初心者ハンター澄人③~貢献Pの行方~
画面を見つめていると、夏さんとお姉ちゃんが不思議そうに俺の顔を見ていた。
何かと思って2人のほうに顔を向けたら、お姉ちゃんが眉をひそめながら口を開く。
「本当にそこにあなたの能力が書いてある画面が表示されているの?」
「そうだよ。そうなんだけど……」
今見ている画面は説明をするためにこれまで何度も2人の前で表示したが、俺にしか見えないようだ。
いつものことなので、気にせずステータスへ目を向けて反省を行う。
(スキルの横にある【□】を選択してしまったことが、失敗した原因だ)
見間違いではないかもう1度スキル欄にある□を指でなでると、画面が切り替わる。
【取得可能スキル一覧】
武器基本 【済】
魔法基礎 【済】
この【済】となっているものを取得すれば、次になにか選択肢が出ると思って2つ同時に貢献Pを使用してしまった。
それぞれ2000P必要だったので、これだけで4000P使用することになり、ハンターになってから貯めたPがほとんどなくなる。
しかし、現在このように済となっているものの、何も選択肢は出ていない。
その結果、再計測をされてから能力の増減はなく、意味の分からない幸運にPを振る気にもなれなかった。
画面を消してため息をつくと、お姉ちゃんと夏さんは俺の背中へ優しく手をそえてきた。
「じゃあ、澄人、道案内よろしく!」
「澄人様、よろしくお願いします!」
あえて理由を聞かないでくれている2人は俺の気分を察したのか、妙に元気良く声を出して俺の背中を押してくる。
やってしまったことにいつまでもくよくよしていられないので、直感を信じて2人へ進む道を指示した。
「あっちの方へ行きましょう」
俺は先頭を歩き始め、違和感を探すべく森へ足を踏み入れた。
足を進めていると、なぜかこの森全体が揺らいでいるような感覚におちいり、特に気になる場所を探し始める。
「澄人様、どうですか? 見つかりそうですか?」
「んー、わかんないです……」
20分ほど迷いなく歩いていたら、夏さんが後ろから声をかけてきた。
そこら中から微妙な違和感を覚えていたため、特に行きたい方向へ本能的に進んでおり、何時着くのか俺にもわからない。
お姉ちゃんが一心不乱に進む俺の横に並び、困ったように苦笑いをしながら俺の横顔を見てくる。
「澄人、無理して探さなくてもいいからね。無理そうだったら、機材を取りに車へ戻ってもいいから」
「そう言ってくれてありがとう……あ、ここだ」
「え?」
「嘘……」
俺が立ち止まると、目の前に立つ木の幹に沿って薄い青い線が走り始めていた。
ひざ下あたりから頭上まで線が伸び切った後、線から青い光が漏れる。
「見つけられてよかったです」
見つけられて安心したので、後ろを振り返ると2人がなぜか絶句して境界線を眺めていた。
俺の視線に気づいたお姉ちゃんは、ハッとして急に左手につけている腕時計を確認する。
「歩き始めてから、19分……今日は何カ所回れるかしら……」
「香さん……それよりも、私、境界が生まれる瞬間なんて今まで見たことないですよ……」
「大丈夫よ夏。私も初めて見たから」
2人は境界線から目を離さず、俺が見つけた木を穴が開くほど見つめていた。
青い線が走る様子を俺はこれまで何度も見ていたので、これが普通かと思っていたらそうではなかったようだ。
それを言うとさらに驚かれそうなので、そのことを口に出さず、境界を見つけた時の対応をする。
「夏さん、危険度を測ってもらってもいいですか?」
「え!? あ、今すぐ取りかかりますね」
夏さんは背負っていた計器を地面へ降ろし、アンテナのようなものを青い線に向ける。
その作業風景を観察していたら、少し離れた所でお姉ちゃんが電話をかけ始めていた。
「ギルドの草壁澄香です。境界を発見したので警備員を派遣してください。場所は――」
お姉ちゃんは境界に一般人を近づけないための人を手配してもらっており、それと同時に夏さんがお姉ちゃんへ向けて両手で6本の指を立てる。
「危険度は【F】、突入メンバーは私と水上夏澄、草凪澄人の3名です。よろしくお願いします」
「すごい……」
慣れた様子で報告と危険度の測定をする2人を見て、思わず感心するようにつぶやいてしまった。
俺の声が聞こえていたのか、電話を遮ることなくお姉ちゃんに伝えた夏さんは計器を背負い直し、少し恥ずかしそうに近づいてくる。
「これくらい普通です……けど、褒めてくれると嬉しいです」
「夏さん、測るのが早いんですね! お姉ちゃんの話だと現地計測だと普通30分以上かかるって聞いていましたよ」
「私はかかっても5分でできます。澄人様のために訓練しましたからね!」
素直に褒めると、夏さんは満面の笑みを俺に向けてくれた。
「2人とも、報告が終わったから境界に入るわよ。装備の確認をしなさい」
電話を終えたお姉ちゃんが戻ってくると、境界に入るための最終チェックをするように言われる。
俺は剣を腰に装着して空のリュックを背負うだけだが、夏さんは弓を取り出し、お姉ちゃんは黒色の鞘を持っていた。
ハンターになってから初めて境界に入るので、妙に緊張してくる。
目を閉じて何度か深呼吸を行い、スライムと呼ばれたモンスターの現れた洞窟を思い出す。
(境界領域では常識は通用しない……なにが出ても驚かずに生きるための行動をする……よし!)
お姉ちゃんから教わった境界内での動き方を復習し、目を開けると笑顔で2人が俺のことを見ていた。
「覚悟はできた? 行くわよ?」
「うん。行こう!」
先に入り俺は力強く足を踏み出し、境界へ突入した。
【ミッション達成】
貢献ポイントを授与します
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