初心者ハンター澄人④~境界領域の試練~

「いてっ!?」


 俺が境界にはいると、宙に放りだされて尻餅をつくように草の生い茂る地面へ落とされる。

 ガサっという音とともに、草が潰された匂いが鼻につく。


 上半身を起こすと、その様子を2人に見られており、微笑ましいものを見るような目を向けられていた。

 すると、緑色の画面が現れ、新たなミッションを知らせてくる。


【ライフミッション:境界内へ1回入りなさい】

 成功報酬:貢献ポイント200

 注意:同じ境界に入ってもカウントされません


 画面に目を通すと、もう別の境界に入るようにミッションが発生していた。


(入ったばかりだぞ……それにここはなんだ?)


 画面を消してから後ろを振り向くと、夏さんは別の機器を取り出して作業をしており、近くの草を黒い剣で刈り取りながらお姉ちゃんが近づいてくる。


「境界に入る時は大体空中へ放り出されるから、着地する練習をしなさい」

「入る前に言ってよ……」

「ふふっ。体験しないと覚えないでしょ? 次は大丈夫ね?」

「もう落ちないよ。気を付ける」


 地面に打ったお尻をさすりながら立ち上がり、周りに目を向ける。

 今回は洞窟ではなく、開かれた場所で腰の高さまで草が伸びているため、周りにはなにもない。


 夏さんが境界に入ってもなにかの作業をしていたので、そちらに目を向けるとお姉ちゃんが口を開く。


「夏が境界を安定させる作業をしているから、待っていてくれる?」

「安定? これをやらないとどうなるの?」

「滞在時間を長くできるのよ。普通は1時間くらいで強制的に出されるんだけど、これをすると3時間まで伸ばせるの」

「3時間もここでなにをするの?」


 回答されるのを待っていたら、それを遮るように俺の前に【青い】画面が表示された。


【フィールドミッション:この境界内のゴブリンを討伐せよ】

 成功報酬:貢献ポイント1体につき50

 失敗条件:ミッション受注者の死亡


 その画面を見ていたら、夏さんが俺たちに向かって叫ぶように声をかける。


「モンスターが近づいています!! 注意してください!!」


 お姉ちゃんは返事をすることなく周囲を警戒しており、俺も同じように目を向けると、他方から草のガザガサこすれる音が聞こえてきていた。

 相手の姿が見えないのが恐怖なので、手に魔力を集中させる。


「モンスターがくるわ、剣を抜きなさい」


 お姉ちゃんは周囲に気を配りつつも、じりじりと俺へ近づいて指示を出してきた。

 ただ、このまま相手が分からないまま戦うのは怖いので、火の精霊を召喚する。


「火の精霊へ草凪澄人が命じる! 見渡す限りの草を一掃しろ!!」


 俺の魔力が解き放たれ、辺り一面に生い茂っている植物が炎に飲み込まれながら焼き払われる。


「ギギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 それと同時に断末魔のようなものが聞こえ、草が焼かれた後に火だるまになっている塊がいくつも現れた。


(あれがモンスターか!?)


 俺は腰の剣を抜き、炎がまとわりついている物体を注視する。

 しかし、すべての塊がそのまま地面に倒れて動かなくなり、黒こげになるまで焼き尽くされた。


 お姉ちゃんが草を刈っていたこの場所は火の精霊が燃やす範囲にはしなかったので、後ろを振り向くと地面に2つの影が見える。


(ん? なんだ?)


 お姉ちゃんと夏さんは炎に焼かれると思ったのか、上空にジャンプしており、焼かれていない草地へ着地した。

 これからどうするのか聞こうとしたところ、お姉ちゃんは頭を抱え、どうしたものかと困り果てている。


 夏さんは機器を大事そうに抱えたまま涙目になっており、苦情を言うように俺へつめ寄ってきた。


「澄人様! 精霊を使うなら一言お願いします!」

「草だけを燃やすつもりだったんですけど、まさかこんなことになるとは……」

「さすがにこの炎ならまだ私たちは大丈夫ですけど、服が燃えると恥ずかしいので……」

「すいません……」


 夏さんとお姉ちゃんを丸裸でこの草原に立たせることになる可能性があったようだった。

 今度から精霊を使う時はそういうことを配慮しなければいけないと心に刻んでいたら、お姉ちゃんが黒い塊を俺の足元へ置く。


「うっ!?」


 鼻が嗅いだことのない嫌な臭いを感じ、思わず顔をそらしてしまった。

 お姉ちゃんは見なさいと言いながら、塊を俺へ見せつける。


「これはゴブリンといって、小さいけど道具を使い、集団で襲ってくるわ。低級のうちは苦労するモンスターだから、覚えておきなさい」

「集団……」


 俺の足元に置かれたものは真っ黒に焦げており、原型がわからなくなっていた。

 同じように60センチほどにまとまっている塊が周囲に8つほど見えるので、こいつらは俺たちを集団で攻撃しようとしていたのだろう。


(草だけを燃やすつもりが、モンスターまで巻き込んじゃうとは……)


 スライムを倒した時以上の炎が草原を駆け巡る光景を思い出すと、今まで感じたことがない感情が胸に満ちてきた。

 まだまだ先に草原が広がっているので、進もうとしたらお姉ちゃんが前に立ちふさがる。


「澄人、精霊を使うと強すぎて訓練にならないから、次は剣で戦ってもらえる? それに、魔力を使いすぎると体が動かなくなるから、注意しなさい」

「わかった」


 鉄の剣を抜いてから、燃え残っている広大な草原に向かって歩き始める。

 足を進めながら、必死に訓練で行った剣の振り方をイメージしていた。

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