉ちゃんは荷物を降ろし、周囲を警戒しながらなにかを採掘をする準備を始めていた。

 お姉ちゃんは荷物から折りたたまれていた【ツルハシ】を組み立てており、夏さんは腕に付けた機器のようなものを地面へ向けている。


 ツルハシを組み立て終わったお姉ちゃんは俺のそばにたち、夏さんへ真剣なまなざしを送っていた。

 お姉ちゃんの顔を見上げて、夏さんが何をしているのか質問をする。


「お姉ちゃん、夏さんは何をしているの?」

「今は地中の金属探査を行っているのよ」

「金属探査? どうして?」

「境界領域内は貴重な金属が採れることが多くて、モンスターを倒して安全になった場所で採掘を行うの」

「これだけ広く燃やしたから、ここ一帯は安全って判断してくれたの?」

「そうね……澄人がここまでやるのは予想外だったけど……」


 しばらくすると夏さんが腕に付けた機器を見つめたまま動かなくなり、何度かうなずいてからお姉ちゃんへ手招きをしていた。


「香さん、ここに大きな何かが埋まっています。掘りましょう」

「わかったわ。澄人、一応周りを見ておいてくれる?」

「任せて」


 夏さんはスコップを取り出して、反応を示していた周辺の地面を掘り始める。

 お姉ちゃんもツルハシを置いて、スコップを持って作業をしていた。


 2人はみるみる掘り進め、周りに土の山ができあがると、お姉ちゃんが穴の中から飛び出してくる。


「結構大きい金塊だから、ツルハシで割って取り出すわ」

「じゃあ、私は出ますね。お願いします」


 夏さんも穴から飛ぶように脱出しており、休んで体が楽になった俺は何が起こっているのか聞くためにそこへ近づいた。

 ほんのり首筋に汗をかいた夏さんは水分補給をしており、ペットボトル飲料に口を付けているときに目が合ってしまう。


「体調は大丈夫ですから?」

「休んだら良くなりました……金鉱が見つかったんですか?」

「はい。この危険度にしては大きめの金鉱が見つかりましたよ」

「採掘作業はよくあることなんですか?」

「そうですね……Dランク以下の境界ではモンスターの素材よりも採掘の方が金銭的には良いですね」

「そうなんですか……」


 夏さんの話では、このように低ランクの境界領域では地中に埋まっている貴金属を採掘することが多いということだった。

 そのため、低ランクの境界を発見するだけでも情報料が支払われるのだという。


「ちなみに、この前澄人様が発見したCランクの境界は【2千万】で取引されましたよ」

「……え? 情報料だけでその値段なの?」

「はい! Cランクではモンスターの素材も貴重で、さらに鉱石も珍しいものが採れますからね」

「そ、そうなんだ……」


 境界を見つけた時にもらえる情報料については金額を聞いていなかったので、2千万ということを聞いて頭が追い付かなくなっている。

 俺が混乱していたら、両脇にスイカよりも大きなキラキラと光る岩を抱えたお姉ちゃんが穴から飛び出してきた。


「あれ? 澄人もう平気なの?」

「うん。休ませてくれてありがとう……それが……」

「ええ、金鉱石よ。夏、まだまだあるから、運ぶのを手伝ってくれる?」

「はーい。含有率が高そうでよかった」


 お姉ちゃんは抱えていた金鉱石を地面へ落とし、再び穴へ飛び込んでいった。

 俺は土の付いたまばらに光る金鉱石を触って、どんなものなのか確かめる。


(重い……それに、こんな金が多い石は見たことないぞ……)


 俺が両手で持ち上げられる物を2人は簡単に穴の中から外へ運び出していた。

 地面に置いてからじっくりと金鉱石を観察すると、やはり含まれている金の量が多い。


 普通の金鉱石は含有率が非常に低く、1トンの石から数グラムしか金を取ることしかできない。

 しかし、お姉ちゃんが抱えてきたこの金鉱石はそれをはるかに上回っているように見えた。


 俺は2人が金鉱石を運んでいる様子を眺めることしかできず、瞬く間に複数の金鉱石が地面へ転がる。

 お姉ちゃんはそれを見下ろしながら、俺へ謝るように両手を合わす。


「ごめん、澄人、量が多いから外へこれを運び出してもいい?」

「うん。俺も手伝うよ」

「運び終わったらこのフィールドの探索を再開するから、澄人は休んでいて」

「……わかったよ。休む」

「ありがとう」


 俺は境界の出口付近に待機して、2人が金鉱石を運び終わるのを待つ。

 待っている間、暇なので俺の手で土を手ですくってみたら、かすかに光っているように見えた。


 別の場所の土を確認しても砂のような金の粒があり、思わず自分の周辺を見渡してしまう。


「澄人、どうかしたの?」

「もう終わったんだ」

「ええ、そうだけど……何かあった?」


 2人は手馴れており、30分もしないうちに全ての金鉱石を外へ出し終わっていた。

 お姉ちゃんは、自分の体の周りを挙動不審に見ていた俺のことを心配するように声をかけてきている。


「えっと、もしかしてだけど、この土に混ざっているのって、【砂金】かな?」

「そうですよ。小さな金鉱なら多数存在するので、土にも多少金が含まれていると思います」

「なるほど……」


 夏さんが当たり前のように答えていたので、俺は地面を見つめながら新しく獲得した【土の精霊】が使えないのか考え始めた。

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