初心者ハンター澄人②~境界探索へ~

「澄人、境界に入る前にしなければいけないことを言ってみなさい」

「警備の人を手配してもらうことと、境界に入る人と時間の報告と――」


 ワンボックスを運転しているお姉ちゃんが、助手席に座る俺をちらりと見てから質問をしてきていた。

 何度も説明をされたことなので、つかえることなく答えていると、後部座席に乗る夏さんが感心するようにうなずいてくれている。


「後は自分が持っている装備の最終チェックだよね?」

「そうよ。まあ、今回は夏がほとんどのことをやってくれるけど、忘れないようにね」

「うん。夏さん、よろしくお願いします」

「お任せください! 澄人様は安心して境界の攻略に専念してくださいね!」


 夏さんが胸の前で両手を握りしめて、小さくガッツポーズをしながら気合を入れていた。

 窓の外を見ると、街からはだいぶ離れており、自然豊かな山々に囲まれている。


 お姉ちゃんへ境界に入るのがミッションだということを伝えたところ、ちょうど良いと言われ、朝からこの白いワンボックスの車へ、境界の危険度を測定する機材や使用する装備を積んで移動している。


 ポーン級の俺でも、ルーク級のお姉ちゃんに同行という形であれば、危険度が非常に高い境界以外のところには入れるという。

 また、今回は境界境域内で実地訓練も行うというので、【3人】一緒に車へ乗っている。


 意外だったのは、白い肌の外見からインドア派だとばかり思っていた夏さんも同行しており、一緒に境界へ入ると言っていた。


 自分の街から出たことがなかったので、新鮮な気持ちで窓の外を眺めていたら、お姉ちゃんが注意をするように声をかけてくる。


「これから行くところは、比較的危険度が低い境界が出やすいところなの。私たちも一緒に入るけど、見守るだけで手助けはしないつもりよ」

「こうして連れていってくれるだけで嬉しいよ。ありがとうお姉ちゃん」

「聞いていたの? 私は手を貸すつもりはないからね!」


 ハンドルを握るお姉ちゃんは俺の言葉が心外なのか、少し怒り始めてしまった。

 しかし、このようにわざわざ遠出をしてまで安全な境界を探そうとしてくれているので、お姉ちゃんには感謝の念しかない。


「だから危険度の低い境界を選んでくれているんでしょ? 教えてもらったことを生かして精一杯戦うよ」

「もう! なら、緊張感を持ちなさい!」


 お姉ちゃんは頬をふくらましながら不機嫌そうに言っていたが、目元が緩んでおり嬉しそうに見えた。

 後ろにいる夏さんも俺の肩を軽く叩き、お姉ちゃんに指を向けながら笑っている。


 それから、車は森の中へ入り、ほとんど道幅に余裕がない道路を進んでいった。

 森の中に空いている何もない原っぱに車を停めて、エンジンを切ったので目的地へ到着したようだった。


「さあ、着いたわよ。降りて準備をしましょう」


 お姉ちゃんはそう言いながら車から出て、後ろの荷台のドアを開けていた。

 俺も車から降りて、車の中に入っている機材のセッティングをしているお姉ちゃんを手伝おうとしたら、夏さんがその手を止める。


「香さん、今回は澄人様の【勘】を頼りに境界を探しませんか? その方が身軽になれますよ」


 車の後ろにはハンターの能力を計測するような計測機器が多数積まれており、持ち運びできるものでも10キロのお米の袋よりも大きい。

 それが境界を発見する携帯用の機器で、有効範囲は300メートル程らしい。


「夏……あなた本気なの? いくらここが境界の生まれやすいところだからって……」


 夏さんはお姉ちゃんが立ち上げた機器の電源を全て切り、お姉ちゃんを車から追い出した。

 境界で戦うための装備が入った鞄だけを車から出してドアを閉めると、夏さんがお姉ちゃんを見つめる。


「本気ですよ。普通のハンターでも、街中で観測機器よりも早く見つけることは、数年に1度……いや、今の機材になってからは聞いたことがありません。それなのに、澄人様はこの短い期間で【5回】も発見しているんです! 私はそれを目の前で見てみたいんです!」


 訴えるように熱弁する夏さんを見て、お姉ちゃんはため息をつきながら自分の鞄を拾う。


「わかったわ。今日は澄人の勘に委ねましょう。危険度を計測する機器は軽いから夏が持ちなさいよ」

「ありがとう香さん! 大好き!!」


 夏さんはそう言いながらお姉ちゃんに抱き付こうとするが、頭を抑えて止められていた。

 そんなことを気にすることなく、お姉ちゃんは肩をすくめて俺へ顔を向ける。


「はいはい。澄人、今日は頼むわね」

「頑張ってみるよ」


 夏さんはお姉ちゃんに頭をはたかれると、抱き付くのを諦めて渋々準備を始めていた。

 ハンター用のインナーは服の下に着ているので、お姉ちゃんから貰った鉄の剣が入っている鞄を肩で担ぐ。


 このインナーは境界で入手された鉱石の繊維でできており、刃物では切り裂けない強さと、服として着られるしなやかさを持っている。

 1着で7桁するというので、境界に入るとき以外はアジトに保管するように言われていた。


 初めてこのインナーに袖を通したが、着心地が良く、体にフィットして動きやすい。


 夏さんも機材を背負うように持ち、準備を終えたようだった。

 すると、お姉ちゃんはそういえばと言いながら、俺の方を向いてくる。


「澄人、毎日ミッションをこなしているけど、ステータスは上げているの?」


 俺は答えづらい質問をされて、頬を何度か指でかいてしまった。


「えーっと……微妙……」

「どういうこと?」

「話せば長いんだけど……」


 俺はやらかしてしまったことを思い出しながらステータス画面を表示させて、今の能力を確認する。

 

【ステータス】

【名 前】 草凪澄人

【年 齢】 15

【神 格】 1/1《+1:10000P》

【体 力】 150《+10:50P》↑

【魔 力】 250《+10:50P》↑

【攻撃力】 E《1UP:5000P》

【耐久力】 F《1UP:1000P》

【素早さ】 E《1UP:5000P》

【知 力】 D《1UP:10000P》

【幸 運】 H《1UP:100P》↑

【スキル】 精霊召喚(火・土)□

【貢献P】 600

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る